2015年2月号
連載記事
熊野古道みちくさ記
熱田親憙
第4回 今年も那智の火祭りへ
昨年は那智田楽の鑑賞を楽しみ過ぎて、午後の火祭りは、凄い人出で見やすい場所がとれなかった。今年はどうしても那智の火祭りが見たくて、御滝本・飛龍神社に直行した。生憎の雨模様であったが、参道近くの要所、要所はすでにアマチュアカメラマンで埋められていた。結局、参道最前列のカメラマングループの後ろに陣取りすることができた。時計をみると10時30分。大松明が現れる午後2時まで時間はあるが、陣を離れるわけにいかず、結局周りの人と世間話をして、時を過ごすことになった。
大阪から自動車で4時間掛けて初参加の中年夫婦。暇が出来たので名古屋から飛んできたというカメラ好きの青年。スペースを空けてくれたカメラマングループの人たち。そのリーダーは那智勝浦町出身の大阪人で、今日は4時ごろに現地入り。大松明の担ぎ手とこれをケアする氏子を撮りたいと、思いは熱い。
13時30分、 「伏拝み扇立神事が始まる」とアナウンスされると、山中の客席は一瞬静まり返った。雨雲もいつの間にか晴れ間に変わり、木々の隙間からみえる御滝の流れに水かさを感じ、重なる水しぶきの白さに扇御輿を迎える心意気が窺えた。参道に点火まえの大松明と祭主に当たる神職が下りてこられた。
13時50分、飛龍神社前で小松明が点火されて、一の使い、二の使い、三の使い が順次、ぺアで階段を登って来る。一方神社境内の隅では遙拝神事が行われ、間もなく鳥居脇の火付場が急に明るくなった。50キロもある大松明12体が点火された。
14時、いよいよクライマックス!これから、本社から下りてくる扇御輿12体を大松明が参道中段までお迎えに参上。大松明が先導の指図に沿って、順次石段を登り始め、客席に大松明が近づいてきた。石段より高所に陣取っていたので、列の動きを俯瞰図的に見ることが出来た。昨年では味わえないダイナミックさ。徐々に増す炎の勢いに汗ばむ担ぎ手は、参道わきの石垣に松明をぶつけて火勢を調節し、お付きの氏子は火の粉を抑えるために、手桶から汲んだ水を口にふくんで霧吹きをして、「ハーリャ、ハーリャ」の掛け声で石段を登り、扇御輿を迎える。ここから大松明の炎は扇御輿を清める役目となり、風向きを変えて石段を下りてゆく。担ぎ手は大松明の炎や重さを調整しながら重心を腹帯に乗せて,円を描きながら下りてゆく。扇御輿に乗っている神の里帰りを喜びあう振る舞いであろうか。下りてきた扇御輿は鳥居前に左右6体に分かれて立ち並び、御滝本大前に神饌を供えて祈念する儀式が行われる。これをカメラのレンズを通して見届けると、観客の殆どは席を立つ。大松明の消し炭にご利益ありと拾う客もチラホラ。扇御輿12体を本社で見届けるのは氏子たちだけかもしれない。観客は、非日常的な森の中で神秘的な世界をみることに意義があるのだろう。私は燃え盛る大松明の炎の動きに人格を見たように思う。
スケッチ 飛竜神社付近参道
熊野古道みちくさ記 バックナンバー
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- 第26回 大阪最後の宿場町へ
- 第25回 タオルの町・泉佐野市へ
- 第24回 和泉式部と行基の伝承地
- 第23回 木綿の産地だった泉大津市
- 第22回 備長炭の魅力
- 第21回 日高川最後の筏師
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- 第18回 住吉神社から方違神社へ
- 第17回 阪堺電車で安倍王子神社へ
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- 第14回 熊野詣の起点・城南宮
- 第13回 春一番、男の祭だ!お燈まつり
- 第12回 美味追及するみかん農家
- 第11回 大辺路の遺産登録の夢を追う
- 第10回 西日を受けて神幸船は走る
- 第9回 いい塩梅に干し上がった南高梅
- 第8回 熊野のミツバチに魅せられた男
- 第7回 伏拝に生かされて80年
- 第6回 熊野を思う森の護り人
- 第5回 那智の火祭との出会い
- 第4回 今年も那智の火祭りへ
- 第3回 湯登神事と宮渡神事に神の予感
- 第2回 まずは大斎原(おおゆのはら)へ
- 第1回 アンテナの見える丘