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第34回 【DIYの展示会】Maker Faireに行ってきました

JP3DOI 正木潤一

2023年3月1日掲載


昨年のハムフェア2022から2週間後の9/3(土)、私は再び東京ビッグサイトに足を運び、『Maker Faire Tokyo 2022』を見学しました。

『Maker Faire』とは、ユニークな発想で愉快なものや驚くようなもの、これまでになかった便利なものを作り出すモノづくり愛好家(Maker: メイカー)たちが集い、展示とデモンストレーションをおこなうイベントです。すでにあるものを真似て作るのではなく、興味のあることや好きなものをトコトン突き詰め、自分なりの方法で取り組んで実現させた作品が展示されます。

そういった、モノづくりの手段や過程に価値を見出す人たちの出展は、アイデアやアプローチに特徴があり、技術面の発想や工夫の面白いユニークな作品の発信の場となっています。私のように自作を趣味にしている人間は、自分の作品や活動を人に見てもらうことでモチベーションを維持できたり、他の人が取り組む様子を見て高めることができます。


Maker Faireのチラシ。オープンで親しみやすい雰囲気が表れている。

展示作品例

Maker Faireを知ってもらうには、実際に展示されていた作品を見て雰囲気を感じていただくのが一番だと思います。今回は、Maker Fair Tokyo 2022と、岐阜県大垣市にて12月3日に開かれたOgaki Mini Maker Faireにて私が気になった展示作品のいくつかをご紹介します。

東京会場 (2022年9月3日、4日開催)


画面をタッチするとお菓子が出てくるマシン。バネのような螺旋形状を利用して商品を押し出す機構は既存の自販機でも使われているが、それを敢えて作ってみたという作品。



厳格な工程管理で茶を淹れるマシン。お湯の温度、茶葉の抽出時間、そして注ぎ方までを忠実に再現することでプロの淹れるお茶の味に近づけるというもの。“ピタゴラスイッチ”のように、次々に工程が移ってゆく様子は面白い。工場のような大量生産のための自動化ではなく、あくまで人に代わって丁寧にお茶を淹れてくれる機械。



キャンプ用ウェザーステーション。センシング技術とITを用いてキャンプサイトの温度や湿度、気圧、風速などの気象データを記録するデバイス。アウトドア・アクティビティーを写真や動画だけでなく気象状況も記録することで、多次元的な思い出として残すというコンセプトとのこと。アウトドアライフをより豊かで楽しめるものに出来そう。



ロジックICだけで“CPU”を作る試み。パソコンやスマホを動かしているCPUも、その最小単位は論理回路。論理回路を大量に組んで、複雑な処理ができるCPUを作ってしまうというもの。並んだLEDが点滅する様子(レジスタ内のビット状態?)は昔のSF映画のようでロマンを感じる。いわば、現代の技術の祖先を再現する試みだが、むしろ近未来的な雰囲気すら感じるから不思議。



自分でCPUを作れるキットの有償頒布もあり、興味を持ったら製作にチャレンジできる。



比較的知名度の高い“テスラコイル”。写真に収めることができなかったが、バチバチと放電していた。



ドラマなどでおなじみの“脅迫状”を作るマシン。新聞紙から文字を自動で探して切り抜いて配置し、入力した文章をコラージュで作成する。これ自体は何かの役に立つわけではないが、ソフトウェアとメカトロを駆使して実現させる技術は高く、開発のプロセスで得られる要素技術は少なくない。実際、ネット上のライブラリを複数使用しているとのことで、既存のITリソースを活用した好例と言える。



触れずに感触を得るヒューマンインターフェース。位相などを調整した超音波を指に当てることで感触を与える。福祉用途などに使える実用的な要素技術になりそう。



90年前に使われていた電車のモーター作った扇風機。当時は直接商業電源(交流)で定速回転させていたモーターを、現在の電車で使われている技術(VVVFインバータ)を使って回転制御しているという。TVで取り上げられたこともある。骨董品のレストアを実現させる高い技術に対して、それを“扇風機”という用途に使うというギャップが面白い。



自作の“粒子加速器”。粒子を光速近くまで加速させて衝突させる機械。日本でもSPring-8で有名な高エネルギー物理学の分野。誰でも名前は知っていても何なのかは分からない。でも漠然と「なにかスゴイもの」ということは分かるので注目を浴びていた。



