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ジャンク堂

第15回 オシロスコープの50Ω終端器

JH3NRV 松尾信一


オペアンプ入門も一区切りとなりましたので、今回はオシロスコープの小物ジグとなる50Ω終端器を紹介したいと思います。

電子工作をする場合に必須の測定器といえばテスターですが、その次に欲しいものはオシロスコープだと思います。近年は中華製のデジタルオシロスコープのおかげで随分と価格も下がり、帯域幅も100MHzまでくらいまでだと手が出るような価格になっています。そのため、アマチュアでもお持ちの方が増えたのではないでしょうか。

私が開局した頃はアマチュアが持っているオシロスコープというとトリガー機能が付いていないものがほとんどでした。トリガー機能付きは岩通(IWATSU/岩崎通信機)の商品名であるシンクロスコープと呼んでいて、なかなか手が出ない高嶺の花でした。

私は45年以上前にトリオのCO-1303という5MHzの簡易型のオシロスコープを手にしたのが最初でした。同期もマニュアルで合わせるものでしたし、垂直軸の電圧も読み取れないものでしたが、電気信号が波形で見えることに大いに感激したものです。


その後、アナログの20MHzのトリガー機能付きオシロ(リーダー製)を大阪日本橋の共立電子産業で購入し、次に20MHzのデジタルオシロ、100MHzのデジタルオシロとなり、電子回路工作には必須のものになっています。

もちろん、仕事で使うような高級オシロスコープに比べると個人で所有する安価なオシロスコープは性能/機能面で劣るので使っていて物足りなく感じますが、それでもあるとないとでは雲泥の差です。

オシロスコープ用50Ω終端器を作る

オシロスコープは電圧を測定するものですから、50Ωのダミーロードの両端の電圧を測定することでパワー計として使えます。しかし、一般的なパッシブプローブを用いた高周波電圧の測定は意外と難しいのでプローブを用いないで使う50Ω終端器を作ってみました。

高級なオシロスコープにはアクティブプローブなどを使うために入力インピーダンスを1MΩと50Ωに切り替えられるものもあります。しかし、私の持っているような入門レベルのオシロスコープには付いていません。世間にはオシロスコープ用の50Ω終端器が販売されていますが、今回は自作したものを紹介したいと思います。

100MHzのオシロスコープ用であれば、終端器の性能も100MHz程度までを考えれば良いので比較的簡単に作れます。

回路は下のような構成で、10:1の減衰特性を持たせています。直列抵抗は180Ωを4本並列にして45Ωに、並列抵抗も10Ωを2本並列にして5Ωにしています。したがってBNC-Jからみたインピーダンスは50Ωですが、BNC-P(オシロスコープ側)からみたインピーダンスは約5Ωとなります。


10:1とした理由は50Ω終端器としてのVSWR特性を確保するためです。オシロスコープ本体の入力インピーダンスは1MΩと並列に20pF程度の容量があります。単純にオシロスコープの入力端子と並列に50Ωの抵抗を入れるだけでは20pFの容量も並列に入り、100MHzでVSWRが約1.85となります。今回のように10:1にすると20pFの容量は入力端子からみると無視できるレベルになります。

なお、計算ではオシロスコープの入力容量を20pFとすると、この容量による-3dBとなる高域周波数は1.6GHzになります。

オシロスコープの周波数特性

ご存じかと思いますが、20MHzや100MHzというオシロスコープの帯域幅は-3dBとなる周波数をいいます。つまり100MHzのオシロスコープで100MHzの波形を測定すると測定電圧は実際の値の約70.7%(-3dB)となります。オシロスコープの周波数特性は矩形波などを観測したときに波形にリンギングをオシロスコープが付加しないよう、なだらかに高域が減衰するガウスフィルタに近い周波数特性になっています。

下のグラフはテクトロニクスのWEBサイトから引用したものです。グラフではオシロスコープの周波数帯域で約70%(-3dB)の減衰、周波数帯域の約1/3の周波数で3%程度の減衰となっています。


そのため、オシロスコープで電圧を測定したり、矩形波を観測したりするときはスペック周波数の1/3から1/5までとよくいわれます。

減衰特性がガウスフィルタとすると計算上では以下のような減衰特性になります。-3dBの周波数をfcとして、その1/2、1/3、1/5、1/10で計算してみました。

  • fc    -3.01dB 70.7%
  • 1/2*fc  -0.75dB 91.7%
  • 1/3*fc  -0.33dB 96.2%
  • 1/5*fc  -0.12dB 98.6%
  • 1/10*fc  -0.03dB 99.7%

計算上では、fcの1/3で約3.8%、1/5で約1.4%の誤差となります。1/10だと0.3%になり、周波数特性による誤差よりも測定器としての電圧誤差が気になるレベルになります。つまり、100MHzのオシロスコープの場合、10MHz以下であれば直流電圧と同等の精度が得られるはずです。

実際に製作した10:1の50Ω終端器

回路が簡単なので、構造も単純なことが写真をご覧頂くと分かるかと思います。抵抗以外の主な部品は、角座付きのBNC-PとBNC-J(秋月電子から購入)、それに真鍮のスペーサーです。抵抗は両コネクタの間に配置します。グランドに接続する2本の10ΩはBNC-Jの金属部分に直接はんだ付けをしました。


