おきらくゴク楽自己くんれん
2023年6月1日掲載
皆さん、こんにちは。本連載で長らく続いている軽トラモバイルシャック。どこが「おきらく」なのか? という一部の方のお声も(笑)聴きながら進めてきましたが、今月はお休みにして久しぶりにアンテナ製作に挑戦したいと思います。連載当初の原点に戻って安価に作ることができる実用的な移動運用に最適なアンテナを紹介します。
目立つ白色と丸見え給電部がチャームポイント
今まで本連載で「おきらく」に作ることのできる様々なアンテナ製作に挑戦してきましたが、144MHz帯のアンテナは今回が初めてになります。
私の個人的な印象ですがこのバンドを楽しもうと思うと、多エレメントの八木アンテナをスタックとかにして上げてゲインを稼がないといけないような感じがしています。私はこのバンドの八木アンテナを持っていないので長いモービルホイップで出たりするのですが、それでも結構多くの方と交信することができます。しかし長いゲインのあるモービルホイップは結構な金額がします。また最近アルミパイプなど金属素材もかなり高騰してしまいました。今まで以上に材料を吟味して安価で気軽に作ることができる144MHz帯用アンテナはできないものかと考えておりました。
ある日、いつものように良い素材はないものかと某超大手の100円均一ショップでウロウロしているとある品物に目がとまりました。太さ1.5mmで長さ2mのワイヤーです。110円という事で材質はおそらく普通の鉄なのだろうと思いましたが、素材表示を確認するとステンレス製となっています。最近は質の高い製品は200円以上で置いていることも多いのでこの製品は200円以上だろうと確認するとなんと110円じゃありませんか。
昔1mm太さのステンレスワイヤーをホームセンターで買ったことがありましたがそんなに安い物ではなかった記憶があります。ステンレスのワイヤーはしなやかでキンクが発生しにくく移動用アンテナの材料としては適しています。これを使えば1000円程度で高性能なアンテナを作ることができるかもしれないと思い早速購入して家に帰りました。
2mの長さはループアンテナにピッタリ? これが110円
一般に1波長のループアンテナの給電点インピーダンスはエレメントの形状により変化しますが約110Ωとされています。通常の場合これにガンママッチなどで給電することでインピーダンスを整合させます。ゲインはダイポールアンテナと比べ若干向上します。これにもう一つ並列にループアンテナを接続してインピーダンスを50Ωに近づければ直接給電ができるようなります。その上ゲインは2倍もなるという一石二鳥の大変魅力的なアンテナにすることができます。理屈で行くとダイポール比で6dBくらいのゲインがあってもいいのですが、諸々あって実際には4dB~5dB程度のゲインとなるようです。何事もそう理屈通りに上手くいくとは限らないのですが、それでも十分魅力的なアンテナになりそうです。
この1λのエレメントに、先に見つけた110円の2m長ステンレスワイヤーを使おうという訳です。ツインループは、以前は入門的アンテナとしてよく作られていたようですが最近はあまり製作例を見かけなくなりました。今でも手軽で高性能ないいアンテナだと思っています。
指向性はダイポールと同じく8の字状となります。偏波面は先の写真の形状では垂直偏波となります。144MHz帯にはこの状態で垂直偏波の多いバンド状況に適した形状となります。
それではどのようにしてこのワイヤーを展開し2つのループを保持できる形状にするか? という課題が生まれます。すぐに思いつくのは横方向に長いブームに2つのループを支持させることが考えられますが、丸いループにするには加工が難しいのでデルタループが作りやすいでしょう。それに横長のブーム式ではアンテナの携帯性・運搬性を大きく損なうことになります。安くて確実にワイヤーをループ形状に保つ方法を考えるのにはかなり時間がかかりました。あーでもないこうでもないと考えていたある日、例によって材料探しにホームセンターをウロウロしていると樹脂製の変わった形状の品物が目につきました。
使えそうな支持材が目につきました
溝部分にステンレスワイヤーを通す
写真の白い樹脂製の材料はサッシやガラス戸、鏡やべニア板などの端の保護に使う「カブセ」という材料でした。溝の部分に保護する材料を挟み込んで使うようです。給電部ケースにカブセの断面と同じ形状の穴をあけてワイヤーをはさんで通して給電部から外に出すことによって、カブセの持つ弾性を使って三角のループを維持できるのではないか? と考えました。このカブセにはホワイトとブラウンがありましたが地味なブラウンより明るいイメージのホワイトを選びました。
これに合わせて給電部を納めてカブセを貫通させる穴加工が容易にできそうなポリプロピレン製のケースも100円均一で見つけました。大きさは215mm×150mm×36mmです。これと同程度の大きさの透明のいわゆるタッパーも購入しましたが、後に書きますがこの白いケースの方が透明のタッパーより柔らかさがあり加工しやすかったです。このケースは複数の100均一チェーンで売られているのを確認していますので購入は容易でしょう。ステンレスワイヤーの方は購入したチェーン以外では見当たりませんでした。
防水性能はありませんが加工性が優れるフタ無しタイプ
