新・エレクトロニクス工作室
週刊BEACONでは、何台かレベル計を作製しました。この中のNo.196のマイクロワットメータ3とNo.203のミリワットメータでは、内部に50MHzで0dBmの校正用信号を内蔵しました。その大元の基準は「東海ハムの祭典」で入手した写真1のHP437Bで、これに内蔵している50MHzの0dBmに合わせるという使い方です。週刊BEACONのNo.196は測定レンジが70dBと広いのですが、精度の良い測定には向きません。この先の測定や調整で中心になるのがNo.203のミリワットメータです。この後で頻繁に登場します。
写真1 HP437Bで、基準の50MHz 0dBmの出力だけ使用
たびたび週刊BEACONの記事が引用されますので、最初にまとめて掲示しておきます。
週刊BEACON No.203 ミリワットメータ
(https://www.icom.co.jp/personal/beacon/kousaku/6469/)
週刊BEACON No.196 マイクロワットメータ3
(https://www.icom.co.jp/personal/beacon/kousaku/6074/)
週刊BEACON No.180 ダイオード用カーブトレーサⅢ
(https://www.icom.co.jp/personal/beacon/kousaku/1611/)
今回は、どのようにして自作の校正用信号を調整するのか、というテーマを考えました。もちろん、この場合は周波数ではなくレベルの精度です。具体的には大元のHP437Bの基準に合わせる方法になります。専用の比較器を写真2のように作って調整できるようにしました。しかし、これが泥沼への入口になるとは思ってもいませんでした。自作環境の違いがありますので、ひとつの実験記として捉えて頂ければと思います。
写真2 50MHz 0dBmを比較するために作った比較器
レベルの比較方法を考え、図1の構成としました。ダイオードの検波回路をA側とB側の2回路作り、基準となる出力と調整したい出力を接続します。この検波出力を計装アンプのプラス側とマイナス側に入れて比較します。そしてラジケータを振らせるという構成です。もちろん基準となるHP437B出力と調整したい出力は、どちら側に接続しても同じです。
検波回路は図2のような一般的なものです。ダイオードは最初マイナス検波で出力していました。実験中は気が付かなかったトラブルがあり、最終的にはプラス検波に変更しています。これは後述します。出力は計装アンプを通してアナログのラジケータを振らせています。ラジケータにはセンターゼロを使い、表示がゼロになればA側とB側のレベルは調整された事となります。
図2 1N60を使った検波回路
終端抵抗の50Ωは精度が高い必要があります。ここに5%誤差を使ったのは間違いであったと後々になって気が付きました。これも後述します。図2のように100Ωを2個パラにしています。コネクタを始めとする接触抵抗も影響します。考え始めると誤差要因は山ほどあるのですが、それが作って試さない理由にはなりません。取りあえず写真3のように実験を行い、ざっと動く事を確認しました。
写真3 このように実験を行った
様々な実験と流れがありますが、全回路は図3のようになりました。ダイオードは同じ種類でも個体差があると思われますので、B側の方だけに半固定VRを入れてバランスの調整ができるようにしました。
計装アンプにはAD623を使用しました。2つの入力にはダイオードからの検波出力を入れ、同じであれば出力は0Vになります。計装アンプのゲインはVRで可変できるようにしました。計算上10.1~101倍に可変できますので、調整をしながら少しずつゲインを上げる事になります。当然ですが、電源を入れたままでコネクタを抜いたりすると、片入力になるので必ず振り切れます。これでラジケータを壊してはまずいので、リミッタとしてダイオードを2本、ラジケータの入力に入れました。最大限振り切れるような場合でも、フルスケール+α程度になるように考えています。調整をしているとラジケータは簡単に振り切れますので、何らかの対策は必要でしょう。
バランスが取れていない時には、ラジケータをプラス側かマイナス側に振らせる必要があります。マイナス側に振らせるためにはマイナス電源が必要ですので、ICL7660を使って-5Vを作っています。このような電源にはノイズがありますが、本機で処理しているのは基本的に直流電圧だけです。影響は無さそうと考えて実験し、影響なしと判断しました。手持ちが写真4のようなタイプですので、これを右側にあるようにDIPタイプにしています。このような面倒なことはせず、最初から写真5のようなTJ7660を使う方が良いと思います。
