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「観光地と地域の安心安全」を考えた、2つのD-STARレピータ設置事例(愛媛県松山市)

四国の北西部に位置する愛媛県松山市には、国内外から年間600万人を超える観光客が訪れている。特に日本最古の温泉地と言われる「道後温泉」と、江戸時代以前に建造された天守を有する重要文化財の「松山城」は定番の観光スポットで、道後温泉は年間で96万人以上が地域の旅館やホテルに宿泊し、松山城ロープウェイは130万人以上が乗車するという人気ぶりだ。

今回はこの松山市で“観光地と地域の安心・安全”を考えて設置された、2つのD-STARレピータの設置事例を紹介しよう。

事例1:日本を代表する温泉地の旅館組合がD-STARレピータを設置(松山道後温泉430/1200)

道後温泉は「伊予風土記」「日本書紀」「万葉集」に記載があり、日本の歴史上、重要な文献に登場する年代が一番古いことから“日本最古の温泉”と言われている。また、道後温泉本館近くの冠山からは縄文中期の土器が発掘され、地形上、すでに47度の温泉が自噴し、縄文人が入浴していた可能性が高いことから“3,000年の歴史がある”とも言われている。


道後温泉の入口にある伊予鉄道の「道後温泉駅」。一日数回「坊ちゃん列車」も運行され、観光客の人気を集めている

道後温泉の中心にある温泉共同浴場「道後温泉本館」は、明治から大正に建てられた建築物で国の重要文化財に指定され、年間の入浴客数は81万人。周囲にある旅館やホテルの宿泊客は年間96万人以上という、日本を代表する温泉地の1つとなっている。


道後温泉の中心にある温泉共同浴場「道後温泉本館」。建物は国の重要文化財に指定され、年間81万人もの入浴客がある人気施設だ

2018年11月、この道後温泉地区にアマチュア無線のD-STARレピータ局「JP5YCO」が設置された。音声通信を主体とした430MHz帯と1200MHz帯のDVモードのほかに、高速データ通信が行える1200MHz帯のDDモードを装備したもので、2008年に市内の築山町に開設された局をここへ移転(一部増設)したものだ。局名は「松山道後温泉」と名付けられた。

・コールサイン:JP5YCO
・局名:松山道後温泉
・周波数:DV 439.13MHz、DV 1291.67MHz、DD 1270.875MHz
・設置場所:愛媛県松山市道後鷺谷町

このD-STARレピータが道後温泉地区に設置された背景には、同地区の旅館とホテルで組織する道後温泉旅館協同組合の、災害発生時における、観光客を含めた道後温泉地区の安心・安全を高めたい”という目的意識があった。

道後温泉地区の安心・安全を高めるため
D-STARレピータを設置

道後温泉旅館協同組合の新山富左衛門理事長は次のように説明する。

「道後温泉は“安心安全の観光地作り”を進めています。安心してお泊りいただくために、各旅館での防災訓練はもちろんですが、広域災害を想定し地域全体での防災訓練を組合でも行っています。さらに、防災士の有資格者を各旅館に最低1人ずつは置くという取り組みを3年前から始め、各旅館や商店の皆さんの資格取得を推進しています。現在は65%まで達成し、2019年中には75%になる見込みです」


道後温泉旅館協同組合理事長の新山富左衛門氏(左)と、D-STARレピータの設置場所を提供した「道後山の手ホテル」の代表取締役で愛媛県議会議員の帽子大輔氏(右)

しかし、松山市で震度5強を観測した芸予地震(2001年)の際には、安否確認などのため電話が輻輳(ふくそう)したこともあった。そのときは「避難経路が安全か、負傷者は何名か、避難所が受け入れる余裕はあるかなどの情報取得のためには無線通信が不可欠だと痛感しました」という。

「最近は、業務用のデジタル簡易無線を配備していますが、市内はもちろん、地形的に広島県などからの電波も入るため、混信が生じた場合に無線の知識がないと有効に活用することが難しいのです。また携帯型同士だと通話できる範囲も限られていることから、大規模災害時に活躍実績のあるアマチュア無線に着目しました。

アマチュア無線において、非常通信は目的外使用にあたることは理解していますが、内閣府などが“非常時にはアマチュア無線も積極的に活用する”という計画を公表していることもあり、また、アマチュア無線技士の資格を取得することで無線の知識が身に付き、無線の操作に慣れるためにも非常に有効だと思います」と新山理事長は語っている。

ただ、携帯型トランシーバー同士だと電波が届く範囲は限られてしまう。それを改善するため、地上高のあるホテルが多い道後温泉地区の特徴を生かせるようにD-STARレピータの設置に至ったそうだ。

