ジャンク堂
初めまして。縁があってFBニュースに記事を書くこととなりました。ジャンク堂というタイトルですが、別にジャンク品を売ろうという内容ではありません。自作派ハムを目指す方や、電子回路工作をやってみようという方に向けて電子回路/電子部品の基本とちょっとしたコツなどの説明を中心とした内容にしたいと考えています。特に目的もないのにジャンク屋(あるいは部品屋)を覗くように拾い読みをして頂ければと思います。
スタートはアナログ電子回路の定番であるオペアンプを取り上げました。FBニュースでも時々オペアンプを使った製作や回路説明の記事があります。これらの記事に出てくる回路を理解して、できれば自分で応用できるようになれば電子回路製作も一段と楽しくなるのではないでしょうか? オペアンプを説明すると結構な量となるので何回かに分けて書いて行きたいと思います。一応、オームの法則や回路記号などを理解して頂いている方が対象ですので、よろしくお願いします。
それではジャンク堂、開店です。
オペアンプ入門(1)
オペアンプの効能
・オペアンプは増幅用ICです。もっとも日本語では演算増幅器と呼ばれていますので、アナログ的に演算(加算や積分、比較など)を行うために開発されたモノです。オペアンプは1960年代に製品化されていますので、ICとしては歴史のあるものです。
・オペアンプを使うと、直流からオーディオ周波数(数十kHz程度以上まで)の、ほぼ理想的な増幅回路を組む事ができます。従って、高い周波数(高周波)の増幅でない限り、増幅回路を組む場合はオペアンプで組む事が第1選択になると思います。
・オペアンプは一般的なモノであれば数十円程度からあります。計測器用の高性能なモノや音質を追求したと言われる高級オーディオ用などは1個が数千円もするものもありますが、一般的な使用目的ではせいぜい2~300円も出せば十分なものが入手できます。
・同じパッケージ(形状)のものであれば、多くの場合は品番やメーカーが異なっても足の配列や基本的な特性に互換性があり、差し替えて使える事が多いです。また、品名の数字部分が同じものであれば、メーカーが異なってもコンパチで使えるものがあります。
・電源回路以外の部品は、最低3個の抵抗で増幅器を作る事ができます。
・アンプの増幅度は2本の抵抗の比で決まるので、容易に増幅度の計算/設定ができます。
・増幅器以外にも、フィルターや発振回路、比較器(コンパレーター)など、多くの回路を組む事もできます。
最初に、一般的なオペアンプの形状と端子配列を見てみましょう。下図上段の左は8ピンDIP、中央は8ピンの面実装で、右端はシングルインライン(SIP)の形状のものです。SIP形状のものはあまり多くないようです。下段は14ピンです。
8ピンパッケージは、一つのパッケージにオペアンプが1個、または2個入っており、14ピンは4個入ったものが一般的です。中でも8ピン2個入りが最も一般的で種類も豊富です。
次に、端子の配列です。
これらの図は、入手しやすいJRC(NJR)製オペアンプのデータシートから引用していますが、他メーカーの場合も殆ど同じです。従って、DIP形状のオペアンプをICソケットで取り付けるようにしておけば簡単に他のオペアンプと差し替える事ができます。実際はオペアンプの特性を確認する必要がありますが、確認のツボは追々と説明して行きたいと思います。
次にオペアンプの基本的な回路です。
オペアンプにはプラスとマイナスの2つの入力端子、1つの出力端子の合計3つの入出力端子があります。それにプラスの電源端子、マイナスの電源端子の合計5つの端子があります。アンプ回路は上図のように最低3本の抵抗があれば作る事ができます。これだけの部品で直流から数十~数百kHz程度まで増幅できるアンプができます。オペアンプにはプラスとマイナスの2つの入力端子がありますが、この2つの端子の電圧差が入力信号となります。また、オペアンプは本質的にプラスとマイナスの両電源で使用する事が前提となっていますが、後ほど単電源(プラス電源だけ)で使う方法に触れます。先ずは、オペアンプの最も一般的なアンプ回路を見て見ましょう。
この回路は非反転増幅器と呼ばれる回路です。マイナスの入力端子をアースに接続し、プラスの入力端子から信号を入力します。非反転の意味は入力がプラスになれば、出力もプラスの電圧が、マイナス電圧が入って来ればマイナスの電圧を出力するためです。つまり、信号の極性が反転しない事から非反転と呼ばれます。
この回路の増幅度GはRsとRfの比で決まり、以下の式で表されます。
RsとRfの比に1を足せば、増幅度Gが求まります。例えば、Rs=2.2kΩ、Rf=22kΩとすると、増幅度は11倍(20.8dB)になります。
