ものづくりやろう!
2023年3月1日掲載
コロナも落ち着いてきた2月中旬、学生時代の同期会が数年ぶりに開催され、同期生が6名集まりました。そのうちのひとりとは40数年ぶりに会い、懐かしさが込み上げてきました。宴席も終わり、帰りの電車の中でも話をしていると、数年前に大阪に引っ越してきたそうです。引っ越し前に持っていた7台ほどの真空管ラジオを2台だけ残して、残りは泣く泣く処分したとのこと。残った2台のラジオに火を入れ聞いているとほっとしているそうです。
お互い同じ寮で生活し、娯楽と言えば持ち込みを許されたラジオだけだったので、今でもその時の記憶がそんな気持ちにさせるのかもしれません。それでも、それが理由でタイトルのようにAMラジオを作った、のではありません。
先日、ストックしている部品を少し整理しようと部品箱(写真1)のお片付けを少ししました。
理由は、以下の会話からはじまりました
XYL: 「部屋のゴミとか、ごちゃごちゃの部品箱、何とかしてよ」
RGD: 「なんともならん裏のかきのき ~ ~」
XYL: 「なにそれ?」
写真1 私の部品箱=宝箱(ゴミに見えますか?)
ということで部品の片付けをはじめましたが、部品をビニール袋に無造作に入れ、それを一応名前のついたボックスに投げ入れているので何がどこにあるのかサッパリわからん!
ゴソゴソ袋を整理しているとUTC7642が4個とLA1600が5個出てきました(写真2)。
写真2
UTC7642(左)とLA1600(右)
LA1600はすぐに「AMバンドラジオIC」とわかりました。AMバンドラジオICと銘打っていますが、昔、貴田電子さんで購入した7MHzの受信機の中にLA1600が鎮座しており、これでいろいろな受信機が作れそうだなと思ったものです。
UTC7642は記憶に無く、ネット検索することにしました(この段階で部品整理作業は破綻)。ネット上でワンチップラジオICであることがわかり、何年も前に秋葉原のaitendoでLA1600とコイル、トロイダルコア、DSPラジオキット等、そしてこのUTC7642を購入した記憶が蘇ってきました。何も考えずに衝動購入したものばかりです。ああいうところに行くとついパーツ皿に入れてしまいます。
それはさておき、まだUTC7642で回路を組んだことがありませんので試しの製作をしてみることにしました。LA1600も5個あり、ネット上の情報ではUTC7642とLA1600とを組み合わせて7MHzの受信機作成を紹介しているサイトもありましたので、これを試してみたいなと思いました。ただ、UTC7642ってどんな奴なのか不明なのでLA1600との共同制作の前段階として、UTC7642の性能を確認するために簡単なラジオ(いつも簡単なものしか作っていませんが・・・)を作ってみることにしました。うまくいけば来月あたりにはLA1600も使った回路が出来上がっているかもしれません。
UTC7642のデータシートはこちらです。電源は1.5Vで動くとの事。データを見ると次のような回路事例の記載がありました(図3)。こんな少ない部品で動くんですね。
図3 「APPLICATION
CIRCUIT」(UTC7642データシートより)
また、さまざまなネット情報を確認しましたところ、「互換ICに比べて受信感度が悪い」、「スピーカを鳴らすのは厳しい」等の意見があり、その対応策として高周波増幅段を追加したり、同調回路とICの間にエミッタフォロア回路を挿入したりと、このICを使ってラジオを製作した皆さんは色々と工夫されて使用されていることがわかります。私としては、UTC7642が何者かわかりませんので、シンプルな回路でチャレンジすることにしました。その回路図が図4です。図中で「*TP」と記載があるのは、テストポイントとして電圧をチェックしたり、アンテナを接続する位置を試すため等の覚書として記載しました。
回路図を見ての感想は、「ゲルマニウムラジオに部品をチョイ足ししたようなシンプルさ」でしょうか。
図4 UTC7642ラジオの回路図
足りない部品は無いかと見回すと同調用のコイルとコンデンサがありません。過去にレフレックスラジオを組み、今もラジオの中に入っているのですが、壊すことに躊躇してしまいました。しかたがないので直ぐに大阪日本橋K電子さんに直行です。K電子さんで部品を物色しているとUTC7642も売っているのをみつけました。1個52円でした。(必要もないのについでに1個買ってしまいました)
回路図4のように部品点数は多くありませんので、基板一枚にすべて入れてしまいました。ブレッドボード上にも作らず、ぶっつけ本番で基板加工とはんだ付けを行いました。基板にバリコン用の穴をあけ、そこにバリコンをねじ止めし、その後は他の部品を並べてはんだ付けしていきました。
