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ジャンク堂

第12回 RIAAとJIS A特性の等価雑音帯域幅とLTspice(オペアンプとノイズ おまけ編)
オペアンプ入門(12)

JH3NRV 松尾信一


さて、前回で終わる予定でしたオペアンプとノイズですが、纏め方が悪かったためか、はみ出してしまいました。仕方がないのでおまけ編として今回もお付き合い願います。

オペアンプのノイズに関する一通りのことは前回まででほぼ網羅したつもりですが、今回はRIAAとJIS Aでノイズのスペックを規定されているオペアンプ(JRCのオペアンプが多い)はどのようにスペック値を見ればよいかを考えてみたいと思います。また前回のように言葉と式だけでは退屈な内容になりそうなので、LTspiceで前回までの内容の主な点をシミュレーションでも再確認したいと思います。

まず抵抗の雑音をLTspiceでシミュレーションしてみる。

先ずは抵抗のノイズをシミュレーションしてみました。グラフの縦軸は電圧雑音密度で、単位はnV/√Hzです。なお、縦軸の目盛りがnV/Hz1/2となっていますが、nV/Hz1/2(Hzの1/2乗=√Hz)のことです。なお、LTspiceは温度を指定しないときは27℃(300K)でノイズレベルを計算するようです。


シミュレーションでは抵抗値を1kΩ(緑線)、10kΩ(青線)、100kΩ(赤線)と変化させています。ウソかマコトか、1Hzから1GHzまで見事に電圧雑音密度がフラットです。線がギザギザでなく直線なのでノイズらしく見えませんけど、、。

温度による変化を確認します。1kΩの電圧雑音密度を、温度を変えてシミュレーションしてみました。


-273.15℃(一番下の緑線)では電圧雑音密度が0になっています。青線が-20℃、赤線が17℃、一番上の水色線が80℃のときの電圧雑音密度です。低温ほど雑音密度が下がります。電波天文などでは受信機のノイズレベルを下げるためにRFアンプを非常に低い温度にするようですが、その理由はここにあります。

次に1kΩ(R1)と10kΩ(R2)を直列にしてみます。計算では電圧雑音密度は1kΩが約4.1nV/√Hz、10kΩが12.9nV/√Hzです。両方を直列にした場合の電圧雑音密度は11kΩから出る電圧雑音密度の13.5nV/√Hzと同じです。(計算誤差はありますが)


一番上の緑線がOUT端子に出てくるノイズで、1kΩと10kΩの直列時の電圧雑音密度です。なお、赤線が10kΩの電圧雑音密度で、青線が1kΩの電圧雑音密度です。グラフのラインは計算値とほぼ一致します。また、全体の電圧雑音密度は10kΩのノイズが支配的といえます。また、このシミュレーションは27℃における電圧雑音密度です。

抵抗を並列にしてみます。1kΩ(R1)と10kΩ(R2)の並列接続です。この場合のノイズ量は909Ωのノイズ量である3.88nV/√Hzと等しくなります。


緑線がOUT端子出てくる、1kΩと10kΩの並列時の電圧雑音密度です。青線が1kΩ、赤線が10kΩの電圧雑音密度です。前回説明したように、10kΩからのノイズは、10kΩと1kΩで分圧されて1.17nV/√Hzに、1kΩからのノイズも同様に分圧され3.73nV/√Hzになります。この場合は1kΩの電圧雑音密度が支配的です。

オペアンプの雑音をLTspiceでシミュレーションしてみる。

さて、いよいよオペアンプのノイズをLTspiceで確認します。先ずはNJM4565からです。


NJM4565だけの電圧雑音密度を確認するために、回路は抵抗を用いないボルテージフォロアにしています。グラフの電圧雑音密度はオペアンプの出力(OUT端子)のものですがゲインが“1”なので、入力換算レベルと等しくなります。一見、シミュレーションできているようですが、雑音密度は2.5nV/√Hzとデータシートのグラフから読み取れる10nV/√Hzより随分と低いようです。また1Hzまで雑音密度がフラットで1/fノイズが見当たりません。