抵抗の比で決まるという事ですが、抵抗値は何でも良いのか? と思われますが、実際に極端な抵抗値(数Ωや数MΩ)などで無ければ、わりと自由に値を選べます。通常は数kΩ~数百kΩの範囲であれば問題ないでしょう。1kΩ以下や1MΩに近くなると、少し配慮が必要になります。もし、製作記事で指定している抵抗値が手持ちに無ければRsとRfの比が同じになるような抵抗であれば多くの場合はOKです。
Rcの値は、このアンプの入力インピーダンスになります。この回路のように直流から増幅する回路の場合は抵抗値の設定に少し配慮が必要ですが、この事は少し先で触れたいと思います。
反転増幅器では、プラス入力端子をアースに接続してマイナス入力端子から信号を入力します。回路ではプラス端子は抵抗Rcを経由してアースに接続していますが抵抗を省略して直接アースに接続する事もあります。反転増幅器の場合、入力にプラスが入ると出力はマイナスに、入力がマイナスになると、出力はプラスが出力され、信号の極性(位相)が反対になります。
この場合の増幅度G(倍)は以下の通りです。
非反転増幅器では、RsとRfの比そのものになります。Rs=2.2kΩ、Rf=22kΩとすると、増幅度は10倍(20dB)となります。反転アンプの場合、入力インピーダンスはRsの値になります。反転増幅器と非反転増幅器でゲインが“1”違うという事が少しややこしいようですが、その理由は別途の説明と致します。
またオペアンプの回路の基本である差動増幅器もあるのですが今回は割愛します。いずれ機会があれば触れたいと思います。
オペアンプを単電源で使う。
オペアンプが使い難いとすれば、その最も大きな要因に電源がプラスとマイナスの2種類が必要という事です。HiFiオーディオ機器や計測器用のアンプは直流まで増幅するDCアンプで設計する事が多く、そのような場合はプラスとマイナスの電源を使う事は当たり前となります。しかし、直流付近まで増幅する必要がないような一般的なオーディオ用アンプの場合は単電源(プラス電源だけ)の方が圧倒的に扱いやすくなります。この場合、入出力をコンデンサーで直流をカットすることでオペアンプを単電源で使用する事が可能です。
オペアンプを単電源で使用する場合の回路
部品が増えてややこしくなった様ですが、プラス/マイナスの両入力端子と出力にコンデンサーが追加されて、プラス端子の抵抗Rcが2本の抵抗R1、R2になっています。
オペアンプを単電源で使うためには電源電圧のおおよそ半分の電圧を仮想のグラウンド(中点)と考えます。仮想のグラウンドとなる電圧はプラス電源からR1とR2で分圧してプラス入力端子に印可します。例えば、電源電圧が10Vの場合、R1とR2を同じ値にするとR1とR2の接続点は5Vになります。この電圧を仮想のグラウンドとしてプラス端子に加えます。プラス入力端子に5Vを加えると信号入力がない状態ではマイナス端子、出力端子も5Vになります。入力信号があると、この5Vを中心に出力が出ます。
この時の様子を図に示します。0Vを中心にプラス/マイナスに変化する交流電圧がオペアンプの端子では5Vを中心に電圧が変化し、最後にコンデンサーを通って0Vを中心に電圧が変化します。
注) 入力と出力のコンデンサーの片側に何も繋がっていませんが、実際は端子とアース間に抵抗が必要です。
これでオペアンプを単電源で動作させる事ができました。
以上で、オペアンプをオーディオアンプ等で使う場合の基本的な回路ができました。ゲイン(増幅度)の設定も抵抗で思いのままです。さて、実際にアンプを設計/製作する場合に、どのようなオペアンプを採用すれば良いのかという事になります。
オペアンプはICの中でも品種が非常に多くありますが、データシートを見ることで幾つかのキーワードや特徴から分類できます。製作記事などでは使用するオペアンプが指定されていますが、同じものが入手できなかったり、手持ちのものを使いたいといった場合にも最初はキーワードから比較して判断します。以下はオペアンプのデータシートの冒頭に書かれている概要や特徴の例です。
JRC社のNJM4565の場合
次に、同じくJRC社のNJU7043です。
3つめは違うメーカーでTI社のLM358です。
オペアンプに限りませんが電子部品を採用する時には必ずデータシートを見るようにしましょう。データシートの中には意味が分からない用語や特性もあるかも知れませんが、分かる部分だけでも確認をする事は大切です。今はインターネットで検索すれば殆どの部品のデータシートを見つける事ができます。また自作の場合はDIPタイプを選択してソケットを使って作ると電源を入れる前の配線チェックもやりやすく、ICの差し替えもできるので良いと思います。