量子コンピューターの動作を可視化する試み。超伝導量子コンピューターのQPU内部の量子ビットの動きをクラドニ図形の描写で視覚化するもの。「先端技術を視覚的に表現する作品」の好例。

GHzバンドの信号(トラッキングジェネレーター?)に変調をかけ、SDRで復調、AF帯に変換してスピーカーを振動させ、樹脂ビーズでクラドニ図形を描写するというもの。量子ビットの動きがどのように図形に表れているのかは理解できなかった。製作者の方が丁寧に説明していたが、やはり難しくてよくわからなかった。


Maker Faireには楽器など音を奏でる作品のデモンストレーションも多く、会場はいろんな音でにぎやかです。


バーコードリーダーを改造した電子楽器。2値化する前のアナログ電圧を音に変える仕組みだという。白黒のストライプをスキャンすることでランダムな音色を奏でる。白黒の模様のあしらわれたドレスをスキャンしてランダムな音色で即興リズムを刻む様子をデモンストレーション。YMOの『ライディーン』のような音とリズムです。




DJのようなレコードのスクラッチを再現。テープの音源を使ってスクラッチ演奏できる。デジタルミキサーも自作とのこと。東京会場で私が最も興味を惹いた作品がこれです。作者は実際にDJをされているようで、音楽センスと制作技術の両方に脱帽です。レコードには頭出しの目印を付けますが、テープだとそれが出来ないので高度なテクニックが必要となります。

いずれ関連記事にしたいと思っていますが、私は一時期レコードを集めていました。アナログ盤は音源として入手性が低いので、カセットテープで同じことが出来る(自分で作ったミックステープを使える)メリットは大きいです。




“たこ焼き”をモチーフにした電子楽器。たこ焼きに見立てた丸めた銅箔を突いたり転がしたりしたときの接触抵抗の変化を音に変換しているらしい。たこ焼きをひっくり返すリズミカルな動作によりそのままリズムが刻まれる。


中には、電子回路が主体ではなく、電子部品を使ったアート系の作品もあります。


ボトルサーキット。ボトルシップのようにガラスボトルの中で動作する回路を組み立てる。カスタマイズした極細半田ごてなど特殊な器具を使って組み立てるという。



ニキシー管を使った時計。電源はUSBアダプターが使用できるとのこと。「アート的/インテリア系実用作品」の例。真空管と同じイメージだが、調べてみたらニキシー管は意外と消費電流は多くない。


なお、見た限り今回のイベントでは真空管を使った作品は見当たらなかった。



“コンデンサー盆栽”。技術的要素は全くない完全なアート作品。「役目を終えたコンデンサーや回路に苔がむして盆栽になった」というコンセプトとのこと。鉄道模型などに使われる情景部材(ライケン)をコンデンサー(実際には電気二重層キャパシタも含む)に糊付けしている。電子部品をアクセサリやアートに使う例はよく見るが、これには全く実用性はない。我々から見ると、勿体ない使いかた。このように価値観が共有できないものもあるが、いかにMaker Faireのテーマが広い(自由)であるかを示している。

いろんな作品を見学したら、自分も何か作ってみたくなるもので、書籍販売コーナーが設けられています。


主催者であるオライリー・ジャパンの刊行するラズベリーパイやPythonなどの入門書やプログラミング、モジュールの使いかた、3Dプリンターといった部材の加工についての本。展示作品を見た人は大いに触発されるようで、多くの人が手を取っていた。

<余談: 趣味としてのものづくり>
アートやデザインとは違い、電子回路などの機械を作る趣味は自分で自分の作品を客観的に見ることができます。精度や消費電力、コストやサイズなど、数値で評価・比較できるからです。作っている時点で「もっとよくできるはず」、「本当はこうすべき」などを認識しつつも、どこかのタイミングで『完成状態』を自分の中で定めることになります。当然、他の人の作品も客観的に比べたり、評価したりできるでしょう。

私はものづくりの醍醐味は「作る過程で知識や技術を得ること」だと思います。つまりアレコレと考えたり学んだりする過程を楽しむものだと思っています。なので、人からのアドバイスやアイデアがひょっとすると楽しみを奪ってしまうかもしれません。特にMaker Faireにはユニークなアプローチの作品が多いですが、作者のコンセプトを尊重したいですね。

大垣市会場 (2022年12月3日、4日開催)

