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「観光地と地域の安心安全」を考えた、2つのD-STARレピータ設置事例(愛媛県松山市)

事例2:愛媛のシンボル「松山城」の一角にD-STARレピータを移設(松山城430)

四国最大の都市である松山市の中心部、勝山(標高132m)にそびえ立つ松山城。関ヶ原の合戦で徳川側に付いた加藤嘉明がその武功で領地を与えられ、1602年に築城に着手した際に城下を「松山」と命名したことが始まりだ。


本丸広場から見た松山城。取材に訪れた2月上旬は梅が咲き始めていた

国内では事例の少ない登り石垣を配備するなど、四半世紀をかけ壮大な平山城を築いたが、完成間際に会津若松へ転封となった。その後、天守は火災で焼失し、黒船来航の翌年に現在の天守が完成した。現在、国内で江戸時代以前に築城された天守を有する城郭は12城しか残っていない。2006年には「日本100名城」に、そして2007年には道後温泉とともに「美しい日本の歴史的風土100選」に選定され、年間で100万人を超える観光客が訪れている。


松山城へのアプローチには松山城ロープウェイとリフトが便利だ。年間で130万人以上が利用している

2018年3月、この松山城に430MHz帯のDVモードのD-STARレピータ局「JP5YCU」が開局した。局名は堂々の「松山城」。お城の敷地内に設置されたレピータ局は全国でもここだけである。

・コールサイン:JP5YCU
・局名:松山城
・周波数:DV 439.45MHz
・設置場所:愛媛県松山市丸之内

松山城にD-STARレピータを設置するプランは、松山市役所アマチュア無線クラブが立案したものだ。元々、松山市内には愛媛県初のD-STARレピータ(局名は「松山」、道後温泉へ移転前のJP5YCO)が2008年に設置されていたが、「ロケーションが良い場所とは言えない地元のハムショップに設置されており、市内の城北地域からハンディ機でアクセスしても反応がないなど、レピータとして十分活用できていない状態」だったという。

粘り強い交渉で
本丸広場にレピータ局を設置

松山市役所アマチュア無線クラブの中村雅和氏(JH5QJE)は次のように説明してくれた。
「当クラブは、大災害発生時に非常通信を行うことも目的にしています。せっかく割り当てられている松山D-STARレピータの周波数を、もっと有効活用できないものかと検討しました。加藤嘉明が築城場所に選んだように、松山城のある勝山は市内が見渡せる位置にあり、城の本丸がある標高130mの山頂広場からの眺めは抜群で、あのミシュランガイドからも“星”をいただいたほどです。もしここにレピータを設置できれば、とても有効に活用できることはわかっていました」


松山城の天守からは松山市内が一望できる。D-STARレピータのアンテナは本丸広場の馬具櫓(松山城管理事務所)の壁面に取り付けられた

しかし、松山城は江戸時代に築造された天守を有するなど、当時の城郭自体は国の重要文化財になっている。さらに本丸から三之丸までは国の史跡に指定されていることから、ここにD-STARレピータを設置することは、相当の困難があった。

「松山城では何をするのにも、文化財関係と所有者である松山市の許可が不可欠です。手続きが煩雑なこともあって、交渉には時間を費やしました。当然のことながら木造の櫓(やぐら)などにアンテナは設置できません。

しかし、本丸広場にある馬具櫓は松山城管理事務所になっており、鉄筋コンクリート造で機器を置くスペースも確保できたことから、“大規模災害が発生した際には非常通信網としても活用すること”を条件に、何とかお許しをいただくことができました」


馬具櫓(松山城管理事務所)の全景。この建物は鉄筋コンクリート造りだ

設置場所とアンテナの工夫

ちなみにレピータ機器は管理事務所の2階へ上る階段下の小さなデッドスペースに設置し、インターネット回線は室内のモバイルルーターを使用しているが、ロケーションの良さもあって「接続は安定している」という。


D-STARレピータ本体は管理事務所の階段下のデッドスペースに設置された


設置されたD-STARレピータ本体。インターネット回線へは装置の上部に置かれたモバイルルーターで接続している

ただし、レピータ局に欠かすことができないアンテナは、“落雷の危険性が増加する”等の理由から、屋根の上に付けることはできないなど、国の史跡の見地からの細かな指示があったという。そのため馬具櫓の壁面に設置している。ここは落葉する冬季を除くと、周囲の樹木に葉が生い茂り、アンテナが観光客の目に触れにくくなることから選ばれた位置だ。

「アンテナを壁面に設置したことで、伝搬範囲が制約されることが心配でしたが、ロケーションの良さから、櫓を挟んで反対方向にある松山自動車道のモービルの電波をクリアーに受けるなど松山平野からの電波はよく受けています。ハンディ機利用でのサービスエリアも改善され、市内で使いやすいレピータになったと思っています。新規開局に際し周波数を使用させてくれ、レピータの移設に快く協力してくれた地元ハムショップにも感謝しています」と中村氏は述べている。


馬具櫓の壁面に取り付けられたD-STAR用アンテナを指さす、松山市役所アマチュア無線クラブの中村氏

災害時にも役立つD-STARの魅力

中村氏はFMレピータの黎明期から県内レピータの設置にかかわってきた。D-STARについて、「D-STARはデジタルならではのいろいろな発展性があると思いますが、一番の魅力は“災害時の連絡にも役立つレピータ運用ができる”ことにあります。また、レピータからトランシーバー間の電波の伝わり方も体感でき、特に山掛け運用ではレピータ設置場所からの伝搬状況が相互に確認できるため、アナログ・デジタルを問わずアマチュア無線として十分楽しめると思います」と魅力を語ってくれた。

そして今後D-STARでやってみたいことについては、「松山市はドイツのフライブルク市と姉妹都市になっていますので、青少年のアマチュア無線家が、松山城レピータとフライブルク市にあるD-STARレピータを介して交信ができればいいですね」と述べている。
(取材協力:道後温泉旅館協同組合、道後山の手ホテル、松山市役所アマチュア無線クラブ)

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次号は 12月 1日(木) に公開予定

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