テクニカルコーナー
2023年9月1日掲載
海外に続き、日本でもIC-905が販売開始されました。今回はIC-905で質問の多い「マイクロウェーブで使う同軸ケーブル」についてご紹介します。
ハムフェア2023のIC-905展示には、さまざまなケーブルが使われた。
《目次》
「IC-905に使うから同軸ケーブルの型番を教えて欲しい」と聞かれることがよくありますが、正しい答えは「わからない」となります。
IC-905は同軸ケーブルでのロスを低減するためコントローラとRFユニットをセパレート方式にしています。ギガヘルツ帯の世界では同軸ケーブルをできるだけ短くして使うため、HF帯やV/U帯のように「ショップで売っている適当な長さの同軸ケーブルを買ってきて使う」のではなく、「必要最小限の長さにカスタマイズ」することも多いのです。実際、高周波用ケーブルを販売するショップでは、10cm単位で切り売りするところもあるほどです。
また「高周波用」としてさまざまなケーブルが出回っていますが、ケーブルの内部構造が同じでも、被覆が変わることで「セミリジット」や「セミフレキ」など呼び名も硬さも変わります。また特性はケーブルの内部構造によって決まるため、ケーブルの見た目で判断することできません。取り扱うサイトによっては「同軸ケーブル」、「ジュンフロンケーブル」など名称もさまざまになるので、まずは判断基準となるケーブルの規格と略号を知っておくと良いでしょう。
ハムショップで売られている同軸ケーブルには「5D-2V」や「3D-2V」などの表記を見かけますが、これらはJIS規格の品名略号です。
「5D-2V」の意味
5: 絶縁体外径(数字が大きいほど太い)
D: 特性インピーダンス記号(D=50Ω)
2: 絶縁体記号(2=PE充実絶縁)
V: 外部導体などの形状記号(V=一重編組・ビニール)
一方高周波で使われるケーブルは「RG-316/U」、「RG-402」などの表記を見かけますが、こちらはMIL(Military Specifications and Standards: 米国軍仕様)規格の品名略号です。
「RG-316/U」の意味
RG: Radio Guideの略
316: 型式番号(JISのような大きさ順の数字ではない)
U: Universal(一般用途)
規格の他、太さを表す略号もあります。細くなるほど高周波向けになりますが、加工が困難になります。
◎太さの表記の一例
UT250: φ6.35
UT141: φ3.58
UT085: φ2.19
UT063: φ1.60
UT047: φ1.19
UT039: φ1.00
UT034: φ0.86
IC-905はアンテナ直付けもできるよう、接続用コネクタはRFユニットの天面にあります。もちろん、アンテナを直付けしない場合は同軸ケーブルを利用しますが、ギガヘルツ帯の同軸ケーブルは、対応する周波数が高いものを選び、できるだけ短くするのがポイントです。ここでは、一般的に売られているケーブル名称を使って説明いたします。
さまざまなSMAプラグ付きケーブル。
上から、セミリジット(RG402・UT085)、セミフレキ(Candox Systems製:5B-072)、セミフレキ(RG402)、テフロン同軸(RG316)、同軸(RG174)
◎セミリジッド
継ぎ目のない金属チューブに覆われた硬いケーブルで、両端にコネクタを半田付け+曲げ加工をして使います。屋外で使う場合は腐食防止のメッキ処理がされたものが望ましいです。
低損失で、18GHzなど高い周波数に対応するケーブルとしては安く購入できるので人気の高いケーブルです。1mなど「本単位」で売られているものをカットしてコネクタを取り付けますが、希望の長さのSMAコネクタ付きケーブルをオーダーできる便利なショップもあります。
セミリジットにはさまざまな太さのケーブルがありますが、あまり細いとSMAコネクタの取付加工が難しくなります。ハムフェア2023に展示したIC-905にはUT085(φ2.19)のセミリジットを使っています。
2.4GHz帯ではさまざまなケーブルを使えますが、10GHz以上になるとセミリジットか高級セミフレキを使うことになります。なおIC-905の10GHz帯対応パラボラアンテナ(AH-109PB)には、10GHzトランスバータが取り付けられる金具の他、メッキ処理された専用セミリジットケーブルも付属しているので、別途同軸ケーブルを用意しなくても大丈夫です。