次にLM358で試してみました。このスパイスモデルはネットで見つけてダウンロードしたものです。


これは、問題なさそうです。1kHzでデータシートの値の40nV/√Hzより少し低いですが、ほぼ近い値です。1/fノイズもデータシートより少し高いようですが、おおむね正しく再現されているようです。なおデータシートではLM358のノイズレベルの測定回路は反転増幅回路が使用されているので今回のシミュレーションの回路とは異なります。

いくつかJRCのオペアンプのSpiceモデルでノイズレベルを確認しましたが、いずれも似たようなグラフになり、1/fノイズも再現されませんでした。私が確認したシミュレーションモデルではノイズ情報が網羅されていないようです。どうやら私が普段使うJRCのオペアンプではノイズレベルのシミュレーションは諦めるしかなさそうです。

注) JRCのモデルはPSpice用に提供されていますが、バージョンがあります。私が確認したのはV2(バージョン2?)と書かれたモデルです。また、その前のバージョンと思われるモデルでも確認をしましたが両者に違いはありますが、やはりデータシートとは合致しない結果になりました。また、シミュレーションモデルと共に提供されている説明資料にもノイズについて触れられていなかったのでノイズの情報は入っていないと思われます。

ちなみに、LTspiceに最初から組み込まれているオペアンプのモデル(当然、アナデバや旧リニアテクノロジ製品が大半)にはノイズの情報が入っているようです。

オペアンプ回路における抵抗のノイズを確認してみる。

前回、オペアンプ回路におけるプラス、マイナスの両入力端子に接続した抵抗のノイズの影響について話しをしました。これをシミュレーションで確認します。最初はボルテージフォロアの帰還経路に抵抗(9kΩ)を入れた回路です。


オペアンプは理想オペアンプ(ビヘイビアモデル)を使っています。従って、オペアンプはノイズを出しません。この回路では9kΩの電圧雑音密度(12.2nV/√Hz)がそのままOUT端子に出力されています。

なお、このシミュレーションで用いたビヘイビアモデルのオペアンプはGB積(ゲイン帯域幅積)を1MHzとしています。従って、ボルテージフォロアからのノイズレベルも1MHzで約3dB低下しています。

次にゲイン10倍の非反転増幅の場合です。先のボルテージフォロアの回路のマイナス入力端子とアースの間に1kΩ(R2)を接続しました。


緑線がOUTからのノイズレベルで、総ノイズレベルは15.3µV、グラフ目盛では分かり難いですがノイズ密度は38.6nV/√Hzとなっています。赤線はR2(1kΩ)のノイズ密度で36.6nV/√Hz、青線がR1のノイズ密度で12.2nV/√Hzになっています。OUT端子のノイズ密度(38.6nV/√Hz)はR1からのノイズ密度とR2からのノイズ密度が加算された値となっています。

R1(9kΩ)からのノイズは先ほどのボルテージフォロアの時と同じレベルですがR2(1kΩ)からのノイズはマイナス入力端子からの入力信号として9倍(10倍ではありません)されて出力されています。これから分かるように、抵抗からのノイズはRb(回路図のR1)に相当する抵抗よりもマイナス入力端子やプラス入力端子とアース、あるいは信号源との間に接続された抵抗(ここでは回路図のR2)のノイズが支配的です。

次に、総ノイズ量を確認します。LTspiceではシミュレーションした周波数の総ノイズ量も計算されます。上のグラフ中の左側の表がそれです。1Hzから1000MHzまでの総ノイズ量は15.3µVと出ています。

今回のシミュレーションで用いたオペアンプのGB積が1MHzなので、ゲインを10倍に設定するとカットオフ周波数は100kHzになります。それ以上の周波数では6dB/octで出力が低下するために1次のLPF(ローパスフィルタ)の特性を持ちます。

