2016年8月号

トップページ > 2016年8月号 > 楽しいエレクトロニクス工作/JA3FMP櫻井紀佳 第39回 お酒沸かし

連載記事

楽しいエレクトロニクス工作

JA3FMP 櫻井紀佳

第39回 お酒沸かし

最近の若い人で日本酒の好きな人は少ないようですが、私は日本酒が好きで毎日のように飲んでいます。多くの日本酒は少し燗をして飲むとおいしく感じます。特に日本酒を入れた徳利を水から沸かしたお湯で燗をするとよいという記事を何かで読んだ記憶がありますが、毎日のことになるので面倒くさくてできません。酒燗器と称する既製品もありますが、ほとんどが土瓶のような格好をした容器で、いかにもという感じでスマートさがなく、これも若い人に人気のない原因の一つとも思われます。そこで、無線屋、電気屋として、何かもう少し気の利いたものはできないかと考えてみました。

1. ニクロム線ヒーター

一番簡単なものはニクロム線によるヒーターでお酒の燗をする方法ですが、AC100Vの商用電源をそのまま使うには絶対安全な絶縁をする自信がありません。そこで、以前に紹介した連載第15回~第17回の「太陽電池で無線をしよう!」で使った12V系のバッテリーによる電源を使うことにしました。これであれば12Vですので感電はしないでしょうし、また電源がショートしても大きな事故にはなりません。お酒沸かしに使う容器はタンブラーといわれ、内側がステンレスで外側が透明樹脂のどこにでも売っているものです。


(左)タンブラーの外観、(右)ニクロム線を巻いてマイカテープで絶縁

底がネジ状になっていたので、これを外すと外側の透明樹脂の部分が外れます。内側のステンレスの部分にニクロム線を巻いて加熱することにしました。ニクロム線を巻くには当然絶縁が必要で、絶縁しないとショートします。インターネットで色々検索すると耐熱テープを見つけることができました。このテープの素材はマイカ板で構成され、粘着力も結構あってこの用途に使えます。


マイカ耐熱テープ

まずは内側のステンレスの部分にマイカの絶縁テープを巻き、ニクロム線を巻いてその上にもう一度マイカの絶縁テープを巻いたのですが、見栄えのよい巻き方にならず格好悪くなってしまいました。

外側の樹脂が透明なため、外部からニクロム線やマイカテープが見え見えで格好が悪いため、これらが見えないようこの部分だけ紺色に塗装しました。ニクロム線の外側に絶縁のマイカテープを巻いた部分は高温でテープが剥がれては困りますので外側からエナメル線で機械的に止めました。

ニクロム線は部品屋さんで買ってきたものですが、長年の電気屋のカンで0.6mmのものを1m位巻きました。このニクロム線は、仕様では3.82Ω/mとなっていますが、ニクロム線の温度特性は変化が大きく、常温でのテスターによる抵抗の測定値と高温時の動作抵抗は異なると思います。電源に接続して電流を計ると12.6V時に3.4A流れ、約3.7Ω/m程度であることが分かりました、従って加熱電力は42.8W程度になります。

タンブラーの底の部分に電極として3mm鍋ビスを取付け、給電マウント側はベニヤ板に銅板を釘で打ち付けたものを作りました。電極への接続は、車用の電気部品として市販されているコネクターを使っています。加熱させる際には上下の電極の位置合わせが必要なため、供給側とタンブラー側にそれぞれ▽印を付けて合わせるようにしました。

また、給電マウントの中心部に板状の磁石を取付けタンブラーの底にゴム磁石を内側に取り付けてお互いに引き合うようにして電極の接触不良防止に考慮しました。写真の給電マウント(ベニヤ板の台座)には電極が3つ見えますが、当初温度センサーを付けてコントロールしようと思ったのですが、これはまだ実現していません。


(左)給電マウント、(右)タンブラーの底部電極

このタンブラーにお酒を90%程度入れると約270ml入り、バッテリーが12.3V位の時は約10分の加熱でぬる燗、約15分の加熱で熱燗になりますのでその時の気分で取り出し時間を変えて楽しんでいます。