「レピータを使えば、地区内はもとより松山市役所や愛媛県庁など災害対応の拠点と連絡が容易にできるようになり、ネット回線が生きていれば、他県のレピータへゲート越えを行い、災害の状況を伝えることにより救援をお願いすることも可能です。

もちろん、非常通信のためだけにレピータを使用する意図は全くありません。ホテルや旅館にお泊りになったお客様が入浴や食事を済まされた後、お部屋からD-STARレピータをアクセスし、山かけで市内の方へCQ呼出をしたり、ゲート越えで地元のレピータと接続し、知り合いの方との交信を楽しまれるケースを想定し、道後温泉地区であればどこからでもレピータがつながるようにするサービス向上の一環としてもとらえています。

さまざまな関係者のご尽力で、レピータ機器を旅館組合の加盟ホテルに設置でき、新たな周波数の確保もできました。レピータ局名に“松山道後温泉”という、温泉名が入った局名も全国初ということで、とても意義深く感じています」(新山理事長)

各旅館に1人ずつ「アマチュア無線技士」を

さらに道後温泉旅館協同組合では、D-STARレピータの設置と並行して、各旅館に1人ずつ第4級アマチュア無線技士を置くことにした。2018年末には5名の資格取得者が誕生し、さっそくID-31 PLUSを使ったD-STARの使い方講習会も開催している。


2019年2月、道後温泉旅館協同組合では第4級アマチュア無線技士の資格取得者を対象にしたD-STAR講習会をアイコムの協力で開催した


道後温泉旅館協同組合で調達したアイコムのID-31 PLUSを資格取得者へ貸与。その使い方と交信方法のレクチャーが行われた

新山理事長は「今年はさらに10人が第4級アマチュア無線技士の資格を取る予定です。すべての旅館に防災士とアマチュア無線技士がいるようにできると、安心安全の観光地作りの一段階目になると思います」と意気込みを述べている。

一昨年、道後温泉旅館組合は愛媛県庁中予地方局と協定を結び、災害で公共機関がストップし、観光地の帰宅困難者が多数出た場合は無償で泊めるという協定も結んだ。こうしたプラスアルファの「安心安全の観光地作り」は、地域間の競争が激しい中での大きなアドバンテージになるだろう。

「道後温泉は日本最古の温泉であるだけでなく、加温も加水も不要で泉質がとても良いのです。『道後温泉本館』を中心として、その周辺に個性溢れる宿が多数集まって、まるでテーマパークのようになっています。店舗も賑わってシャッターがおりている店は1つもありません。道後温泉本館は今年1月から保存修理工事期間が始まりましたが、北側玄関から入る神の湯が営業中ですし、新湯の『飛鳥乃湯泉』や地元の方がよく利用する『椿の湯』もあります。イベントを次々に仕掛けていきたいと思いますので、ぜひお越しください」と呼び掛けている。


道後温泉駅から道後温泉本館へ通じる商店街。バラエティに富んだ商店が並び、観光客が途切れることがない


道後温泉本館は保存修理工事期間中も神の湯部分が営業中。「火の鳥」のイメージを前面に出して盛り上げている

ホテル屋上に設置されたレピータ装置

レピータ局のJP5YCOは道後温泉地区の中でも高台に位置する「道後山の手ホテル」の8階屋上(標高約90m)に設置されている。アンテナは塔屋の最上部に430MHz帯用と1200MHz帯用のGPをそれぞれ1本ずつ使用。ロケーションの良さもあって、道後地区はもちろん、松山平野を広範囲でカバーするほか、レピータ局に接続しているインターネット回線を経由して国内外の局との交信も容易になっており、アマチュア無線家の評判も上々だという。


D-STARレピータ局のJP5YCOは道後温泉地区の中でも高台に位置する「道後山の手ホテル」に設置。アンテナは8階屋上(標高約90m)にある


D-STARレピータのアンテナを説明する新山理事長。左は1200MHz帯のDV/DDモード用、右は430MHz帯のDVモード用だ

レピータ本体は(430MHz帯DVモード用:「ID-RP4000V」、1200MHz帯DVモード用:「ID-RP2V」、1200MHz帯DDモード用:「ID-RP2D」、レピータコントローラ:「ID-RP2C」。いずれもアイコム株式会社製)は、屋上の機械室内に設置。ホテルなので万一停電した際の備えで自家発電装置も用意されている。なおインターネット回線への接続にはモバイルルーターを使用している。


ホテル屋上の機械室内に設置された430/1200MHz帯のレピータ装置。インターネットへはモバイルルーターで接続している

実際に430MHz帯でJP5YCOをモニターしたところ、東北地方のアマチュア無線家からのインターネット経由による“CQ”が聞こえ、道後温泉を訪れたアマチュア無線家の観光客がハンディタイプのD-STARトランシーバーで応答し、和やかな通信の様子が聞こえてきた。

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