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FB LABO ~エレクトロニクス研究所~

【激レア】旧西ドイツ製無線機を徹底分析【1974年製】<後編>

JP3DOI 正木潤一

前編 では電気仕様や機能、構造、標準構成品、受信回路を紹介したが、後編では、送信回路、周波数発振回路、電源回路を詳しく見ていきたいと思う。

送信回路


送信基板全体。信号は基板の右上から左上へ、「Uの字」に流れる。

基板右上からアンテナコネクターと接続する。受信信号は、送信回路基板上のLPFを取って受信回路基板へ入力される。

基板上にあるのは、ほぼ増幅回路だ。トランジスタ1つに対してバイアス抵抗と段間コンデンサ、バイパスコンデンサが付き、受信回路よりも部品が多いため実装密度が高く、基板上は賑やかだ。また、扱う信号レベルが受信回路よりも高いためか、個々の増幅回路は部品実装面のGNDパターン(ベタアース)で囲まれ、回路同士の高周波結合を防いでいる。これも教科書通りのパターン設計だ。


送信回路のブロック図。変調を掛けた20MHzと局発周波数を混合して送信信号を得ている。

電力増幅回路には円筒形の金属缶入りトランジスタ、小信号増幅回路には円盤型のトランジスタが使われている。オセロの駒のような白黒の円盤型トランジスタについての情報はインターネット上で見つからなかった。シーメンス社のロゴがプリントされているが、このようなパッケージのトランジスタの画像はネット検索で見つからない。おそらく、缶入りトランジスタの中身をむき出しの状態で実装しているのではないか。そもそも缶入りのトランジスタの中身は、小さな円盤状のトランジスタ素子がポツンと入っているだけだ。実装スペースを削減するために、金属缶に封入する前のトランジスタをそのまま実装しているように見える。


シーメンス社製の円盤型トランジスタ。端子リードが非常に細いので、本体と基板を接着して物理的強度を保っている。

ちなみに、ダイオードはアメリカ『ITT Semiconductor社』製。現在はドイツにあるTDKのグループ会社『TDKミクロナス』となっている。

1. マイクアンプ
マイク(ヘッドセット)からの音声は、マイクアンプモジュールに入力される。FM変調に必要な周波数特性を得るためのスプラッター回路やIDC回路が含まれているものと思われる。


マイクアンプモジュール。シルエットの浮き出ているフラット・パックICはオペアンプだと思われる。モジュールの左には変調度調整用の50kΩ(“503”) VRがある。

2. 送信ミキサー
増幅されたマイク信号は、変調信号として20MHzの水晶発振回路に入力される。バリキャップダイオードにマイク信号を加え、20MHzの信号に周波数変調を掛ける。


ボビンコイルに寄り添うバリキャップダイオード。20MHzの送信局発に変調を掛ける。

そのあと、周波数発振回路基板からの局発信号(水晶基板によって切り替えられる周波数)をダブルバランスドミキサー(DBM)で混合して送信周波数(局発周波数から20MHzを減じた周波数)を得る。


DBMの写真。4個並んだダイオードの下に、トロイダルコアに巻かれた平衡コイルが2個ある。スケルチ回路のノイズアンプと同様、立体実装してスペースを削減している。

ミキサーの出力は、ボビンコイルとトリマーコンデンサを使った同調回路を持つ2段の増幅回路(ポストアンプ)によって増幅される。一見すると同じ増幅回路が2つ並んでいるが、よく見ると同調周波数が異なるようだ。


左右のボビンコイルの巻き線の位置が異なる。つまり設定された同調周波数が異なることを示している。

2つのアンプをそれぞれ帯域上限と下限に同調させ、直列接続して複同調化させることで通過帯域幅を広げ、送信周波数帯域内(47MHz~56.975MHz)の信号だけを増幅しているようだ。これにより、局発の20MHzと67~76.975MHz、そして混合で生じるその他の不要周波数成分を送信波から取り除くことができる。この回路はアンプというよりもフィルターの役割が強そうだ。

増幅された信号は、送信増幅回路へ入力される。

3. 送信増幅回路
送信信号は、プリドライブとドライブアンプ、そしてファイナルアンプによって送信出力レベルにまで増幅される。フィードバックを掛けて送信出力を一定に保つAPC(Automatic Power Control)回路を構成するオペアンプや検波ダイオードは無い。バイアス調整用半固定抵抗器(シールド版に“R37”)を回してみると、約350~550mWの間で送信出力が変化した。

ファイナルアンプには、『RCA社』(現ゼネラルエレクトリック)製のRFパワートランジスタ“2N5913”が使われている。データシートによると、175MHzにおける利得が約10dB(8V時)のC級動作アンプ用トランジスタで、最大1.5Wが得られるとのこと。50MHz帯、しかも公称出力0.3Wの無線機に対して、かなり仕様に余裕のあるデバイスが使われている。


RFパワートランジスタ“2N5913”。送信出力が低いので放熱板などの冷却策は施されていない。

送信すると微かに「カチッ」と音がするが、高周波リレーから聞こえる音だった。ちなみに、現代のハンディー無線機にはメカニカルリレーではなく、ダイオードに電圧を加えてスイッチングする半導体方式が用いられている。特にPINダイオードは接合電位差が低いためにロスを低く抑えることができる。


ファイナルアンプの左にある高周波リレー。『Teledyne Relays社』製。軍需製品を幅広く手掛ける複合企業『Teledyne Technologies社』のグループ企業。

送信出力は、送受信でアンテナの信号経路を切り替える高周波リレーと3段のLPFを介してアンテナに給電される。高調波成分は、このフィルターでキレイに取り除かれている。

送信波をスペクトラムアナライザーで測定してみた。これを見るかぎりアンテナからの不要輻射はしっかり抑えられているようだ。


0Hz~300MHz(スプリアス領域)。キャリアだけが立っているのが分かる。


送信波近傍(帯域外領域)のスペクトラム

帯域外領域とスプリアス領域、共に新スプリアス規格(※)の許容値以下だ。
※参照元:週刊『BEACON』 (http://www.icom.co.jp/beacon/kousaku/img/img129-22L.jpg)

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