また、音量調整用のボリュームは基板に穴をあける場所が微妙に取れなかったため、ポリケースに入れました。ポリケースは穴あけや加工が容易にできるので、がっちりしたケースを作るまでの臨時措置としてよく使用しています。
使用した部品の主なものは次の通りです。
表5 製作に使用した部品
写真6は、はんだ付けを終えた状態の回路です。
写真6 UTC7642ラジオ基板
使用した部品はわずかです。写真6ではUTC7642がコイルの右に配置してあります。写真6のコイルの右端にある2つのターミナルには、上段のターミナルにボリュームがつながっており、下段のターミナルには1.5Vの単3電池のケースが繋げてあります。
電源を入れる前に回路をチェックしました。間違いなしであることを確認して電池を入れます。電池を入れて受信信号の音を確認しました。
・アンテナ線の追加
電池を電池ボックスに入れた時にイヤホンにプチっという音がなりましたのでイヤホンは動作していました。しかしバリコンを回しても音が鳴りません。ネットの情報では信号強度が弱いと受信できないとの記述がありましたので、ロッドアンテナを図4のTP2やTP3に接続してみました。
TP2では全く何も聞こえませんでした。そこでTP3に接続するとわずかに受信音がありました。ロッドアンテナではそれ以上音量はアップしませんでした。そこで、アンテナの代わりに10メートルの導線を自宅ベランダから下にたらし、それをTP2に接続しましたがやはり音は小さいままでした。しかしTP3にこの導線を接続すると少し大きな音になりました。耳が痛くなるほどの大きな音ではありません。
受信できた局は、NHK第1放送とNHK第2放送でした。夜の10時頃に再度受信してみましたが他の大阪の民放局は全く聞こえませんでした。
・イヤホンからスピーカに変更
イヤホンの音量が低いため、イヤホンの代わりに100均ショップで購入したスピーカを接続しました。スピーカ内部にはアンプ機能もあるのでその電源は5Vのスマートフォン用充電池から供給しました。これらの全体を示したものが写真7です。
写真7 全体図
写真7は手前左から、ラジオ基板、ラジオ基板用電池、スピーカ用電源です。また、奥の左右はスピーカ、奥中央はボリューム調整用回路です。
・ノイズについて
ノイズが非常に気になりました。ハム音のような音ではなく、明らかにノイズの音でした。
ノイズが内部から出ているのか外部のノイズを拾っているのか分離するために、周辺の機器の電源を順次切断していきました。その結果、ノイズ原因は大部分が無線機の電源装置とパソコンのディスプレイから発生しているノイズでした。
周辺機器の電源を切っても少しノイズがのっていました。基板上にパスコンを何か所かに接続しましたが収まることはありませんでしたし、ネット上の情報にもノイズが多いとのことでしたので、これ以上の対応策はやめることにしました。
・抵抗による回路動作の相違点
図3と図4の回路を比較すると、図3の回路ではUTC7642の出力ピン3に1kΩの抵抗が1個接続されていますが、図4の回路では出力ピン3に1kΩの抵抗が2個直列に接続されています。図3がUTC7642の製造元メーカーによる推奨回路ですので下側の1kΩの抵抗はショート状態のほうが好ましい動作をするのではないかと思いました。
試しに、この1kΩの抵抗をショートさせて出力を耳で確認しましたところ、ゲインが大幅に落ちてしまいました。そこで元に戻しました。図4のほうが大きな音がなっていました。
地元のNHK局を2局受信することができましたが、他の局が受信できないという状況でした。ネット情報ではこれ以上改善するためにはICの前段に高周波増幅器を追加したり、LA1600を前段に置いたスーパーヘテロダイン式にしたりしています。
LA1600が多数あるのでUTC7642と連携させて受信機を作れるのではと思います。しかし、UTC7642はAMラジオですのでSSB、CW信号を受信するためにはUTC7642とおさらばする必要があるかもしれません。次回までにこの活かし方を考えたいと思います。
※この月刊FB News上でも、2022年1月号「Short Break TA7642を使ったストレートAMラジオの製作」と、2018年10月号「楽しいエレクトロニクス工作 第65回 AM受信機」と、このICを使った受信機について大いに参考になる記事があります。私も製作までのリサーチ段階で参考にさせていただきました。私のように製作だけの話ではなく、様々な実験をされておられ、参考にさせていただきました。
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