電圧雑音密度が38.6nV/√Hzで帯域幅が100kHzの場合のノイズの総量(ノイズレベル)を計算すると38.6nV×√(100kHz)=12.2µVとなります。

シミュレーションの結果(15.3µV)と計算結果(12.2µV)とでは少し差が大きいようです。最初のボルテージフォロアの場合も計算してシミュレーション結果と比較して頂くと分かりますが、同様の差があります。

帯域幅の定義とは? 等価雑音帯域幅

これまで電圧雑音密度は帯域幅に比例すると説明してきました。その帯域幅とは帯域外の周波数成分が全くない、理想フィルタによって実現された帯域幅のことです。しかし、現実はそのようなフィルタはないので、普通に実現できるフィルタで帯域制限をした場合は以下の表のようになります。


この表は、CQ出版社のトランジスタ技術(以下、トラ技)2003年1月号の馬場清太郎氏の記事の“増幅回路の雑音”から引用させて頂きました。ちなみに、この記事ではしっかりと真性雑音という言葉が載っており、前々回の記事で真性雑音を“あまり使われない言葉”と書きましたが単に私が不勉強なだけのようでした。(苦笑)

20年近く前の号ですが、この記事にはノイズについて丁寧に書かれており、機会があれば読まれることをお勧めします。

この表では6dB/octの1次フィルタの場合はカットオフ周波数の1.57倍が等価雑音帯域幅となっています。先のオペアンプの例で、GB=100kHzの場合は100kHz×1.57=157kHzを帯域幅として計算すると、38.6nV/√Hz×√(157kHz)=15.3µVとなり、シミュレーションの結果と一致します。

このように、現実のフィルタを通した時と同じノイズ量となる理想フィルタの場合の帯域幅を等価雑音帯域幅といいます。6dB/octの1次のフィルタの場合、そのフィルタのカットオフ周波数の1.57倍が、12dB/octの2次フィルタの場合は、そのフィルタのカットオフ周波数の1.11倍が理想フィルタのカットオフ周波数に相当します。

この係数はフィルタの伝達関数を元にf=0から∞まで積分して求めますが、取り敢えず1次フィルタの1.57と2次フィルタの1.11を覚えておけば良いでしょう。それ以上の次数であればフィルタのカットオフ周波数と等価雑音帯域幅の違いは5%以下で無視できると思います。

RIAA特性の等価雑音帯域幅

さて、前々回に特性だけ紹介して、その後は放置のRIAA特性について考えてみます。つまりRIAA特性で規定されたデータシートのノイズレベルはフラットな周波数特性に換算するとどの程度の等価雑音帯域幅になるのか? それが分かれば、データシートのノイズレベルから電圧雑音密度を算出することができます。

RIAA回路は前々回では各周波数のレベルの表を元にExcelでグラフを描かせましたが、実は明確に特性が定義されています。下がその特性です。


カットオフが50Hzの1次LPFからスタートして500Hzでフラットに戻り、2122Hzから再度6dB/octの1次LPFになります。つまり50Hzと2122Hzにポール(極)があり、500Hzにゼロがある特性です。

結論から書きますが、RIAA回路の場合は1kHzのレベルを基準(0dB)にすると、等価雑音帯域幅は約11kHzと見なせます。ただしNJM2068に書かれていたJRCの雑音レベル測定用の回路では9.2kHz程度の等価雑音帯域幅になるようです。また信号源やRIAA回路の抵抗からの雑音レベルが入力換算で約0.68µVあるので、カタログスペック値からその分を差し引いたレベルが本来のオペアンプからのノイズといえます。

なお、以後の計算やシミュレーション結果はあくまで私が簡易的に出した値なので誤差や間違いがあるかも知れません。あくまで参考レベルとお考えください。

RIAA回路の等価雑音帯域幅を算出してみる。

先に結論を書きましたが、その結論に至った過程について紹介します。面倒くさいと思われる方は読み飛ばしてください。等価雑音帯域幅に興味がある方には是非読んで頂きたいと思います。