セミリジットで接続されたRFユニットとコーリニアアンテナ。
◎セミフレキ
セミリジットとほぼ同等の高周波伝送特性を持ち、ある程度の屈曲が可能なケーブル。セミリジットのように「少しでもアンテナ取付位置が変わると接続できない」ことがないので、ハムフェア2023のIC-905展示では、セミリジットだけではなく屈曲性の良いセミフレキも使われました。
セミフレキは外被の有無やノーブランド品も含めさまざまなケーブルが出回っており、比較的安いものから高級品まで、特性も大きく異なります。中にはケーブルの仕様を表記せず粗悪なSMAプラグを付けて売っているものもあるため、マイクロウェーブで楽しく運用するためにも、ケーブルの測定値を公開しているものや、ケーブルとSMA型プラグ両方の仕様を公開しているしっかりしたもの選ぶと安心です。
ハムフェア2023のIC-905展示では、セミフレキも使われていた。
Candox Systems製のセミフレキ。最大周波数18GHz。ケーブルに測定値資料も添付されている。
◎テフロン同軸(RG316/U)
フッ素絶縁体を使用した、細くて軽くて屈曲性の良いケーブル。2.4GHz程度までに使え、比較的安く購入できます。展示会のIC-905展示では、2.4GHz/5.6GHzアンテナの接続に使うこともあります。細くて扱いやすい反面、プラグの根元が折れやすく、展示会撤収の際に何度か折られてしまった経験があります。
SMAコネクタ付きテフロン同軸(RG316/U)。とてもよく曲がる。
◎同軸ケーブル(RG174/U)
3D-2Vの同軸ケーブルより少し細めのケーブルで、高周波に適したSMAコネクタを付けることで2.4GHz程度までなら使用できますが、「V/Uハンディ用ケーブルを転用している」と誤解されないよう、IC-905の展示に使うことはありません。
マイクロウェーブで使えるケーブルの一部を紹介しましたが、もちろんケーブルが長くなるほどロスが発生します。どの周波数で使うのか、どの程度の長さが必要なのかを決めた上で、ケーブルの仕様を確認して購入することをお勧めします。
同軸ケーブルを長くするとどうなるか? 実際に測定してもらいました。参考にしてください。
測定系概略図
日本各地で開催されるマイクロウェーブのイベントや、ハムの祭典のマイクロウェーブ系ブースでは、ケーブルを含む便利なグッズ類を販売されていることがあるので、是非参加してチェックしましょう。もちろんその際には、マイクロウェーブ仲間を増やしてQSOのコツや情報を教えてもらうことで、さらに楽しさが広がります。
なかなかイベントに参加できないという方には、高周波用のケーブルやグッズ類が購入できるショップもあるので、いくつかご紹介します。
◎株式会社コスモウェーブ
https://www.cosmowave.net/
V/UHF帯からギガヘルツ帯までのさまざまな商品を取り扱っている、マイクロウェーブ界では有名な会社です。
◎高周波ドットコム
https://www.kosyuha.com/
スタック電子株式会社が運営する高周波関連製品の通販サイトで、長さを指定してSMAコネクタ付きケーブルを注文できます。
◎キャンドックスシステムズ株式会社
https://www.candox.co.jp/products_cat/cable/
法人向けに事業展開している会社ですが、「即納・売り切り商品」として高周波用同軸ケーブルを1本から購入することもできます。
◎モノタロウ
https://www.monotaro.com/
現場を支えるネットストアですが、ギガヘルツ帯で使えるSMAケーブルもあるようです。なんとHUBER & SUHNER社のケーブルまで1本単位で購入できるのは驚きです。
◎セブロン電子
http://mpl.jp/chevron/index.html
マイクロ波に便利なグッズ類を各種取り扱っています。
最近「高周波用ケーブルも取り扱いたい」とのハムショップ様の声も聞くので、相談してみるのも良いかもしれません。
次回は、アイコムのIC-905展示を支えるセミリジット加工の匠が伝授する、身近な工具でできるセミリジット加工について、ご紹介いたします。
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