2. 高周波加熱

随分前から日本酒に高周波を照射すると旨くなると言われていましたが、周波数と旨さの関係は不明のように思われます。もし高周波であれば何でもいいのであれば電子レンジでお酒の燗をすると美味しくなる筈ですが、今までそのように感じたことはありません。そこで美味しさを追求するのではなく、高周波で金属容器を加熱し適宜燗ができればよいという趣旨で考えてみました。これはIHの考え方そのものです

どのように加熱部分を作ればよいのかよく分からないままにタンブラーに合わせてコイルを巻き、0.8mmのポリウレタン線を約140回巻いて整形しました。このコイルのインダクタンスは約1mHとなりました。

最初は12V系の電源でコイルを駆動しましたがほとんど熱源にはなりませんでした。なお12V系でのFETドライブは、後で行った100V系とは違ってFETが壊れることはありませんでした。基本的なことを調べないと実用にならないと思われ、まず容器と周波数の関係を調べてみます。

使用する周波数はドライブするFETの特性も考えて15kHz程度にすることにしました。このコイルと100nFのマイラーコンデンサーとの同調点は約16kHzで、測定する回路は次のようになります。

信号源はDDS(Direct Digital Synthesizer)で出力は0dBmとしました。出力にオシロスコープをつなぎピーク電圧を測定すると次のようになりました。正弦波なので実効値は1/√8倍すると得られます。負荷を50Ωにすると測定上理想的ですが、手元にこの値の抵抗がなかっため47Ωで我慢することにしました。


測定の結果16kHz付近にピークがあり、一応同調していることが分かる

この実験を元にドライブ回路を考えてみます。電子レンジをはじめ、誘導加熱IHのドライブ方法は次の図のように色々あるようですが、できるだけ回路を簡単にするためQuasi-Resonant Inverterという方法で進めてみます。

回路のインピーダンスを上げて電力を得るため、電源としてAC100Vを整流すると直流のピークが140V位になり、5Vや12Vの低圧に慣れた者にとっては少し危険で注意が必要です。また、AC100Vの商用電源は片方がアースされているので接続が逆になるとアース側を触っただけで感電するので回路全体を絶縁し直接触らないように注意しなければなりません。

この回路はL2とC4の直列共振をQ1とD3でスイッチして電力を供給します。実用的なものを作る前に仮の回路で実験してみることにしました。電源が140VなのでQ1のFETも高圧のものが必要となり、ソースドレイン間電圧450Vの2SK320で試験してみました。

以前の連載、第37回で制作した「パルスジェネレーター」でドライブしてみましたが、どういう訳かFETがすぐ破壊されてしまいます。なにかの間違いかともう一度FETを取り替えてみましたが結果は同じですぐに壊れます。パルスジェネレーターの周波数は共振周波数と同じ16kHzで、デューティサイクルは50%でスタートし、デューティサイクルを変えても破壊は止まりません。破壊の原因を調べるためオシロスコープで当たっているうちに何個か持っていたFETがすべて壊れてなくなってしまいました。


左はDC140V電源、中は低圧電源とドライブ回路、右は加熱コイル

ピークで耐圧を超える高圧が出ているのではないかとドレイン電圧をオシロスコープで測ってみました。450Vに達するような電圧は出ていませんでしたが測定中に壊れてしまいます。次に電流が過電流になっているのではないかとソース側に小さい抵抗で電流を測り、電流的に大きい2SK1163に取り替えても破壊されてしまうので対応のしようがありません。パワーFET回路に経験の少ない私の知らない破壊の要素があるようで、仕切り直しが必要なようです。

考えられる破壊の原因の一つとしてインダクタンスが大きすぎるのかも知れません。IHの設計の基本がよく分かっていないのでLとCの決め方が曖昧です。折角デューティサイクル可変のパルスジェネレーターを作りながら、それを活用する前にFETが破壊されてしまうため、今回は納得できる実験にならず残念です。もう一度検討し、出直したいと思います。

楽しいエレクトロニクス工作 バックナンバー

頭の体操 詰将棋

Masacoの「むせんのせかい」~アイボールの旅~

  • 連載記事一覧
  • テクニカルコーナー一覧

お知らせ

発行元

発行元: 月刊FBニュース編集部
連絡先: info@fbnews.jp