等価雑音帯域幅を算出するまっとうな方法ではRIAA特性の伝達関数を求める必要があります。その伝達関数を元に積分を行ない、総ノイズ量を算出します。それを基準とする雑音密度レベルで割ることで等価雑音帯域幅が求まります。伝達関数と積分と聞くと逃げ出したくなるのは私だけではないと思います。なので、もっと安易な方法を紹介したいと思います。

なお、RIAAの場合は1次のフィルタの組み合わせで、2つのポールと1つのゼロから成ります。なので、伝達関数は以下のような式になります。


RCの1次の積分回路の伝達関数は“1/(sT+1)”で、ゼロを形成する500Hzの部分の伝達関数は“(sT+1)”になります。3つの特性が直列に繋がっているので、各伝達関数を掛ければトータルの伝達関数が求まります。

ここで、T=CRで、f=1/(2πT)の関係です。RIAAの場合、f1=50Hz、f2=500Hz、f3=2122Hzですから、T1=3.18ms、T2=318µs、T3=75µsになります。各々のTを先ほどの伝達関数に入れるだけです。さて、伝達関数が求まったので、次に積分を、、となるとグッとハードルが上がります。

そこで次のような簡単な方法で求めてみました。

RIAA回路の場合、1次のfc=50HzのLPFとfc=2122HzのLPFを組み合わせたものと考えられます。異なるのは、両LPFのレベル差です。


図を見ていただくと一目瞭然と思いますが、fc=50Hzの1次LPFの等価雑音帯域幅は50Hzに先ほど出てきた係数1.57を掛けると78.5Hzになります。同様に2122Hzの1次LPFの場合は約3332Hzとなります。これで2つのフィルタを理想フィルタの形に置き換えます。両方のLPFには20dB(電圧で10倍)のレベル差がありますから図の右のような関係になります。各フィルタの面積がノイズ量に相当します。

これをもとに1kHzのレベルを基準にして計算します。従って、図中のBの高さ(ノイズ密度)を1とし、Aの高さを10としてAとBのノイズ総量を計算します。


Bの78.5Hz以下のノイズ量はAに含めたので、Bの帯域幅は78.5~3332Hzとしました。両方のノイズ量を合わせます。


ここから等価雑音帯域幅を求めます。


1kHzの電圧雑音密度を基準に考えると、等価雑音帯域幅は約11kHzになりました。

ところで、先ほど紹介したトラ技の馬場清太郎氏の記事では正面切って積分を解いた結果が書かれており、等価雑音帯域幅は約109Hzとなっています。おそらく、fc=50HzのLPFの通過レベルを基準に計算されたのだと思います。上の計算でもAの高さを1、Bの高さを-20dBの0.1で計算すると、総ノイズ量は1/10の10.5Vになり、等価雑音帯域幅は10.52≈110Hzと、ほぼ同じ結果になります。

さて、別法としてLTspiceでも確認してみます。LTspiceでは伝達関数(s関数)で特性を決めることができるビヘイビア素子(電圧制御電圧源)があるのでそれを使います。先にRIAA回路の伝達関数を求めましたが、それを使います。


ノイズ源はR1の1kΩの抵抗で、約4.1nV/√Hzのノイズを出します。E1は電圧制御電圧源という部品で、この部品はs関数(伝達関数)を与えるとその特性の振る舞いをします。(素晴らしい機能です)このシミュレーションでは、1Hzから1MHzまでの範囲の総ノイズ量が423.75nVとなりました。1kHzのノイズ密度が約4.1nVですから、先ほどと同様に計算をすると、等価雑音帯域幅は(423.75/4.1)2=10.7kHzになりました。

1Hzの時の雑音密度41nVを基準にすると、(423.75/41)2=107Hzになります。多少の誤差はありますが、先ほどの計算で求めた値やトラ技の記事で求められた値ともほぼ一致しています。

