Monthly FB NEWS 月刊FBニュース 月刊FBニュースはアマチュア無線の電子WEBマガジン。ベテランから入門まで、楽しく役立つ情報が満載です。

My Project

第30回 【片手で楽々QSY】多機能スピーカーマイクの製作

JP3DOI 正木潤一


私は、長距離を自転車で走ったり山道を歩いたりするのを、運動を兼ねた習慣にしています。その際、ハンディー機でメインチャンネルをワッチすることがあります。CQコールを受信すると、指定された周波数へQSYし、QSOのあとメインチャンネルに戻って再びワッチを続けます。

QSYするには、リグをバッグから取り出して操作する必要があります。ハンディー機のダイヤルを回す操作には両手が必要で、さらに周波数やモードを画面を見て確認することになります。それが面倒だからといって、常にハンディー機を手で持っているわけにはいきません。両手で操作しなくてはならないのは、ハンディー機の意外な盲点です。

私はかねてからリグの基本操作をスピーカーマイクで完結できないか考えていました。周波数やモード、音量などを手元のスピーカーマイクで変更・確認できたらとっても便利になるはずです。というわけで、今回は操作キーとLCDの付いた『多機能スピーカーマイク』を製作します。

ところで、以前リグを遠隔操作できる腕時計型リモコンを作ったことがあります。それはHM-75のキーに割り当てられる機能しか使えませんでした。今回は有線接続ですが、改良版とも言えます。


2017年12月号の記事『【ワイヤレス】腕時計型ハンディー機リモコン

仕様

製作する多機能スピーカーマイクには、LCDと3つのキー([UP]、[DOWN]、[FUNCTION])を取り付け、短押しと長押しで下記の機能を切り替えられるようにします。

・周波数設定(10kHzまたは100kHzステップ)
・バンド切り替え(VHF ←→ UHF)
・モード変更(FM、FM-N、DV)
・音量設定
・モニター機能(スケルチ強制オープン)
・ID-52、ID-51およびID-31に対応

なお、リグのレピーター機能により、レピーター周波数に合わせるだけでD-STARレピーターやFMレピーターにアクセスできます。また、ロック機能をONにしていてもCI-V制御は有効です。

製作

ディスプレイには8文字×2行の小型LCDを使い、LCDの制御とCI-Vコマンドの送出には8ピンのマイコンを使用します。マイコンにはプッシュスイッチ用に3つの入力ポートを、LCDの制御(I2C通信)に2つの出力ポート、そしてCI-Vコマンドの送出(UART通信)に出力ポートを1つ割り当てます。


この小さなマイコン1つでCI-V制御を実現させる。

機能のほとんどをマイコンが担っているので、部品点数はとても少なくなっています。ほとんどはバイパスコンデンサで、I/OポートとGNDとの高周波電位差を無くして送信波の影響を防ぐための物です。なお、スイッチ入力や通信ラインにプルアップ抵抗が必要ですが、それらもマイコン内部にあります。さらに、電源は無線機本体から供給するのでバッテリーは不要です。


多機能スピーカーマイクの回路図。ほとんどマイコンが機能を果たすので部品はとても少ない。

いつものように、裏面に銅箔テープを貼ってベタアースにしたユニバーサル基板にチップ部品を実装します。この方法は基板上のどこからでもGNDに接続できるので、部品配置の自由度が高くなります。


チップ部品を使った実装例


部品を実装したLCD基板

スピーカーマイクへの組み込み

ベースとなるスピーカーマイクには『HM-186』を使用しました。比較的安価なスピーカーマイクなので改造にチャレンジし易いと思います。分解してカールコードを切り離し、元の基板を一旦取り外します。内蔵スピーカーを取り外して小さなものに取り替えます。

こうして内部にスペースを作り、LCDを覗かせる四角い窓を開けます。窓は、熱したアルミのアングル材を押し当てて溶かすことでキレイに四角く開けられます。アルミアングル材は、LCDの横幅に合わせてカットし、こて先を挿して固定する穴を真ん中に開けたものです。


LCD用の窓開け。アルミアングル材(左)を60Wの半田ごてで加熱しながら押し当てる。

3つのプッシュスイッチ用にはドリルで丸い穴を開けます。スイッチは内部にギッチリ並べて組み込みます。穴の位置を十分確認しながら穴を開けます。位置がずれると見栄えが悪くなったりスイッチがお互いに干渉して取り付けられなくなったりします。HM-186は結構コンパクトなうえ、丸みを帯びた形状のため、この加工は難易度が高いです。


