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FBのトレビア

第四十二回 DCモータの回転数制御について
NチャネルMOSFETを使って実験

2023年7月3日掲載


Dr. FB

前号(2023年6月号)のShort Breakに7色の円板を回転させる記事が掲載されています。模型用のDCモータのシャフトに厚紙で作った7色の円板を取付け、それを回転したときの色はどう見えるかという記事です。

DCモータに電池を接続するとモータは回転します。モータに加える電圧を変化させるとモータの回転数が変わります。電源は、電圧を可変できるものであればどのようなものでも使えますが、乾電池など電圧が一定であれば回転数を変化させるには何か制御回路が必要です。電圧が一定の電源を使い、モータの回転数を可変する制御回路を考えてみます。

DCモータの回転数制御回路の数々

下に示す4種類の方法の実験を行い、それぞれの実験結果を考察しました。
(1) 可変抵抗器を用いDCモータに印加する電圧を可変する
(2) ロジックICを使いDCモータに印加する電圧を断続する
(3) タイマーICを使いDCモータに印加する電圧のデューティ比を可変する
(4) DCモータに流れる電流をMOSFETで制御する

実験に使用したDCモータの動作範囲はスペックによると2.5~3.5V、定格は3Vでした。無負荷時の電流は3V印加時、約0.12A(=120mA)。Short Breakの記事に示されている直径12cmの円板をシャフトに取付けて回転させるとモータには負荷が掛かるため、電流は一気に増加し1.5Aぐらい流れました。DCモータは、負荷の変動に応じてトルクが変わり、流れる電流も変化します。

可変抵抗器を用いる方法

図1は、電源とモータの間に可変抵抗器を挿入した簡単な回路です。一番簡単で確実な方法と思いますが、可変抵抗器であればどのようなものでもOKという訳にはいきません。ここがネックです。


図1 回路に可変抵抗器を挿入する

モータが回転すると電流が流れますが、その電流は前述したように無負荷で0.12Aです。通信機やオーディオ機器等に使われている汎用のAFボリュームはカーボンを円板に塗付し、それを抵抗体としています。その抵抗体の上を摺動子(しゅうどうし)と呼ばれる接点が動き抵抗値が変わります。(図2)


図2 可変抵抗器の構造

このとき、図1のような回路であればモータが回ると抵抗体には最低でも0.12Aが流れるため、抵抗体として使われているカーボンにはスペック以上の大きな電流が流れるため焼き切れてしまいます。そこで電流を多く流すことができる巻線可変抵抗器の使用が考えられます。ところがこの巻線可変抵抗器はたいへん高価です。ここがネックです。

ロジックICを使いDCモータに印加する電圧を断続する

モータに印加する電圧をスイッチでオンオフする方法です。物理的なスイッチを用いて手動でオンオフするのは困難です。ここは半導体の力を借りモータに印加する電圧を断続的に行います。モータに印加する電圧は、ロジックICのインバータで発振器を作り、その出力信号の「H」、「L」でトランジスタをオンオフさせます。


図3 インバータICを使いモータに印加する電圧を断続的に行う

図3に記載の公式を使い回路中のコンデンサや抵抗の値を変えることで、発振器の出力周波数(f)、つまりモータをオンオフする周期(T)を変えることができます。発振器の出力がHのときQ1はオンとなりモータが回り、LのときQ1はオフとなりモータは回りません。この繰り返しです。トランジスタは飽和領域で使用するため、ドライブ能力が高く電圧ロスが少ないのが特長です。ベースに印加するHあるいはLの信号でモータが回るか、回らないかの2通りの動作となります。

参考ですが図3の回路で各部品の値を次のように設定するとトランジスタのオンオフの周期Tはおよそ0.1秒となります。
R1=470kΩ(R1の値はR2の約10倍)
R2=47kΩ
C1=1µF

このR2を可変抵抗器とするとモータのオンオフの周期を可変することができ、モータの回転数が可変できるという原理です。

実験の結果、発振周波数が低いとTHとTLの時間が長くなるため、モータがオンオフする間隔も長くなるため、なめらかな回転となりませんでした。例えばモータのシャフトにフライホイール(はずみ車)を取付ける方法を取れば、トランジスタがオフとなってもモータは慣性で回りますから滑らかな回転が期待できると思います。

また、周波数を高くすると電気的にはトランジスタはオンオフを繰り返しますが、モータのオンオフが付いていけなくなり、回転数の制御が利かなくなります。アイデアはよかったのですが、今一つの結果でした。

タイマーICを使いDCモータに印加する電圧のデューティ比を可変する

図4に示した回路の出力信号TH、TLのデューティ比を大きく変化させるためタイマーICのNE555を使い図4の回路を試してみました。回路は無安定マルチバイブレータと呼ばれています。モータのオンオフのデューティ比でTHを長くし、TLを短い時間とすることで滑らかな回転となるのではないかとの推測です。


図4 NE555を使い、モータに印加する電圧のデューティ比を可変する

推測とは裏腹にモータの回転を低速とするためにTHを短くすると、やはり図3の回路同様、回転に滑らかさがありませんでした。これも前述同様に、実験は行っていませんが、シャフトにフライホイールを取付けると、モータの断続的な回転は吸収できそうな気がします。