NJM2068のデータシートに記載されていたRIAA回路でのシミュレーション

NJM2068のデータシートにはノイズ測定用のRIAA回路が掲載されていたので、それではどのような結果になるのか、シミュレーションしてみました。なお、オペアンプはノイズのない理想オペアンプでシミュレーションしています。


先ずは周波数特性を確認しておきます。


10Hzから50kHzまでの周波数特性ですが、20Hzで約54dB、1kHzで約36dBのゲインがあります。低域は10Hz以下でレベルが低下しており、1kHzに対して最大で18dBのゲイン上昇にとどまります。

測定条件では30kHzのLPFをとおして測定するとのことなので、ここでは50kHzまでのシミュレーションをしています。

雑音密度のシミュレーション結果です。


このシミュレーションでは抵抗のノイズだけが出力されて、理想オペアンプからのノイズはありません。緑線がOUT端子の雑音密度です。青線は信号源抵抗Rsに相当するR1(2.2kΩ)の電圧雑音密度です。赤線はR2(56kΩ)の電圧雑音密度で、そのほかの抵抗からのノイズはこれらより低いので無視しています。

この回路での10Hzから50kHzまでの総ノイズレベルは42.68µVと出ています。これは出力(OUT)端子でのレベルです。1kHzの時の雑音密度はグラフでは読み取り難いのですが、約444nV/√Hzとなっています。先にも計算した通り、雑音レベル=電圧雑音密度×√(帯域幅)ですから、等価雑音帯域幅は(雑音レベル/雑音密度)の二乗になります。計算すると9.24kHzとなりました。今までの計算の11kHzよりは少し狭くなりました。

このノイズレベルは出力(OUT)端子の値ですから、1kHzを基準にした入力換算レベルは1kHzの時のゲイン36dB(63.1倍)で割ります。そうすると入力換算の総ノイズ量は42.68µV/63.1=0.68µVとなりました。これはグラフから分かるように、信号源抵抗(2.2kΩ)からのジョンソンノイズが多くを占め、一部をRIAA回路の抵抗からのジョンソンノイズが占めます。

NJM4565のスペックは指定回路において1.2µVが標準値ですから、オペアンプのノイズは信号源ノイズなどを差し引いて計算すると√(1.2µ2-0.68µ2)=1µV程度といえます。等価雑音帯域幅を9.24kHzとすると、オペアンプの電圧雑音密度は1µV/√(9.24kHz)=10.4nV/√Hzとなりました。NJM4565のデータシートの雑音特性グラフから読み取れる値とおおむね一致します。

JIS A特性の等価雑音帯域幅

さて、RIAAに続いてJIS Aの場合です。RIAAと同様の方法で解くことができるはずですが、肝心のフィルタの特性を表す式が見つかりません。JIS規格を探すと載っているのかも知れませんがネットでは見つけ出すことができませんでした。

特性式がわからないので、チカラワザですが1次フィルタの組み合わせで近い特性ができないかエクセルでシミュレーション(計算)してみました。同様のことをやられた方がネットにおられましたので、考えることは同じだと思いました。(ちなみに、その方が求められた結果と私が求めた結果はLPFで違いがあります。どうも、その方の結果の方が、誤差が少ないようです。ここでは私の求めた結果で計算しています。)

私が求めた結果だけを書きますと、JIS Aの等価雑音帯域幅は1kHzのレベルを基準(0dB)にすると約14kHzになりました。

なお、エクセルに描かせたグラフが下の図です。


少し見にくいですが、赤線が表に従って描かせたJIS Aのグラフで、灰色の線が1次のHPFとLPFを複数組み合わせた特性です。低域と高域で少し誤差がありますがおおむね一致しています。灰色のグラフはfc=750Hz、95Hz、40Hzの3つのHPFとfc=12.5kHzのLPFを2つ、合計5つのフィルタを直列に接続しています。