3つのスイッチをのぞかせる穴。位置をよく確認しながら注意して開ける。

内蔵スピーカーを長方形の小さなものに取り換えることで内部にスペースが出来ます。基板をLCDの端子部分で2つに折るとちょうど収まります。HM-186についているイヤホンジャックはそのままなので、内部スピーカーの換装による若干の音量低下以外、元のHM-186の機能を維持しています。


LCD基板とスイッチを組み込んだ様子。元々の基板が定位置に戻せられたらOK。

HM-186のカールコードは4芯、つまりGNDを含めて4系統分しかありません。しかし、この多機能スピーカーマイクには5系統(VCC、GND、CI-V、MIC、SP)が必要です。そこで、同じくらいの太さの5芯のカールコードを別途入手して使用しました。カールコードは意外と売られていないので、中古やジャンクのスピーカーマイクから流用するか、メーカー製モービル機用マイクのカールコードを補修部品として取り寄せます。

穴あけや熱加工に失敗が許されないのはもちろんですが、この手の作業は思わぬところに傷を付けてしまう恐れもあります。なので、あらかじめマスキングテープを貼って保護することをお勧めします。


作業中に傷を付けないように、マスキングテープを貼っておくとよい。

リグとの接続には『OPC-2144』を使って変換コネクターを製作します。カールコードとSP/MIC端子とをプラスチックケースを介して接続します。送信波がケーブルに乗ることで誤作動を引き起こすことを懸念して、対策として内部にフェライトコアを入れました。なお、基板上の制御ラインにバイパスコンデンサを入れていることもあり、使っている限り送信時の不具合は発生していません。


SP/MIC端子(OPC-2144)の配線


OPC-2144を使って作ったコネクター部。ケースの中にフェライトコアが入っている。

この多機能スピーカーマイクは無線機本体から電源を取ります。ID-52、ID-51およびID-31からは、LEDを光らせる程度の電源(3V、数mA程度)が取り出せます。LCDもマイコンも消費電流が極めて少ないのでこの程度の電源でも動作させられるのです。


LCDやスイッチの位置を変えながら、3つの試作機を作った。

適当なケースに組み込む場合

HM-186を使わず、プラスチックケースを使ってオリジナルのスピーカーマイクを作ることもできます。このほうが自由度が高く加工も簡単です。


『タカチ』製ケースで作った多機能スピーカーマイク。スピーカーの代わりにイヤホンを使用。

使い方(ソフトの仕様)


・左右両側の[UP]/[DOWN]キーを押すと周波数が10kHzステップでアップ/ダウンします。中央の[FUNCTION]キーを押しながら[UP]キー/[DOWN]キーを押すと、100kHzステップでアップ/ダウンします。離れた周波数に早く合わせられます。
・[FUNCTION]キーを押すと『音量調整モード』に切り替わり、[UP]/ [DOWN]キーを押して音量調節できます。この『音量調整モード』ではスケルチが強制オープンするので、ノイズの大きさが音量の目安となります。また、弱い信号やフェージングの激しい信号を受信する際の『モニター機能』を兼ねています。
・[FUNCTION]キーを長押し(約1.5秒)すると『バンド/モード切替モード』になり、[UP]キーを押すごとにモード(電波型式)が、[DOWN]キーを押すごとにバンドが切り替わります。


機能早見表

プログラムファイル(.hex)はこちらからダウンロードできます。

PICへの書き込み方については、『第12回 ハードとソフト、両方を取り入れて作る回路 (2017年9月号)』を参照してください(説明動画があります)。

なお、あらかじめリグの『機能設定』メニューでCI-Vの設定をしておきます。
・CI-Vボーレート: 4800bps
・CI-Vアドレス: 86

参考) C言語で書くマイコンのプログラムとメモリ制限

LCDの表示やCI-Vコマンドの送出は、マイコンのプログラムで制御しています。LCDを制御するには「I2C」という同期式シリアル通信を使います。これは、マイコンから2つの信号(データとクロック)を送ってICなどのデバイスを制御する方式です。私は今までマイコンのプログラムをすべてアセンブラで書いていました。しかし、四則計算すら記述が面倒なアセンブラで、I2C通信を実装することは(私には)とても難しいと判断しました。そこで、C言語を勉強することにしました。