DCモータに流れる電流をMOSFETで制御する

モータのシャフトに取付けた円板を滑らかに回転させるにはモータに印加する電圧は切れ目なく連続的に変化させることが必須のようです。図1の可変抵抗器を取付ける回路がまさにそれですが、電子回路で実現しようとするのが図5の回路です。フライホイールを使わず滑らかに連続的に回転を制御させることに重点を置き、Nチャネル(N-ch) MOSFETを用いた回路を試しました。

LM358(IC1)は、単電源で動作する汎用のオペアンプです。コンパレータとして使います。D1は2.6Vのツェナダイオードです。これで基準となる電圧を作ります。LM358(IC1)の3番ピンにD1のツェナダイオードで作った基準電圧をR2とR3で分圧した電圧を加えます。IC1は、3番ピンの電圧と2番ピンの電圧を比較して、3番ピンの電圧の方が高ければ1番ピンから正の電圧を出力します。その出力電圧で2SK2232(Q1)がオンになりモータが回る原理です。

Q1はN-chのMOSFETです。ゲートに正の電圧が印加されるとMOSFETのドレイン-ソース間抵抗(RDS)が低下し、いわゆるオン状態となります。本来は、モータに流す電流を定電流として回転数を一定に保つことに用いられる回路ですが、ここでは基準電圧を変化させRDSの変化でモータの回転数を制御します。


図5 DCモータに流れる電流をMOSFETで制御する

実験に使用したMOSFETは図6に示した2種類です。結果的には2SK2232が抜群でした。今回の実験回路では、STP75NF75を使った回路はモータの回転数が十分得られず不向きでした。

MOSFETの性能を見る上で重要なスペックは、MOSFETのオン時のドレイン-ソース間抵抗RDSです。ゲートに正の電圧が印加されるとRDSが低くなります。低ければ低いほど電流はよく流れ、モータも速く回ります。このRDSは、スペックシートによると2SK2232が36mΩに対し、STP75NF75は11mΩと前者の約1/3の低さです。この低さに魅力を感じて使ったのですが、MOSFETがオン状態となってもRDSが十分低下せずモータの回転数が上がりませんでした。

回路をいろいろ検証しましたが原因が分からず、使用したSTP75NF75はたまたまスペック外のものであったという結論にしています。スペアのMOSFETがなかったため、交換して再度の実験はできませんでした。とりあえずMOSFETを2SK2232に交換すると、ものすごく高回転となりました。


図6 モータの回転数制御の実験に使ったN-ch MOSFET

無負荷時のモータの両端子の電圧は3.5Vで、ドレイン電流は0.15Aでした。ドレインに6Vを印加しているので、ドレイン-ソース間電圧は2.5Vとなります。完全にはオン状態にはなっていないようです。これに円板を取付け回転させると、ドレイン電流は一気に1.6Aにアップしました。モータを高速で長い時間回転させるとMOSFETは熱を発するため放熱板の取付けが必要です。

また、使用するモータの種類によって図5で示した定数が当てはまらないことも十分考えられます。製作にはある程度のカットアンドトライは必要です。図7は、MOSFETを使ってDCモータの制御を行った実験基板です。


図7 N-ch MOSFETを使ったDCモータの回転制御実験基板

DCモータに発生する逆起電力対策

モータやリレーなどにはそれらを駆動させるためにコイルが使われています。それらコイルに流す電流をトランジスタやFETでオンオフさせるとき、コイルにはプラスマイナスが逆向きの起電力が発生します。この逆向きの電圧は非常に高く、コイルに流す電流をオンオフしているトランジスタやFETを壊すことがあります。幸い筆者はこれまで一度もこの経験はないのですが、可能性としては十分あり得るので対策が必要です。

対策として、コイルに蓄えられているエネルギーをダイオードでショートさせ、そのエネルギーを瞬間的に放電させる方法があります。図8に示したように、コイルの両端に接続したダイオードがそれです。逆向きの起電力のみ順方向の向きでショートさせますが、通常の印加電圧に対しては逆方向の接続で高抵抗となるため回路は正常に動作します。


図8 コイルの両端に発生する逆起電力対策としてダイオードを挿入

補足となりますが、冒頭に示した図1のような回路でもスイッチを追加してオンオフすると逆起電力は発生します。しかし図1の回路では逆起電力で壊れる部品はありませんので、実際はダイオードの挿入は必要ありません。

FBDX

<参考にした資料>
MOSFETを使った下記に示した過去の記事を参考にしました。

月刊FB NEWS FBのトレビア
第二十六回 MOSFETを使ってみよう
https://www.fbnews.jp/202107/trivia/

月刊FB NEWS Short Break
20A電子負荷装置の製作
https://www.fbnews.jp/202109/shortbreak/
10MHz基準信号発生器の考察と製作
その1: https://www.fbnews.jp/202202/shortbreak/
その2: https://www.fbnews.jp/202203/shortbreak/

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