理想フィルタに置き換えるのは面倒そうなので、これらのフィルタの伝達関数を元にLTspiceでシミュレーションしました。伝達関数の式が長くなりましたが、1次のフィルタの組み合わせなので機械的に求まります。雑音源は1kΩの抵抗です。JIS A特性は1kHzで0dBとなり、2.5kHzでは1.3dBのゲインがあります。シミュレーションでもそれに合うようにフィルタに少しゲインを持たせました。

シミュレーション結果は以下のグラフの通りで、10Hzから1MHzまでの区間での総ノイズ量は475nV、1kHzの時のノイズ密度は4nV、2.5kHzの時の雑音密度は4.7nVとなっています。


1kHzを基準に等価雑音帯域幅を計算すると約14kHzになります。ちなみに2.5kHzを基準にすると約10.2kHzになります。1kHzを基準にすると、2.5kHzでゲインがあるために等価圧音帯域幅が少し広くなっています。

JIS Aで規定されているNJM2043では、Rs=300Ωのときのノイズレベルが0.4µV(Typ)となっています。等価雑音帯域幅を14kHzとすると、雑音密度=0.4µV/√(14kHz)=3.4nV/√Hzになります。NJM2043のデータシートのグラフには、JIS Aと100kHz LPF、FLATの3本のカーブが描かれています。求めた雑音密度を元に、帯域幅を100kHzで計算すると総ノイズ量は3.4nV×√(100k)=1.08µVになり、データシートのグラフとおおむね一致していると思います。

周波数をオクターブ、あるいはディケード単位で雑音密度と総ノイズ量の関係を考えると、低い周波数域のノイズの影響は少ないことに気付きます。例えば、10~100Hz(1decade)の周波数範囲のノイズ量は90Hz分ですが、1kHz~10kHz(1decade)の周波数範囲のノイズ量は9kHz分です。同じ周波数の比率であれば後者の方の総ノイズ量が多くなることは明らかです。従って、LPFとHPFを組み合わせたバンドパスのような帯域の場合、低域側(HPF)のカットオフ周波数が高域側(LPF)のカットオフ周波数の1/20以下程度であれば、総ノイズ量を計算する場合の影響度は高域側のカットオフ周波数のほうが大きいので、低域側を無視して計算してもある程度の誤差範囲に入ります。

精度よく等価雑音帯域幅を求めようとすると面倒ですが、ある程度の誤差を許容するのであれば今回紹介したような方法や1次のフィルタで近似したような概略の計算でも良いのではないかと思います。或いは、エクセルの表を元に総ノイズ量を算出することもできると思います。

それにしても、LTspiceの多機能なことには今更ながら驚きます。これが無償で使えるのですからエンジニアを目指す人には有難い存在だと思います。勿論、シミュレーション結果は部品モデルに依存することになり、その部品モデルの入手がハードルではあります。しかし、正確なモデルでなくとも今回のようなビヘイビア(振る舞いだけを再現した)モデルや、特性が近いと思われるモデルを使用しても、回路や動作の考え方を検証するには強力なツールといえます。

オペアンプとノイズということで、3回も引っ張りました。なんだか横道の話しに字数を使って肝心のオペアンプのノイズの話しは焦点がボケたのではないかと反省しています。

結局のところ、ローノイズオペアンプの性能を活かそうとするには信号源インピーダンスやオペアンプ回路で用いる抵抗への配慮が欠かせないということです。私は正確な情報を持っていないので抵抗器の電流性ノイズについて触れませんでしたが、抵抗の値とともに抵抗器の種類/品質も影響があります。ローノイズのアンプを組む場合にはオペアンプの選定と共に回路定数や部品の品質にも配慮が必要であることがご理解頂ければ幸いです。それではオペアンプのノイズについてはこれでおしまいにしたいと思います。

Best 73 & 88!

参考文献/資料
・CQ出版社 トランジスタ技術2003年1月号
・NJM2068 データシート

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