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第四十回 単電源から正負両電源を作る

2023年3月1日掲載


Dr. FB

私たちが使う多くのアマチュア無線機にはDC電源が必要です。普段、私たちは赤黒二本線のDCケーブルを定電圧電源あるいはバッテリーから無線機に接続してDC電源を供給します。ところが世の中にはややこしい電源があります。ややこしいといえば語弊(ごへい)がありますが、ある点を基準として例えば+6V、-6Vといったプラス(正)とマイナス(負)の電源です。では、その+6Vあるいは-6Vの正負両電源はどのようなところで使われるのでしょうか。その正負両電圧を加えなければ動作しない素子があります。

オペアンプの動作には正負両電源が必要

その素子といえば、この月刊FBニュースの電子工作でもたびたび登場するオペアンプ(Operational Amplifier)です。オペアンプそのものは正の電源と負の電源の正負両電源が必要です。図1は、正負両電源が必要なオペアンプNJM4558Dの端子配列図です。この図を見ると分かりますが、4番ピンは-Vcc、8番ピンは+Vccと記載されています。つまり仮想のGNDを設定して、その仮想GNDを基準点として4番ピンには例えば-6V、8番ピンには+6Vの電圧を印加するという意味です。一般的な定電圧電源といえば赤黒の二つの端子がついており、赤がプラス(正)で黒がマイナス(負)で、黒色の端子を基準として赤色の端子の電圧を設定します。この定電圧電源の出力は正の電圧だけですので、オペアンプの+Vccにその正の電圧を加えたとしても、負の電圧の-Vccの印加はできませんから動作しません。


図1 正負両電源の必要なNJM4558Dの端子配列図

それでも、これまでこの月刊FBニュースで紹介された電子工作では特殊な電源を使わず、電池や普通の定電圧電源でオペアンプを動作させている回路がほとんどです。正負両電源が必要と説明しましたが、実は単電源でも動作させることができる方法があります。
(1) 単電源で動作するオペアンプを使用する(図2)
(2) 単電源から正負両電源とみなせる回路を作る
(3) 単電源から正負両電源を発生させる独立した電源回路を作る

単電源で動作する汎用のオペアンプLM358の端子配列図を図2に示します。図1で示した両電源で動作するオペアンプとは黄色で示した4番ピンと8番ピンの名称が異なるだけで、ICのスペックは異なりますがピン配置はすべて同じです。これなら電源の接続は私たちが普段使っている定電圧電源で用は足りそうです。


図2 単電源で動作するLM358オペアンプ

それならすべてのオペアンプをはじめから単電源で動作させるようにすればよいと思うのですが、正負の電源を加えることで、そこには両電源でしか実現できない性能を見ることができるのです。

抵抗二本で±6Vの正負両電源を作る


図3 抵抗二本を使った分圧回路

図3のような抵抗2本で作った回路があります。抵抗値をR1=R2とします。R1、R2は1Ωでも10kΩでも構いません。中点(C)に黒のテスト棒、A点に赤のテスト棒をそれぞれ当てA-C間の電圧を測定します。VA-C=6.9Vを表示します。13.8Vの半分の電圧です。次に黒のテスト棒はそのままで、赤のテスト棒をB点に当てると、デジタル電圧計ではVB-C=-6.9Vを表示します。針のメータの付いたアナログテスターでは、針は左に振りきれますので一瞬だけとしてください。メータが壊れてしまいます。抵抗2本で±6.9Vの正負両電源を作ることができます。

A-C間、B-C間に何の負荷も接続していない状態では、VA-C、VB-Cには同じ電圧が現れますが、異なる負荷を接続するとVA-C、VB-Cは異なった電圧を生ずることになります。ほぼ同じ負荷であればこの回路は使えますが、大きく異なる負荷の接続では残念ながら使えそうにもありません。

正負両電源で動作するオペアンプを単電源で動かす方法

私たちが使っているトランシーバーの中にも多くのオペアンプが使われています。動作は単電源を両電源に見なしてオペアンプを動作させています。「みなし動作回路」が組み込まれています。例えば反転増幅器を単電源で使う方法の一つに、オペアンプの+電位を印加する際、定電圧電源のGNDをゼロ点とするのではなく別の電位にして使う方法があります。動作の基準点を変えて、単電源を両電源とみなして使います。

それをうまく説明された記事が月刊FBニュースの2011年11月号に掲載されていますので、詳しくはその記事をご参照ください。また、図4にその記事を引用した一部を掲載しています。