写真4 -5Vを作るICL7660、右側にあるようにDIP化して使用
写真5 TJ7660を使えば手間はありません
ダイオードにはゲルマニウムの1N60を使用しました。一応1N60としていますが、実は良く解らないゲルマニウムで本当に1N60かは不明です。この1N60らしいダイオードは、同じ袋に入っていた同じロットを使っています。選別はしなかったのですが後述するトラブルがあり、一時は選別が必要と考えました。その後選別は不要だったと考え直しました。もちろん選別をして不都合はありません。1N60でなくても、50MHzが検波できるダイオードであれば何でも使えるはずです。
ラジケータには写真6のようなセンターゼロを使いました。絶対値を正確に読む必要は全くありませんので、メータでなくラジケータで充分です。ケースに入れてレイアウトした時に、入力レベルの高い方へ針が振れるのが良いと思います。イメージだけですが、解りやすい事も大切です。普通はこのようなセンターゼロは無線機等の自作ではほとんど使いませんが、このような測定器類では使いたい事があります。しかし使いたい時に手元に無いのは良くあるパターンです。あるOMよりQSYして頂きました。
写真6 使用したセンターゼロのラジケータ
検波器については、そのままケースに入れて使う事を前提として、BNCコネクタに18×18mmの生基板の切れ端を直接ハンダ付けしました。このような構造では、後で基板が邪魔をしてケースへのネジ止めが面倒になります。そこでBNCコネクタに2.5mmネジのナットをハンダ付けしました。これでケースへの取り付けが容易になります。BNCコネクタの芯線には100Ωの終端抵抗を2個パラで生基板へハンダ付けしました。検波出力の端子として5mm角程度の基板の切れ端を貼って、BNCコネクタの芯線との間にダイオードをハンダ付けしました。もちろんコンデンサもハンダ付けします。写真7のように作製しました。実験しながらですが、半分は製作のつもりでした。この検波器を使って全体の試験を再度行いましたが、この状態でも大きな問題は無さそうに思えました。
写真7 BNCコネクタに作った検波器、ネジ止め用のナットもハンダ付け済
メインとなる基板は図4の実装図を作製してから、ハンダ付けを始めました。基板は一般的なユニバーサル基板で、秋月電子のDタイプを使っています。このハンダ面が図5になります。部品側から見た図になります。写真8のように基板を作製しました。ハンダ面が写真9になります。再度接続して全体の実験をしました。これで上手く動きましたが、バラックでの実験では微妙に不安定で詳細は判断ができません。そこで、実験段階を終わってケースに入れる事としました。
図4 メイン基板の実装図
図5 実装図のハンダ面
写真8 作製したメインの基板
写真9 メイン基板のハンダ面
ケースにはタカチ電機工業のYM-100を用いました。穴あけをしたところが写真10になります。工作もメンテもやりやすいように、全てをケースの上側だけに収容する構造で作りました。完成した内部が写真11になります。基板はカラーを使わずに、写真12のように貼り付けボスを使って固定しています。感度調整用のVRを跨ぐように固定しましたが、スペースが足りず金ノコで少々削る必要がありました。
写真10 YM-100に穴あけ
写真11 完成した内部
写真12 基板は貼り付けボスで固定
完成させて最終的な調整をする時になって、この調整はとても難しいと気が付きました。本来であれば正確な0dBmの出力が2つないと本機としての調整ができません。しかし作ってから気が付いても仕方ありません。そこで無い知恵を絞って、図6のようにして少しずつ調整すれば良いはずと考えました。ケーブルの接続を変えながら、少しずつ半固定VRを回して根気良く追い込む必要があります。
この方法で写真13のように本機の調整を行い、同時に週刊BEACONのNo.203の基準発振器を調整しました。ところが様子が変なのです。直接HP437Bで校正する場合と違いができてしまいました。その差が0.5dBもありました。自分で考えていた目標が0.1dB以内でしたので、この場合の0.5dBは大きいと思います。
写真13 このようにして調整
誤差の原因を探すため、nanoVNAで各々の出力インピーダンスを測りました。HP437Bの基準出力のインピーダンスを測ると問題はなさそうです。一番怪しい週刊BEACON No.203の基準発振器を測ると65Ω-j60Ωと50Ωから大きく外れていました。しかし、これは0.5dBの誤差にはなりません。0dBmとして受けられる電圧に調整するので、基本的には関係ないはずです。
