2015年2月号
連載記事
楽しいエレクトロニクス工作
JA3FMP 櫻井紀佳
第21回 色々なフィルター
昔のようにフィルターを自作しなければならない場面は少ないとは思いますが、自作派としては作り方と応用を知っていた方が便利な時があります。多くのフィルターは既に色々な設計方法がインターネット等に提示されているので、少し変わったものを主に紹介したいと思います。
1.LCフィルター
初期には影像パラメーター法という素子が無限に繋がったことを想定した設計法「O. Zobel, Theory and Design of Electric Wave Filters, Bell System Technical Jour., (Jan. 1923)」でしたが、コンピューターで複雑な計算も簡単にできるようになり、実際の回路に近い動作パラメーター法が主流になりました。
次の図は影像パラメーター法と動作パラメーター法で設計したLPF(ローパスフィルター)の特性の比較です。
影像パラメーターLPFの特性
動作パラメーターLPFの特性
昔は50MHz帯でアマチュア無線を運用すると第2高調波がテレビの2チャンネルに混入し、そのTVI対策に苦労したものですが、当時は動作パラメーター法の設計も分からず適切なフィルターが作れませんでした。今ではフィルターも簡単にできますが、テレビは地デジに変わり、周波数はUHF帯を使用するようになったため、その必要性もなくなってしまいました。地デジに変わる前のアナログ時代の最後の頃に作った動作パラメーター法のフィルターを紹介します。
動作パラメーター法でバンドパスフィルター(BPF)を設計するとほとんどのBPFは設計できるのですが、狭帯域にすると実際の素子が理想的なものにできず、シミュレーションと実際の特性が合わなくなってきます。次の図はこの設計法で設計した7MHzのBPFとそのシミュレーションで良好な特性になっています。ところが使っているCの値が16.9nFでLの値は29.3nHになっており、これ位の値のコンデンサーとコイルはQが非常に低く、実際には希望する特性には遠く及ばないものになってしまいます。
このため、本連載「楽しいエレクトロニクス工作」第3回受信機の記事で紹介したフィルターの特性をもう一度紹介します。
このフィルターの周波数を変えるには、CもLもその周波数比で割ればOKです。例えば、14MHzでは14/7=2のため、CもLも半分にすればほぼ近い特性にできます。この形のフィルターはコイルにタップが不要なためCのカットアンドトライで調整できる利点があります。
2.アクティブフィルター
OPアンプを使ったアクティブフィルターの設計ソフトもインターネット等で簡単に手に入れることができ、特に珍しくはないと思います。
鋭いピークを持ったバンドパスフィルターで一般の設計法ではなくTwin-Tノッチを利用した電信用の低周波フィルターを紹介します。Twin-Tノッチはノッチフィルターとして有名ですが、これを帰還に利用してBPFにするものです。周波数を変えるにはfc=1/2πRCの計算で変更できます。
Twin-Tノッチ回路と特性
Twin-Tノッチ回路を利用した600Hz BPF回路
600Hz CWフィルター
Twin-Tノッチ型BPFの特性
3.同軸型フィルター
同軸型のフィルターはQが高く急峻な特性にできることが知られていますが、形が大きくなるのであまり使われる機会がありませんでした。
・ 430MHz
レピーターを設置するとき、高い場所に上げる場合が多く、またテレビ送信局に近い場合が比較的多いと思われます。このような場合はレピーターの受信機がテレビ電波でブロックされて正常に受信できないことがあります。こんな場合はこの同軸型フィルターが有効です。
この430MHz同軸型フィルターは双峰特性になっており、レピーターの送信と受信の周波数で特性が持ち上がっていますが、挿入損失は低い値になっています。
430MHz同軸型フィルターの特性図
・ 1.2GHZ
430MHzと同様な同軸型フィルターですが、周波数が高いため形は小さくなります。コネクターはSMAタイプを使用します。
1.2GHzの同軸型フィルターの特性
楽しいエレクトロニクス工作 バックナンバー
- 第89回 温度/湿度計
- 第88回 CWスピード
- 第87回 雨量計
- 第86回 IC-705用電源
- 第85回 デジ簡と特小のリンク
- 第84回 エレキー
- 第83回 スピーチコンプレッサー
- 第82回 長波JJY受信機
- 第81回 3.5MHzアンテナ
- 第80回 シニアスピーカー
- 第79回 バッテリーアイソレーター
- 第78回 F2A発振器
- 第77回 DDSの動作
- 第76回 マルチチェンジャー
- 第75回 ハンディ無線機用電源
- 第74回 NAVTEX
- 第73回 多用途タイマー
- 第72回 周波数誤差検出
- 第71回 ワイヤレス充電
- 第70回 警報付電圧計
- 第69回 分配器
- 第68回 半田ごてタイマー
- 第67回 可変アッテネーター その2
- 第66回 アンテナマッチング回路
- 第65回 AM受信機
- 第64回 2バンドアンテナ その2
- 第63回 2バンドアンテナ その1
- 第62回 ドライバーSG
- 第61回 144MHz→50MHzダウンコンバーター
- 第60回 音声帯域モデム
- 第59回 位相方式SSB (その2)
- 第58回 位相方式SSB (その1)
- 第57回 AMトランシーバー
- 第56回 グリッドディップメーター
- 第55回 低周波発振器
- 第54回 スイッチトキャパシターフィルター (SCF)
- 第53回 SWR計 その2
- 第52回 SWR計 その1
- 第51回 コードレスキー その2
- 第50回 2トーン発振器
- 第49回 スペクトラム拡散通信 その2
- 第48回 スペクトラム拡散通信 その1
- 第47回 ワイヤレスハンドマイク
- 第46回 自動アンテナ切替器
- 第45回 CI-Vターミナル
- 第44回 案内放送
- 第43回 PEP パワー計
- 第42回 容量計
- 第41回 コードレスキー
- 第40回 電子バグキー
- 第39回 お酒沸かし
- 第38回 電圧給電アンテナ
- 第37回 パルスジェネレーター
- 第36回 インピーダンスブリッジ
- 第35回 GPS その3
- 第34回 GPS その2
- 第33回 GPS その1
- 第32回 鹿おどし
- 第31回 続CW復調改善 その2
- 第30回 続CW復調改善 その1
- 第29回 CQコールマシン
- 第28回 PINダイオード
- 第27回 可変アッテネーター
- 第26回 誘導無線アンテナ
- 第25回 CW復調改善
- 第24回 1.2GHz受信用プリアンプ
- 第23回 パワー計
- 第22回 実験用定電圧電源
- 第21回 色々なフィルター
- 第20回 1人でタワーを建てる
- 第19回 マルチバンド ワイヤーアンテナ
- 第18回 省エネシステム
- 第17回 太陽光発電で無線をしよう! その3
- 第16回 太陽光発電で無線をしよう! その2
- 第15回 太陽光発電で無線をしよう! その1
- 第14回 0-V-1 その2
- 第13回 0-V-1
- 第12回 周波数カウンターの製作 5
- 第11回 周波数カウンターの製作 4
- 第10回 周波数カウンターの製作 3
- 第9回 周波数カウンターの製作2
- 第8回 周波数カウンターの製作1
- 第7回 送信機2 (最終回)
- 第6回 送信機
- 第5回 HF受信機3
- 第4回 HF受信機2
- 第3回 HF受信機
- 第2回 無線通信機の構成
- 第1回 ゲルマラジオ