2016年8月号
連載記事
熊野古道みちくさ記
熱田親憙
第27回 波太神社の秋祭り
泉州の紀伊参詣道や浜街道周辺の10月は、秋祭りで大賑わいである。中でも波太神社の「やぐら」の宮入りが豪快と聞き、10月11日、最寄りの南海・鳥取ノ荘駅に向かう。正午過ぎに神社前に着くと、広場では3地区・下出、石田宮本 黒田の順でやぐらの引き回しが始まっていた。ロープを引く男女の若衆が引き回し、カーブを切り終えるとやぐらを上下に揺らし、お互いの祭を盛り上げていた。奥まった拝殿近くの参道で宮入りを待っていると、黒田地区のご婦人が話しかけて下さった。
「今日は息子がやぐらに乗るので、応援に昼前から来ているんですよ」「息子は結婚して家を出ているけど、昨日から家族連れて帰っているの!」と表情を崩す。「やぐらに乗るには、事前に申し込むのですか」。「子供のときからやぐら行列の役割が決まっていて、年々役割が変わっていくのです。成人すると責任があるので欠席できず、自ずと団結心がでてくるわね」。周りの露店には、初々しいハッピ姿の少年少女が群がり、お喋りに屈託がない。
15時になると下出組のやぐらの太鼓が近づき、石橋を渡って一旦止まり、助走をつけて本殿の広場に向かって一気に石段を駆け上がった。観衆の拍手に迎えられて本殿前で気勢をあげる。後の組も続いて3組が揃うと、順次、若衆2人が屋根に上り、組の団長旗を広げてお披露目をし、歓声と共に紙吹雪が舞った。次に、袋入りの紅白餅が観衆に投げ込まれ、あちこちから長い手が伸びていた。私の足元にも袋が届き「幸せ、縁起」に預かった。
しばらくすると地元に戻る準備に入る。この行程が阪南市20地区に割り当てられ、一日中続く。見事な団結ぶりをみると、町おこしには「祭り」を核にするのが一番だと思った。
この祭の盛り上がりには、実は10月4日の「やぐらパレード」の助走がある。パレード前の15時30分を目安に、各地区から市役所前広場へ「やぐら」が集まる。人間の背丈以上の木製の大二輪の駒に乗せた「やぐら」は、地区それぞれの特徴ある精密な彫刻で品格を整え、前列に若衆、後列に可愛いハッピ姿のこども親子を従えて入場。
広場では、梶台に乗った若衆の音頭と太鼓で、やぐらを上下に振って気勢を上げ、出会いを歓び合っていた。1組の休みがあり、19組のやぐらが集まった16時、市中パレードの式典が行われた。市役所ビル屋上からみた俯瞰図は、波打つやぐらと人の波でまるで荒波の大海に浮かぶ船団のようだ。パレードの道路脇は暖かく見守る人波で埋まり、町全体で自分たちの祭りを楽しんでいる様は快い。店を閉じて若衆に変身した姿は、町の団結に一役買っていると思った。
こんな賑わいの陰に、鳥取ノ荘駅の反対側に大阪夏の陣の悲恋物語が「てまり唄」として歌われているお菊さんの「法福寺」があった。境内の碑文の説明にお菊の無念さが偲ばれた。どの町にも様々な歴史があり、地域それぞれの人の思いが祭を生み出していることに気づかされた。
スケッチ 波太神社(阪南市石田)
熊野古道みちくさ記 バックナンバー
- 第31回 「黒潮の基地」だった湯浅
- 第30回 湯川王子社
- 第29回 紀の川を渡る
- 第28回 山口王子跡から山口神社
- 第27回 波太神社の秋祭り
- 第26回 大阪最後の宿場町へ
- 第25回 タオルの町・泉佐野市へ
- 第24回 和泉式部と行基の伝承地
- 第23回 木綿の産地だった泉大津市
- 第22回 備長炭の魅力
- 第21回 日高川最後の筏師
- 第20回 中将姫会式にこども菩薩
- 第19回 和泉国で街道は太く
- 第18回 住吉神社から方違神社へ
- 第17回 阪堺電車で安倍王子神社へ
- 第16回 上町台地に残る熊野街道(天満橋~天王寺)
- 第15回 淀川下って渡辺津(八軒家浜)へ
- 第14回 熊野詣の起点・城南宮
- 第13回 春一番、男の祭だ!お燈まつり
- 第12回 美味追及するみかん農家
- 第11回 大辺路の遺産登録の夢を追う
- 第10回 西日を受けて神幸船は走る
- 第9回 いい塩梅に干し上がった南高梅
- 第8回 熊野のミツバチに魅せられた男
- 第7回 伏拝に生かされて80年
- 第6回 熊野を思う森の護り人
- 第5回 那智の火祭との出会い
- 第4回 今年も那智の火祭りへ
- 第3回 湯登神事と宮渡神事に神の予感
- 第2回 まずは大斎原(おおゆのはら)へ
- 第1回 アンテナの見える丘