スペーサーの長さは15mmでネジは2.6mmのタップが切られたものです。また両コネクタの芯線側端子間の距離が5mm程度なので、4本の180Ωの抵抗には小型のものを使用しました。

また、BNC-Jの方は絶縁体が長いのでカッターナイフで切り取り、それに伴って芯線の端子も短くカットしました。このあたりは使用するコネクタの形状に応じて臨機応変に改造します。

作った終端器の50Ω側のリターンロス特性は以下のようになりました。BNC-P側をオシロスコープに接続して、BNC-J側に約1mの同軸ケーブルを接続して測定しています。


200MHzまではリターンロスが-35dB(VSWR=1.04)以下とまずまずの特性です。

VNAで測定した通過帯域特性は下のようになりました。なお、出力の負荷が50Ωなのでオシロスコープ(1MΩ)を接続したときとは条件が異なります。


ほぼ問題ないフラットネスが得られていると思います。

参考までに、Amazonで購入したオシロスコープ用の50Ω終端器も確認しました。


測定条件は先ほどと同じです。こちらはオシロスコープの入力と並列に50Ωを入れる構造のため、減衰はしませんがオシロスコープの入力容量の影響を受け、あまり良いリターンロス(VSWR)とはいえません。


VNAでの通過帯域特性です。こちらも参考レベルです。


わずかですがうねりがあります。50Ωから外れるので測定系(主にケーブル)の影響かも知れません。この終端器をオシロスコープに接続せず、終端器だけで測定すると200MHzまでリターンロスは-35dB以上あり、なかなか良い特性でした。

今回作った終端器は構造と手持ち部品という都合から、直列の抵抗に1/4Wの小型カーボン抵抗を、並列の抵抗には1/4Wの金属皮膜抵抗を使いました。理屈では1Wの耐電力となりますが180Ω4本を密着させているので放熱が悪く1Wは短時間しか持たないと思います。

1Wのときの50Ωの電圧は20Vp-pですから、オシロスコープには2Vp-pの入力となります。直接電力の値は出ませんが、電圧から電力を計算することで10MHzまでであれば比較的信頼できるQRPパワー計として使えそうです。

オシロスコープで高周波を測定する

今回、オシロスコープの50Ω終端器を紹介しましたが、多くの場合、オシロスコープは10:1のプローブ(パッシブプローブ)を接続して使用します。

当たり前のことですが、プローブをオシロスコープにある調整用信号(CAL信号)端子に接続して下図のようにプローブ根元のトリマを調整します。


このCAL信号は1kHzの矩形波ですが、1kHzというような低周波で調整して数十MHzというような高周波の補正までできるのか疑問に思われるかも知れません。

実は、オシロスコープのプローブ調整のトリマを回すと周波数特性は下図のように変化します。


赤線が適正補正で、青線が補正過多、水色線が補正不足になります。このように補正が正しくされていないと1kHzくらいから電圧の誤差が出始め、10kHz以上はフラットですが割と大きな誤差を生じます。

下の図は横河計測(株)のWEBサイトから引用しましたが、プローブとオシロスコープの等価回路になります。


先のプローブの調整による周波数特性が変化するグラフはこの回路をシミュレーションした結果です。同様に1kHzの矩形波を観測したときのシミュレーションの結果は以下のようになります。


このように、1kHzの矩形波で調整をおこなっても高周波まで正しい補正が行われることが分かります。

また、オシロスコープのプローブの等価回路をみると分かりますが10:1の場合、抵抗成分は10MΩと非常に高いのですが入力容量が10pF程度あります。したがって、オシロスコープのプローブを回路に当てると回路に約10pFのコンデンサを接続することになります。

例えば、50Ωのダミーロードの両端にオシロのプローブ(10pF)を接続して測定した場合の理論上の周波数特性は以下のようになり、100MHzくらいまででしたら問題ないように思えます。


ただし、これは理想状態でプローブを使用した場合です。多くの場合、プローブのグランド側はミノムシクリップが付いたリード線経由で接続します。

テクトロニクスの資料にプローブのリード線の影響の一例が紹介されています。


このグラフをみると、やはり数十MHz以上では通常のパッシブプローブで正確な測定は難しいようです。なお、上記の資料には高周波では下図のようなグランドリードアダプタの使用が推奨されています。


このようなアダプタが付属されているプローブもありますが、無い場合は下の写真のように1mmくらいのスズメッキ線をプローブ先端のグランド部分に巻き付けて作る方法もあります。私も昔はよくやっていましたが、スズメッキ線の場合、巻き付けたメッキ線の上の方も少し伸ばして、それを指で押さえて持つと安定して使いよいです。


このように、オシロスコープ本体が100MHzや200MHzに対応していても、通常のパッシブプローブでは、なかなかその性能を活かすことが難しいようです。以上のようなこともあって50Ω終端器を作成したのですが、今回の終端器は簡単に作れてHF帯であればQRPパワー計の代わりに使えるので割と重宝しています。

それでは Best 73 & 88!

参考資料
・テクトロニクスのWEBサイト
https://www.tek.com/ja/documents/primer/evaluating-oscilloscopes
・横河計測(株)のWEBサイト
https://tmi.yokogawa.com/jp/library/resources/measurement-tips/probe_basics/
・オシロスコープ10倍活用術 日本テクトロニクス(株) 資料 (Nov.2012)
・プロービングの鉄則 同上 (2010年9月)
・プロービングの鉄則 同上 (2010年9月)

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