Maker Faireは東京以外でも開催されます。東京開催のMaker Faire in Tokyoが国内最大規模ですが、参加の敷居を下げるため地方でも開催されています。過去には京都や宮城、山口でも開催されています。昨年の岐阜会場の様子もご紹介します。

まず、この会場で注目すべきは、アマチュア無線に関連した出展があったことです。


7L4WVU局による、アマチュア無線作品(頒布品)展示。アンテナチューナーやアナライザ、受信機、さらにはご自身で技適を取得された自作のCB機もあり。無線の趣味を知らない人にはどれも新鮮な作品。ブースには作品を見たり説明を聞いたりする人たちが常に集まっていた。3Dプリンターを使用して造られた作品はカラフルな色使いなためか、興味を惹く女性も多いようである。

7L4WVU局の展示もそうですが、個人的には今回の大垣会場の方が興味を引く展示を多かったと思います。そのうちいくつかをご紹介したいと思います。

・縦書きの文字を書き出すプロッター


活字ではなく手書きのようにペンを動かして文字を描くプロッター。展示デモではスラスラと百人一首を描いていた。注目点は、そのコンパクトさ。細長くシンプルな機構のなかにサーボやベルト、制御マイコンなどがすべて収まっており、キーボードをつなぐだけで使えるように機能がコンパクトに集約されている。たいてい、この手のメカはたくさんのモーターや配線、基板などで雑然と構成されているもの。しかし、これはシンプルにすっきりとコンパクトに構成されている上、処理がマイコンで完結しているのでネットワーク上のライブラリなどへのアクセスは不要。

精度の高い制御をしている割に構成部品が少ないことから、メンテナンス性が高くコストが安い。モーターやサーボのハウジング、ギアなどは汎用品を使わず、3Dプリンターで造ったオリジナルを使うことで小型化に成功したという。

縦書きでロール紙を使うことがポイントで、これにより実現のハードルが下がったとのことで、実際に動作しているところを見ると、すらすらとスムーズで速い。すべて機械制御だが、なぜか字体から人間っぽさが感じられる。

・論理変換ゲームコントローラー


なつかしのファミコンの制御信号のロジックを変えて『スーパーマリオ』をプレイするという試み。

ファミコンには2人でも遊べるようにコントローラーが2つ付いている。2つのコントローラーからの操作信号の論理を変えることで、『スーパーマリオ』は桁違いに難しくなる。たとえばAND論理ならば、2つのコントローラーが同時に同じボタンを押さなければファミコンに制御信号が届かない。つまり2人とも同じタイミングで同じ操作をしなければマリオが動いてくれない。身近なもので遊びながら論理演算を学べる作品。

・文字コード(8ビット)入力方式キーボード


上記と同じ作者の作品。文字コード(1バイト)をビットごとに0/1で入力する“キーボード”。文字 vs ビット表を見ながら慎重に入力することになる。気の遠くなる文字入力方法。実用性は全く無いが、バイトやビット、文字コードについて学べる作品。

・チップ部品マウンター


自作ファンなら誰でも欲しくなる、チップ部品自動マウントシステム。基板のアートワークCADデータから部品の実装座標を取得し、部品を真空ピンセットで摘み上げ、基板上の正しい位置に置く。なんと0603サイズ(長辺0.6mm×短辺0.3mm)にまで対応しているという。

ただ、実装する部品は1つ1つ所定の場所に手動でセットする必要がある。また、自動ではあるが水平/垂直を合わせるためのプロセスを一旦挟む必要がある。

本物のマウンターと同様、リフローにより基板にハンダ付けするとのことで、実際にこのマウンターを使って部品を実装したという基板も展示されていた。

・CNCを使って基板パターンを起こす試み


生基板の銅箔を削ることでパターンを削りだして基板を作るマシン。細いリューターのようなドリルで電気を流す境目を作る感覚でパターンを削り出す。エッチングと比べて気軽に基板を作れ、廃液も発生しない。作れるパターンの最小幅は0.6mmとのこと。アートワークのCADデータをCNC用データに変換して使用する。パターン間がどうしても狭くなるためハンダブリッジを起こしやすいのが欠点だという。チップ部品では特にブリッジしやすいとのこと。シンプルな回路の試作用途や趣味の範囲ならば便利のように思う。実装例として電源(出力15V/8Aくらい(理論値))が展示されていた。