まずはケースを加工します。カブセの溝を押し込んだ状態でギリギリ通すことのできる三角形状の穴をケースの四隅にあけます。この穴はあまり大きくならないように注意してください。カブセを指で押しつぶしてやっと通るくらいの穴にするのがよいと思います。穴が大き過ぎてゆるいと運用時に落下してしまう場合があります。
カブセ貫通穴
ドリルでカブセの断面に合わせて何ヶ所か穴をあけてカッターナイフで削りながら広げます。これを四隅にあけるのが今回のアンテナ作りの最も手のかかるところです。ここであまりゆるい感じに穴を広げてしまうと使い物にならなくなるので、時々カブセを当てがいながら慎重に穴を広げてください。カブセの溝を指で押し縮めた形で通る程度の大きさでちょうどです。ここに690mmに切ったカブセをワイヤロープを挟んで四隅に通します。
片側にカブセを取り付けた状態
チョークバラン用分割コア
本連載でおなじみのチョークバランを今回も採用します。今回はメガネコアではなく分割式のコア(小)を使いました。手持ちで適当なコアがなければバランはなくても大きな問題はないと思います。
給電部内でリード線を使いエレメント長を稼ぐ
1波長ループアンテナのエレメントは1波長以上の長さがないと同調してくれません。ステンレスワイヤーは2mちょうどなので給電箱内部で長さを稼ぐ為に50mmリード線(要調整)に圧着端子を取り付けたものを接続します。
電極となるさらネジを取付け
延長エレメント配線状況とチョークバラン
ワイヤー接続箇所
ワイヤーとの接続箇所はカブセの弾性により外方向に引っ張られますが、若干心もとないので外れ防止と共に導通確保の為に手持ちのタマゴ型ラグ板を使いました。これはなくても動作するとは思いますが念の為に付けています。大きめのワッシャなどでも代用できると思います。
黒い樹脂は絶縁スペーサーとして入れていますがなくても問題ありません
完成
カブセ接続状況
ポール取付け状況
私の使っている伸縮ポールは塗装作業用です。先端のプラスチック部分を外し、つばの付いた部分があるのでここにUボルトを引掛けて締め付けます。もちろん普通のポールでも締め付ければ落ちては来ないでしょう。
エレメント端の溝にワイヤーをかける
上下のカブセの外側端にもう一方の溝にワイヤーを通して引掛ける形です。プラスチック製のカブセには弾性があり上下共にワイヤーを引っ張る力が生まれるので簡単に外れることはありません。強風の吹き付けるような状態では無理がありますが、通常のお天気であれば大丈夫です。
テスト運用の様子
VSWR特性表
得られた特性から考えるとバンド外の高い周波数に同調している感じです。これは周囲の環境はもとより延長線の長さや仕上がった給電部エレメント角度などの影響だと思われます。この辺りを作り直せばもっと良い特性を得ることができるのではないかと考えていますが、アンテナの特徴である帯域が広いこともあり、バンド下のVSWRが高い所でもVSWRが1.6以下ですから問題なく使用できる状態に出来上がりました。
後日ロケの良い移動運用がよく行われている山に行き使ってみました。CQを出せばそこそこ呼んでもらえます。250kmを超える距離の数局と交信することができました。これはお相手いただいた局のFBなシステムのおかげとは思いますが大満足の成果です。サイドの切れも鋭くてバンドが賑やかな時に混信除けも使える性能を確認することができました。
材料購入にかかった費用を表します。
使用した材料と購入価格
製作に必要な材料の金額は目標を超えてしまいましたが、これならお小遣いでおきらくにアンテナ作りを楽しむことができるのではないでしょうか。
今回は一年ぶりにアンテナ製作のご紹介となりました。使用している材料が材料ですから若干耐久性に難があります。雨風には大変弱いので常置運用は到底無理ですが、移動運用なら天気が悪い時を避ければ結構使えるものではないかと感じています。お金を掛けずに高性能アンテナを作るには多少の妥協が必要ということですね。IC-705など無線機を購入するのにお金を使ってしまい、アンテナを買うことができなくて144MHz帯にはまだ出たことがないという方もおられるかも知れません。そういう方は一度チャレンジしてみてはいかかでしょうか。
本アンテナは、ワイヤーエレメントの支持に使っているカブセを給電部のケースにあけた穴に通すだけで組み立てます。筆者が運用した日は穏やかな天候で風もなく不安はありませんでしたが、貫通穴が大きかったり、風が強かったりすると落下してしまう可能性があるので、周りに人がいない場所で使うようにしてください。
透明ケースを使用し割れが発生
先に書いたようにケースに透明タッパーも試してみました。フタも付いているのでお得感が増すのですがドリルでの穴あけ作業の時に力を入れ過ぎてしまい割れが発生しました。
白色のケースと比べ若干固く感じます。しなりが少ないような感じです。たまたま私が購入したものが弱かっただけなのかも知れませんが、購入されるときはご注意ください。なおフタのありなしについて、フタありは防水に有利なように思われますが構造上、上2本のエレメントのカブセが天に向かって受け皿のようになり、給電部に雨水を呼び込みますのでこのアンテナは雨の時は使えません。従ってフタ無しでも問題はないと判断しています。
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