2016年3月号

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連載記事

熊野古道みちくさ記


熱田親憙

第22回 備長炭の魅力

今年も土用丑の日の前後に、何軒かのうなぎ店ののれんをくぐった。うなぎは好物なのでよく食すが、シズル感があって夏が美味しい。旨いうなぎ店は、直火焼きの巷の「うなぎ」店であった。特に「紀州備長炭を使用」と謳っている店はうなぎ料理の付加価値にされていた。

炭といえば子供時代のあの柔らかい母の匂いのする炭火炬燵や火鉢を思い出し、炭火による調理という印象は稀薄であったように思う。アートを始めてからはインテリア展などで備長炭の風鈴、脱臭置物やグッズなどに接し、いつの間にか、温かみのある、質素で一徹な文化財としての備長炭のイメージが出来上がっていった。和食が世界文化遺産に登録された今、外国の観光ビジターから和食の調理材としての備長炭の説明を求められ、困ったことがあった。丁度、若いウバメガシに囲まれた紀州備長炭発見館が田辺梅林の近くにあったので訪ねることにした。

閉館間際であったが、スタッフの平山定一さんが親切に案内して下さった。中でも備長炭の特徴の説明が腹に入り、堰を切ったように「要は生木が約2週間赤土粘土の窯で高温の蒸し焼きにされて、96%の炭化となり、原木のミネラル(カリウム、マンガン、マグネシウム)がわずかにのこり、水分が抜けて多孔質構造になることから、すべて始まるわけですね」と念を押してしまった。材の堅いウバメガシになると、他の針葉樹より高密度で火持ちがよく、無煙に近いので、調理に便利で重宝されているとの事だ。

備長炭の特徴をまとめてみると、①焼き物に試用した場合、加熱効果が大きく、うちわ一本で微妙に火力調節ができて近赤外線を放出し、焼き物の表面がパリッと仕上がる。②水道水に用いると、多孔質構造から塩素、有機物が吸収されて浄水化、土壌に埋めれば微生物が住んで土地改良に貢献などに大別されるという。この特徴ある備長炭は優れものとして昔の人々の生活の中で重宝されて、紀州の自慢の品として育っていった。当時は原材料の運搬に限界があったため、当地に自生していた30年もののウバメガシを取り尽くすと、炭焼き小屋を移転したと、展示場の常設小屋を指しながら、説明していただいた。山奥の孤独な空間の中にも、陽だまりに包まれた自分だけの居場所に、幸せな炭焼きライフを楽しむ老夫のシーンが思い浮かんだ。現在はウバメガシの原木は輸入に頼っているので、炭焼き小屋の移転はなくなった。

発見館には5基の炭焼き窯があり、希望者に委託生産させている。丁度この時は1基のみ稼働しており、間もなく窯出し時になる白煙が昇っていた。窯の表の作業場では、枝を払われ、長さの揃った原木が、次の窯の火つけを待つように、整然と積まれていた。原木の傍には仕事を終えた斧や鋸が静かに眠りに就いていた。作業員は居られなかったが、備長炭が健在であることを見届けた。帰り際、「外国観光客にもしっかりPRしてくださいね」と平山さんに申し上げて帰路に着いた。


スケッチ 紀州備長炭発見館(田辺市秋津川)

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