次に入力インピーダンスも測りました。週刊BEACON No.203の入力インピーダンスはとても正確で誤差は少なかったのですが、本機には僅かな違いがありました。5%の抵抗ですので当然です。この場合A側とB側の差はもちろんですが、No.203との差が問題になります。これらをまとめたのが表1になります。表1の条件と、No.203の出力インピーダンス(65Ω-j60Ω)の誤差を入れて計算してみました。この計算の詳細については長くなるので省略します。A側にHP437Bを入力してB側にNo.203を入力して調整した場合、0.08dBの誤差が出る事が解りました。A側とB側を逆にした場合は、0.05dBの誤差となりました。No.203の出力インピーダンスではなく、ほぼ本機のA側とB側の入力インピーダンス差が原因のようです。感覚的にも0.1dB程度の誤差だったのですが、それが計算で出てしまいました。このように0.1dB以内の誤差になる事が解りましたが、0.5dBというのは別の原因がないと説明ができません。
表1 各々の入力インピーダンスを測定
ここでしばらく暗礁に乗り上げてしまいました。調整をしながら内部の電圧をチェックしていると、ダイオードの検波した電圧に僅かな差がある事に気が付きました。ためしにダイオードを選別したものに交換すると、誤差が0.1dB程度となりました。実はこの時にダイオードをマイナス検波から、間違ってプラス検波にしていました。しかし、これは関係無いと思っていました。外したダイオードを週刊BEACON No.180のダイオード用カーブトレーサでチェックすると確かに差があり、これで原因解明したと思っていました。
しかし、終わりませんでした。A側のレベルが高ければA側に振れ、B側が高ければB側というイメージにしたかったのです。この振れが逆になるのを嫌い、マイナス検波に戻しました。結果は変わらないはずでしたが、最初と同じように合わなくなってしまいました。もしかして、と週刊BEACON No.203の入力側の回路を確認すると、ゲルマニウムダイオードを使っていますがA/D変換に入れる都合でプラス検波を使っていました。波形にスプリアスによる歪があって、プラス検波とマイナス検波で僅かな電圧差を生んでしまうのではと考え、再度プラス検波に戻しました。またラジケータの振れの方向を合わせるために、基板のA側とB側のコネクタを入れ替えました。これでようやく0.1dB程度の誤差はありますが、調整可能となりました。ダイオードの特性の差が原因というのは間違いで、0dBmの一点しか使っていないので半固定VRで誤差を吸収できないはずがないのです。ここまでの図面や写真は全て最終的な回路にしています。残念ですが、オシロではシビアな差を確認するのは困難です。原因としては、ミリワットメータの0dBm出力にスプリアスが多くあり、プラス検波とマイナス検波で僅かな電圧差を生じたようです。
このように苦労しましたが、それなりに合わせられるようになりました。本機は比較するだけですし、同じダイオードを同じケース内で使いますので温度変化は同じはずです。ところが、週刊BEACON No.203の基準発振器では温度変化による変動の影響もありそうです。出力インピーダンスの問題も残っています。更にスプリアスの問題も出て来てしまいました。次はこの発振器を考え直さなくてはなりません。泥沼は続いています。しかし、ここまで来ると計算上は目標の0.1dB以内とは言っても不満は残ります。使用した感覚的には0.1dBです。
0.1dBの誤差というのは、0dBmの223.6mVに対して0.1dBmは226.2mVと僅か2.6mVの違いしかありません。僅か1.16%です。元々の目標が無理だったとは思いませんが、入力の50Ωは抵抗を選別して極力誤差を小さくするべきだったと気が付きました。本機に使っている抵抗が5%誤差ですので、どう考えても無理があります。週刊BEACON No.203では、1%の100Ωをパラにしていました。これは何とかしたい部分ですが、部品の関係で直ぐには修正ができません。リターンロスが30dBもあるから大丈夫では済まない世界でした。
様々な影響は、システム全体として考えなくてはなりません。最もシステムの頂点にあるのがジャンクのHP437Bですから、これも根本的に無理があります。このように回り道をした事によって、これは大変な世界に入ってしまったと理解する事ができました。やってみないと気が付かない事も多々ありました。トータルすると完全だったとは思いませんが、大変勉強になったのは確かなレベル比較器でした。
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