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楽しいエレクトロニクス工作

第59回 位相方式SSB (その2)

JA3FMP 櫻井紀佳

前回はメリゴ方式のSSB発生回路を検討しましたが、今回はその流れに乗って受信復調回路を検討してみます。基本的には発生回路と逆方向に、入力信号をマルチプレクサーで順番に切替えてPPSN(Polyphase Phase Shift Network)に通せば、元の音声信号が取り出せるはずです。

ここでの問題は受信信号が弱く、どの程度のレベルにすれば実用になるのかです。受信信号の入力を1μVと仮定して最終出力1Vとすると120dBのゲインが必要になります。

復調前の高周波側でゲインを多く取ると相互変調歪の可能性が増し、その特性が影響を及ぼし、目的外の信号で妨害を受けることになります。また復調後でゲインを上れば復調出力が弱いためS/Nに苦しむことになります。

取り急ぎ復調前で30~40dB、復調後で80~90dBのゲインを取るようにして何度かのカットアンドトライで、前後のゲインを修正したいと思います。

このような点を考慮した受信部全体の回路は次のようになりました。クロック発生部と電源部は前回の信号発生部で使ったものと同じものを使います。

アンテナから入って来た信号を1段で30~40dBのゲインを取るのは難しいため、2段構成にします。高周波増幅は一時評判の高かったFET 2SK125パラレルのGG(Grounded Gate)アンプにしてみました。FETへの入力は、マッチングを取った同調回路で、周波数選択後このGGアンプのソースに入力しています。このFETは、現在は製造されていませんが昔たくさん買ったものが残っていましたのでそれを使うことにします。今でもネット通販で入手可能なようです。このFET段で約10dBのゲインが取れると思います。

高周波増幅部の入力の同調回路は33pFのコンデンサーと約15μHのコイルで直列共振回路を作ります。共振周波数の微調整は、コイルのボビンにねじ込むコアでその同調点を調整します。GGアンプのソースには39Ωのソース抵抗を挿入しています。アンテナインピーダンスは、50ΩなのでC100とC101でインピーダンスマッチングを取っています。この同調回路のシミュレーションの特性は次のようになりました。

高周波増幅の2段目は、この連載の中に何回も出てくるICでμPC1651にしました。相互変調歪が少し心配ですが手軽さを優先しました。

1段目の2SK125パラレルの出力インピーダンスは約450Ω程度で2段目のμPC1651の入力インピーダンス50Ωとのマッチング回路をスミスチャートで求めました。またその特性は次のようになりました。

出力、入力インピーダンスがちょうど450Ωと50Ωでは142pFと3.3μHの逆L回路でマッチしますが、近似値として150pFと3.3μHにしました。このため共振点の特性が少し下にずれてしまいました。

μPC1651で増幅した出力をマルチプレクサー74HC4052に入力し、信号周波数でスイッチしてそれぞれの出力をPPSNのネットワークを通して復調します。このPPSNの出力をIC21A、IC21BとIC20Aで合成したあと増幅しますと合計34dB程度のゲインになりました。

復調された信号の最終出力アンプはNJM7020を使いました。このICは手元にあったもので特別な意味はありません。ただ形状が他の部品と異なり、チップタイプの部品であるため、この部分だけ別の1.25mmピッチの基板で組立て、それをメインの基板に載せる構成にしました。


AF出力基板

この受信部も蛇の目のプリント基板で作りましたが、前回製作した送信の信号発生部とちょうど同じ大きさの基板になりました。

それぞれの部分を外から見える範囲でチェックしてアンテナを繋いでみました。クロック発生回路が固定周波数なので、可変にするため外部からDDS(Direct Digital Synthesizer)を繋いで周波数を可変にして受信してみると一応受信できます。

前回のSSB発生器でも述べたように、振幅の大きいロジック回路を使っている影響で少しノイズっぽい感じがします。このためアース回りなど特に配慮が必要と思います。このままではDXのごく弱い信号を聴きたい用途などにはあまりお勧めできません。

前回の信号発生部と今回の受信部を並べて検討しやすくしてみました。中程に電源部とクロック発生部をおき、両端に信号発生部と受信部を置いています。

相互変調歪について

相互変調歪のある信号を実感として端的に表現すると、沢山の人が入った銭湯の中で話をしているような感じで、目的の相手の話が聞き難い状態になります。一方この特性のよい受信機では個室で二人だけの会話のような感じです。

概念的な相互変調妨害は次のようになり、目的信号(受信周波数)から等間隔に離れた強い信号があれば全て妨害波として受信されてしまいます。

例えば、f0=7.0MHz、f1=7.1MHz、f2=7.2MHzとすると7.1x2-7.2=7.0となって妨害になり、f0より下側も同様になります。周波数の間隔が同じであればどこでも発生し、無限に妨害波ができることになります。
注 f0:自局の受信周波数、f1~f4:他局の送信周波数

信号の歪は次のように表されます。1次歪はもちろん歪のない状態で、受信時に問題になるのは妨害波が受信信号近くに現れる奇数次歪です。

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次号は 12月 1日(木) に公開予定

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