プログラム自体はアセンブラよりもC言語のほうが簡単なのですが、その代わりメモリの管理が難しくなります。というのも、小型マイコンはプログラムを保存するメモリが少ないにもかかわらず、C言語で書くとメモリを多く消費してしまうためです。つまり、いかにプログラムを効率良く書くかが重要になってきます。よく考えてプログラムを組まなければ、あっという間にメモリ不足に陥ります。

この多機能スピーカーマイクのプログラムは、マイコンのメモリをほぼ使い果たしています。逆に言えば、もっとメモリの多いマイコン(例えば14ピンPICマイコン)を使えば、さらに多くの機能を盛り込むことが可能です。


無駄なくプログラムを書いたつもりだが、95%もメモリを使っている。

使用感

リグの電源を入れて送信出力を設定したら、バッグにしまっておきます。ファスナーの隙間などからカールコードを引き出し、多機能スピーカーマイクが胸の辺りに来るように、伸び縮みするゴム紐などで固定します。

メインをワッチしていてCQコールを受信したら、指定された周波数にすぐにQSYできます。また、こまめに周波数を変えて信号を探すのも簡単です。


ボディーバッグにリグを入れ、ゴム紐でスリングベルトに取り付けた様子。


リュックサックにリグを入れ、ゴム紐でショルダーストラップから吊り下げた様子。

『駅前QRV』に最適

新しい手軽な移動運用のスタイルとして『駅前QRV』が注目を集めています。ガイドラインによると、駅前QRVは「無線運用がメインでない移動中でも、持っている無線機でちょっと遊ぶ」ような運用で、デパートや駅ビルの屋上、駅前の歩道橋や広場などで運用するというものです。公共の場所では、周囲の迷惑にならないよう気を付けるのはもちろんですが、なるべく人目を引かずに運用を楽しみたいものです。すなわち、目立たずに運用できることは、気軽に無線を楽しむ上で重要な要素といえます。

この多機能スピーカーマイクを使えば、リグ本体はアンテナごとバッグの中に入れておけばよいので、基本的に無線機を他人の目に晒すことなくQRVできます。

長いアンテナを付けたリグをバッグの中に入れる際、アンテナはファスナーなどの隙間から出してもよいですが、完全に収めたいときはバッグの中でアンテナを曲げる必要があります。

ダイヤモンドアンテナの『SRH770S』を使った例ですが、分割部からワイヤーに変えて収まりを良くしています。(SWR等の諸特性は変わる)


2分割できる『SRH770S』を途中からワイヤーに換装してバッグ内での収まりを良くした例。

最後に

大画面化・高機能化に伴ってハンディー機はちょっとづつ大型化・重量化しているように思います。今回のように、スピーカーマイクにスイッチとLCDが付いていれば、リグ本体に触れることなくQRVが楽しめます。また、雨の日でも傘を差しながら運用を楽しむこともできます。高機能スピーカーマイクによってハンディー機の可能性が広がり、QRVする機会は増えると思います。

ところで、昨今では、ワンチップマイコンやディスクリート部品を使わない、「シングルボードコンピューターを使った電子工作」が主流です。しかし、電源や物理的な制約は作れる物を限定します。ラズベリーパイやArduinoを省電力で動かしたり小さな筐体に組み込んだりすることは不可能です。コンパクトで省電力のデバイスを作るにはワンチップマイコンが必要です。プログラミングにおいても、C言語のような高水準言語よりも、アセンブラなどの低水準言語を使うほうが、ビット演算や命令サイクル、メモリというコンピューターの本質への理解が高まります。

電子工作を含め、趣味としてのモノづくりはその過程を楽しむこと、そして過程の中で知識と経験を得ることの喜びが醍醐味だと思います。


高性能シングルボードコンピューターは、その電源仕様とサイズによってむしろ用途が限られる。

参考) 業務用や海洋無線機で使われている多機能マイク

LCDと操作キーの付いたスピーカーマイクは車載業務機や海洋無線機では一般的ですが、携帯機では見かけません。おそらく、業務機などは一度チャンネルを合わせたらほとんど変えることが無いからだと思います。一方で、冒頭で述べたように、アマチュア無線では使用周波数は状況によって変わるため、周波数を頻繁に変える必要があります。


LCD&操作キー付きスピーカーマイクの例。“コマンドマイク”はアイコム株式会社の登録商標。
(アイコム株式会社のホームページより)

My Project バックナンバー

2022年6月号トップへ戻る

次号は 12月 1日(木) に公開予定

サイトのご利用について

©2024 月刊FBニュース編集部 All Rights Reserved.