2015年3月号

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連載記事

熊野古道みちくさ記


熱田親憙

第6回 熊野を思う森の護り人

那智の火祭りを見た後、熊野の森づくりに励む栗栖敬和さんを川湯温泉の「ペンションあしたの森」に訪ねた。窓際に立つと、木枠の20cm位高さのところに色の違いを発見。2011年の台風で浸水された高さという。川沿いの家はみな復興に苦労されたようだ。夕食後、栗栖さんの森づくり談義を聞く機会を得た。

栗栖さんは東京で建築会社に就職。その後ホテル勤務を経て、20余年ぶりに本宮町に帰る。殆ど手入れされていなかった山林を引き継ぎ、15年位山に日参する日が続いた。将来林業だけでは生計は無理だと気づき、昭和60年(1985年)よりペンション経営も始めた。熊野古道のそばに所有林があり、観光客に気軽に声をかけたり、都会の女性向けの林業体験「山の神汗かきツアー」を20年も開催するなど、山の魅力を人々に伝えておられる。林業の必要性を説く背景や展望をお伺いした。

今から350年程前、建築用材や薪炭のニーズが高まり、熊野地方でも林業が産業として発展し始めた。その結果、廃道になりかかっていた熊野古道が、山仕事に通う作業道として蘇った。林業が盛んな地域ほど熊野古道の原型が残っている。また、10年前に熊野古道が世界遺産に登録されてからは、訪れる観光客が年々増え続けている。しかし、古道周辺の山林は若い人工林(杉、檜)が続くだけで、多様性に乏しい。これでは観光客の皆さんに満足して頂けないことに林業家として気づき、針葉樹と紅葉樹の混成林にして行く新しい試みを始めた。そのために、間伐を繰り返し、太陽光が地表に充分に届くようにすることで、下草や下層木が芽吹き始め、次第に熊野古道周辺は多様性に富んだ森が誕生する。

森には地球温暖化効果ガスCO2の吸収装置という大切な環境資源の側面もある。熊野の森が果たす文化的価値や地球温暖化防止の2つの役割を地元の人々に任せっぱなしにされているが、現場に係る人びとは、ほんの少数であり、もはや限界にきていることを大勢の皆さんに叫びたい。一方、過疎化した山村に再び人々が戻り、生活が出来るような村づくりのための森林交付税のような制度も重要なことであると結ばれた。

また緊急課題として、熊野古道を守り維持するために、古道周辺をパトロールするレンジャーの育成が早急に必要であると付け加えておられた。

翌日、栗栖さんの山林のある発心門にガイドをいただいた。まず、発心門王子に参拝して、鳥居の筋向いの栗栖山地に入り、下層林を生やして杉の森づくりをするさまを説明していただいた。間伐して光が入ることで、眠っていた照葉樹林が芽生えて下層木となり、混成林を形成することになる。これにより保水力、二酸化炭素吸収、風光力の向上が期待できるという。自然の力を借りて森の植栽を変えて行くには、必ず成功させる信念と時間をかけて待つ忍耐力が求められることを学んだ。これからのデベロッパーにも求められる視点かもしれない。


スケッチ 田辺市本宮町 バス停発心門王子付近

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