それでは、データシートの幾つかのキーワードについて見てみましょう。
①(動作)電源電圧
電源電圧範囲のところを見ると、±xxV~±xxVと書かれている場合と、単にxxV~xxVと書かれている場合があります。この次に説明しますが、オペアンプにはプラス電源とマイナス電源が必要な普通のタイプと、単電源タイプがあります。電源電圧範囲のところに±で電圧が書かれている場合は通常のオペアンプ(ここでは両電源タイプと呼びます)で、単にxxVと書かれている場合は単電源タイプとなります。NJM4565の場合、電源電圧範囲のところを見ると±4~22Vと書かれているので両電源タイプです。NJU7043とLM358は電源電圧の範囲がプラス側だけなので単電源タイプという事が分かります。両電源と単電源については次に説明します。
②両電源タイプと単電源タイプ
本来、オペアンプは両電源タイプであった事からデータシートに両電源タイプと書かれている事はありません。単電源タイプの場合はデータシートなどの特徴に単電源とか片電源と書かれている事が多いです。しかし先にオペアンプを単電源で使用する方法を説明しましたが、そこではオペアンプが単電源タイプか両電源タイプであるのかは触れていません。実は両電源タイプでも単電源で使用する事は可能ですし、単電源タイプでも両電源で使用する事が可能です。しかもどちらのタイプのオペアンプを使用しても回路は同じです。単電源タイプのオペアンプを使うと、回路が簡単になるという事もありません。では、両者で何が違うのか? というと単電源タイプの場合、オペアンプの入力の電圧がマイナス電源電圧付近(単電源で使用した時は0V付近)まで使用できるという、特性上の違いになります。ここにオペアンプを使用する場合の重要な注意点があります。
一般的なオペアンプは入力端子も出力端子も電源電圧よりプラス側/マイナス側共におおよそ1V程度の使用できない範囲が存在します。(下の図)
例えば電源電圧が±10Vの場合、入力の電圧は±9V程度までに抑える必要があります。また、出力も±9V程度までしか出ません。両電源タイプを単電源で使用する場合、電源電圧を10Vとすると入力電圧は1~9V程度まで、出力も1~9V程度までとなります。単電源タイプは入力の電圧範囲がマイナス側だけ少し広がって、マイナス電源電圧まで使用できるようにしたものです。つまり単電源で使用した場合にグランドに近い電圧(0V)を扱う事ができます。LM358は特徴に書かれている電源電圧範囲の項目がプラス側だけである事と“同相入力電圧範囲にグラウンドが含まれる・・・”と書かれている部分から単電源タイプである事が分かります。
なお、出力端子の電圧範囲が両電源電圧近くまで出力可能なものは“低飽和”タイプといったような表現がデータシートで使用されています。
また、入力だけでなく出力の電圧範囲も広げたものは“レールトゥレール(Rail to Rail)”や“フルスイング”タイプと言い、入出力の電圧がほぼ電源電圧まで使用できます。Rail to Railはプラス電源ラインとマイナス電源ラインを2本のレールに見立てた表現です。CMOS型オペアンプでは多くのものがこの特性、あるいは近い特性のようです。NJU7043は概要のところに、電源電圧に対してフルスイングの入出力が可能と書かれている事から、Rail to Rail(フルスイング)タイプである事が分かります。(JRC社のオペアンプの名称はバイポーラがNJMxxx、CMOSはNJUxxxとなっています。)
NJM4565は両電源タイプであるために単電源でも使用可能ですが、その場合は0V付近の入力電圧に対しては正しく動作しません。入力電圧が1V程度以上必要です。また、電源電圧が±4Vからとなっていますので、単電源で使用する場合は8V以上の電源電圧が必要となります。
電源タイプだけであれば Rail to Rail ≧ 単電源 ≧ 両電源 の関係で使用する事ができます。
さて初回はここまでです。次回に続きます。電源一つをとっても面倒だなと思われた方もいるかも知れませんが慣れてくるとそれほどではありません。それ以外はシンプルだからです。近年は扱いやすい単電源やRail to Railのオペアンプも安価に入手できるようになりました。自分の定番のオペアンプを特徴に応じて3種類程を持っていれば大抵の回路が組めると思います。
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