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第35回 【DIYの展示会】再びMaker Faireに行ってきました

JP3DOI 正木潤一

2023年6月1日掲載


昨年2022年12月の岐阜県大垣市につづき、京都府木津川市で開催された『Maker Faire Kyoto 2023』に行ってきました。Maker Faireは東京をはじめ各地で開催されますが、2023年4月29日と30日は京都府木津川市で開かれました。今回はキッズ向けの工作や科学体験系の展示や、音を奏でる楽器のような作品も多く見られました。そんな京都会場で見てきた作品の中から、特に印象に残った展示をご紹介します。

Maker Faireとは?
ひとことで言うと『ものづくりの祭典』で、日ごろからものづくりに取り組んでいる方々が作品を披露するイベントです。詳しくは前回の記事をご覧ください。

サーキットベンディング


電子楽器やおもちゃからの基板から信号を「音」として取り出して聞いて楽しむ試み。基板上のパターンをいろいろ探って音の出る箇所を見つけている。


“リズム”のように聞こえる規則正しい音はクロックやシリアルデータの矩形波で、サイレンやビープのようなうねりを伴う音はオペアンプなどの増幅回路の発振による正弦波だと思われる。プローブを使ってデジタル信号ラインから直接ピックアップしたり、増幅回路の出力が入力に戻って発振が起きたりすることで出ている音のようだ。


引き出した配線をジャックに接続しておくことで、プローブであるプラグを差し込むだけで音を“呼び出す”ことができる。まるで効果音の記録されたサウンドボックスだ。

サーキットベンディングとは、電子機器を改造して本来の用途以外の目的に使ったり、このように楽器にしてしまうという試み。音楽を奏でるために作られた電子楽器を別の楽器に改造してしまうこの作品の試みは面白い。機器の動作で生じるノイズや電磁輻射を取り入れる音楽スタイルも存在する。

MRI(核磁気共鳴画像法)を自作


検体に強い磁力を放射し、水素原子核から放射される電磁波を検出することで造影するMRI。前回ご紹介した東京会場での『自作加速器』も同じだが、「そんなものを個人で作れるのか!」という驚きの展示もMaker Faireらしい。


実際のMRIは検体を台に載せて動かしながらセンサーを走査させるが、これは検体を固定したまま磁力の方向を変えることで実現させている。また、電磁石ではなく固定磁石を使うことで冷却のためのヘリウムガスが不要となっている。


実際に造影した画像も展示されていた。

素人の私には仕組みが想像もできなかった医療機器だが、作者の方による分かり易い説明により原理を含めていろんなことを知ることが出来た。分かりやすい洗練された説明も参考になる。製作者の表現力や知性に触れられるのもMaker Faireの魅力だ。


簡潔で分かりやすいMRIの仕組み。幅広い年代のMaker Faire来場者を意識した説明。

自作レコードプレーヤー


3Dプリンタで成形したパーツや自作の基板を使って作られたレコードプレーヤー。EP盤、LP盤、ソノシートが再生できる。会場では80年代のシティーポップなどの懐メロを流していたが、音飛びが無く音質もクリアだった。


トーンアームに取り付けた錘(おもり)によって針圧(針に加える圧力)を微妙に調整している。


ピックアップ直後で増幅することで外来ノイズを防いでいるとのこと。


制作者が所属されている『AKC(Amateur Kit Creators)』は、別のメンバーの方が昨年の大垣会場でアマチュア無線関連機器を展示していた。

アーム・テルミン


電子楽器のテルミンは、電極と手の微妙な位置関係にて音階や音色を変えるが、これはそれを演奏しやすくする試み。ルーレットのようなアームによりアクリル板上に配された電極と手の位置を物理的に固定することで、簡単に好きな音が出せる仕組みで再現性が高い。テルミンがカンタンに演奏できる。


側面の圧力センサーを押すと音が出る仕組み。ビブラートを効かせることも出来る。


電極を貼ったアクリル板がキレイに光る。

手回しオルゴール


メロディーがパンチカードの穴によって記録されているオルゴール。制作者がアレンジしたゲーム音楽を奏でる。


無造作に積まれたロール紙の1つ1つに曲が記録されている。


オルゴール本体は木製のティッシュ箱に乗せられている。共鳴効果で音が大きくなるという。
また、内部にピックアップ素子も付いていて、アンプに接続して大きく鳴らすこともできる。

磁石+ホール素子を使用したスイッチ


スプリングや接点を使わないスイッチ。押した反発は磁石の反発力で実現し、押下は磁力を検出するホール素子で検出する仕組み。押下検出判定は磁力強度で自由に設定できるのでキーストロークが自由自在。物理的な接点が無いため、耐久力(押下寿命)が極めて長い。

展示ではテンキーでデモンストレーションしていたが、ストローク(どこまで押し込めば押下が検出されるか)をダイヤルで自由に設定できる。例えば、これを電鍵やPTTスイッチに使えば、好みの重さで送出できることになる。


説明用の拡大模型。スイッチ部分は磁石の反発で宙に浮いている。

黒電話を使った電卓


ニキシー管やLEDを使って空中配線で作られた時計などを展示。制作者は昨年のMakerFaire東京会場でも展示されていた。敢えて結線を見せる空中配線で、レトロでノスタルジーなスチームパンク的雰囲気を醸し出している作品。


今回注目したのは、なつかしの黒電話で作った電卓。
両サイドに付けたハンドルで桁の繰り上げ/繰り下げと足し算/引き算を切り替え、数字をダイヤルで入力する。

ひかり拓本


光を照射して出来た影だけを撮影する特許技術により、物質の表面のわずかな凹凸を読み取ることができるアプリ。奈良文化財研究所が開発。太古の石碑や古い銅貨などの文化財に刻まれた文字の解読や解析に実際に用いられている。


全周囲から被写体にライトを当てることで表面の僅かな凹凸を検出する仕組み。

「見せる」ことで「魅せる」Maker Faire


さて、3か所で開催されたMaker Faireを2回に分けてご紹介しました。ユニークなアイデアでものづくりに勤しむ出展者と、新しいものを求める好奇心の旺盛な来場者は双方にメリットがあります。

私自身を含めアマチュア無線家は、『ものづくり』といえば「アマチュア無線関係などの実用的な回路」を連想しがちです。逆に言えば、トランシーバーで見ず知らずの人と話すことは、無線を知らない一般の人にとって珍しく興味深いモノに映るでしょう。そう考えると、ハムイベントは(おもに)アマチュア無線家がアマチュア無線家に対してアピールする場ですが、アマチュア無線の宣伝や普及という点では『ハムがハムに見せる場』だけでなく『ハムが非ハムに魅せる場』にも出展が必要だと思います。

今回の開催地は、会場は京都府南部の木津川市で、最寄駅から会場まで坂道を30分ほど歩きました。出展者以外は車での来場は禁止で、周辺にはお店もありません。入場料が1000円(前売り800円)必要でした。それでもたいへん多くの来場者でにぎわっていました。もし、こういった場所でアマチュア無線という趣味の活動を紹介すれば、これほど好奇心が旺盛でオープンマインドな来場者の10%に無線に興味を持たせ、1%を開局まで持って行くことが出来るのではないか・・・ と感じました。

なお、出展者や公式ブースでの物販もあります。手作りの物を買うことで制作者や運営を応援することができます。


抵抗器型箸置き。500円。


公式バッジ。2個300円。

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