・氷の彫刻(サーマル・アイス・カービング)


電気で熱した彫刻刀で氷の塊に細工を施すという試み。説明文に“刹那の美”とあるように、加熱した彫刻刀で儚くも溶けてしまう氷を細工する。氷彫刻刀の温度を管理している回路基板はネットで購入したものを利用してシンプルに実現。一方で、制作中の作品を冷やしておくための展示台はペルチェ素子を使ったオリジナル。

実際に体験させてもらったが、カチコチの氷なのに刃先を当てると簡単に刃が入る。フニャフニャと柔らかい不思議な触覚。刃先の温度が絶妙なのだろう。

このブースは老若男女、常に人が絶えることなく賑わっていた。実際に作品を触らせてもらえるのもMaker Faireの特徴。作者の方は非常に人当たりがよく、近づきやすい雰囲気のブース。写真にあるように、説明ボードもシンプルでセンスが良く、作品例をループ動画で流していた。展示ブースとして洗練されている。

・何でも分解する試み(分解のススメ)


身近なモノをひたすら分解してみようという試み。分解したモノの中の様子を紹介するというもの。少しづつスライスして撮影したICの断面もある。基本的にバラして中身を並べるだけだが、ICの内部についてその構造から真贋判定をする試みは興味深い。

百円ショップの電化製品(ワイヤレスイヤホンなど)に使われているデバイスのほとんどは中国国内だけでしか流通していないとのこと。そのため、分解して出てきたデバイスの詳細を調べようにもデータシートが中国語版しかないことから、自分で専用の中国語辞典も作っているという。

この出展団体は、「電化製品を持ち寄って分解しよう」というワークショップも主催していた。メカの内部を見せることで電気回路やメカニズムへの興味を促す試みでもある。

・70年前の8mmフィルムカメラをデジタルカメラに改造


70年ほど前につくられた8mmフィルムカメラをデジタルビデオカメラに改造した作品。オリジナルのゼンマイ式のフィルムカメラと同様、連続で撮影した写真を動画ファイルに変換しているのがポイント。すなわち、動画を撮影するのではなく、オリジナルの機構を踏襲して1秒間にN枚の写真を連続で撮影し、それらを繋ぎ合わせてmp4ファイルを生成している。レトロカメラ本体にはほとんど加工を施さず、フィルムカートリッジを自作モジュールに交換するだけで使えるようになっている。

「フィルムと違ってフレーム数/秒が高いとバッファや変換処理が追いつかないのでは?」と聞くと、1秒間に16フレームが(実用として)限界とのこと。しかし、このことで動画がカクカクしてレトロ感が出てて良いようだ。オリジナルの筐体を用いているため、ファインダーを覗いてフォーカスを合わせることはできず、動画ファイルを出力してみるまで上手く撮れているか分からない点も当時のカメラそのもの。16フレーム/秒で撮影された動画は淡くてレトロな雰囲気なのが面白い。大垣会場にて最も感銘を受けたのがこの作品。

あくまで本物のフィルムカメラの筐体を使うことへのこだわりと、コンピューターボードとソフト技術を駆使して実現させたスキルは凄い。作者によると「オリジナルのフィルムカートリッジも使えるように、本体には一切加工を施したくなかったが、どうしても干渉する部分(フィルムを送るツメ)を取り除く必要があったのが悔やまれる」とのことだが、オリジナルの機能も維持させたいというこだわりにも大いに共感できる。

最後に

分野は違っても、他の方のモノづくりのエネルギーを感じると自分もモチベーションが上がります。それだけでもMaker Faireを見に行く価値があると思います。

Maker Faireを訪れる人たちは初めて見るものから刺激を受けることを求める、好奇心の強い若者や子どもが多く、知らないモノや技術、新しい価値観との出会いを望んでいます。すなわち、アマチュア無線を題材にしてMaker Faireのコンセプトに沿って出展すれば、アマチュア無線の認知を広め、普及に寄与できるのではないでしょうか。


なお、Maker Faire Tokyoのみ入場料(大人 1,000円、18歳以下 500円)が必要ですが、地方での開催は無料となっています。出展料もハムフェアよりもずっと安いので、展示のハードルも低くなっています。

直近では、2023年4月29日(土)、30日(日)には「Maker Faire Kyoto 2023」が京都で開催されます。

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