図4 オペアンプを単電源で使用する場合の回路

正負の電源に対応した三端子レギュレータを使う方法

結果だけを先に説明すると、後述する図5で示すコンパレータとトランジスタを使った正負両電源回路よりここで説明する三端子レギュレータを二個使った回路の方がさらに簡単で低コスト、かつ正負の出力電圧も安定している正負両電源といえます。

三端子レギュレータには正(プラス)の電圧を入力し、正の電圧を出力する78L05シリーズと負(マイナス)の電圧を入力し出力には同じく負の電圧を出力する79L05シリーズの二種類のレギュレータがあります。

負の電圧を作ろうとしているときに負の電圧を入力するのは矛盾していますが、正負二種類の三端子レギュレータをうまく組み合わせることで、仮想GNDを基準として正負の電圧を作ることができます。電流も100数十mAを得ることができます。欠点は、出力電圧は使用する三端子レギュレータに依存することで可変することができないことです。


図5 78L05、79L05シリーズの三端子レギュレータを二個使った正負両電源

メーカーのデータシートにはアプリケーションの例として78L05と79L05を二個組み合わせて図5のように正負の両電源を作る回路が提供されています。気を付けるところは、78L05シリーズも79L05シリーズも同じようなパッケージですが、リード線の割り当てが異なっていることです。

コンパレータとプッシュプル回路を組み合わせる方法

さて今回の主目的がここで説明する回路です。正負の両電源を必要とするオペアンプを使う回路で、その正負の両電圧をその都度可変するような使い方はないと思いますが、実験で使用する回路では+Vcc/-Vccの電圧の変化と出力信号の変化を見たいときがあります。そこで正負両電源の出力電圧を可変できる電源回路が図6です。実験用に一つあれば便利です。


図6 コンパレータとプッシュプル回路を用いた正負両電源

回路の制御にコンパレータ(IC1)を使っています。IC1そのものは、単電源で動作するLM358汎用オペアンプです。このオペアンプをコンパレータとして使用しています。多くの電流が取れるようにコンパレータの出力にプッシュプルのトランジスタ回路を接続しています。ここで使用するQ1、Q2はNPNとPNPの違いはありますが、特性が揃っているコンプリメンタリのトランジスタを使用します。ここでは手持ちのトランジスタの理由でQ1に2SC1815、Q2に2SA1015を使いました。これらのトランジスタに流せる最大電流は約150mAであることから、R3、R4には47Ωを使っています。

動作としてはIC1の3番ピンには入力電圧の12Vを10kΩと10kΩで分割した6Vを加えています。ここで3番ピンに入力される電圧をV3、2番ピンに入力される電圧をV2とすると1番ピンより出力される電圧V1は下記のようになります。
V3-V2=正の値 (0Vより高い値) のときV1=Vcc (電源電圧)
V3-V2=負の値 (0Vより低い値) のときV1=0V (GNDレベル)

Q1、Q2のエミッタ出力をIC1にフィードバックし、IC1でV3とV2を比較します。この動作が繰り返され、常にQ1、Q2のエミッタから一定の電圧を出力しています。この回路の特長は、Q1、Q2に使用するトランジスタの性能に応じて電流が取れることです。また、正負の出力電圧を可変することもできます。(図7)


図7 図6の回路を実験基板に組み込んでテストを行っているところ

市販品のDC-DCコンバータを使用する方法

出力電圧の可変はできませんが、それなり電流が取れるDC-DCコンバータをパーツショップで見つけました(図8)。価格は一個480円。入力電圧の変化にも出力電圧は一定ですが、オペアンプの正負両電源には最適なようです。回路はDC-DCコンバータであるため、ノイズの輻射があります。


図8 市販のDC-DCコンバータ 入力:DC9~18V 出力:±12V(0.25A)

まとめ

図3で示した抵抗二本の回路では正の電圧、あるいは負の電圧に接続するそれぞれの負荷の大きさが出力電圧に大きな影響を与えることを説明しました。三端子レギュレータを使う方法や図7の回路あるいは図8のDC-DCコンバータではその心配はありません。用途に応じた使い方が望まれます。

今回は、単電源から正負両電源を作るその方法について説明しました。また別の機会に実際の製作記事を掲載したいと思います。

<参考資料>
月刊FBニュース 2021年11月号 第1回 ジャンク堂開店。オペアンプ入門(1)

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