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熊野古道みちくさ記

第35回 伊太祁曽神社と藤白神社

熱田親憙

紀州沿岸は漁業技術にすぐれた漁民や多くの水軍を生んできた。これも豊富な木材資源が造船などの産業を育んだことによるもので、まさに紀伊国=木の国である。JR和歌山駅から和歌山電鉄貴志川線に乗り、木の大神が祀(まつ)られている伊太祁曽神社を訪ねた。巨木に囲まれて、祭神はイタケルノミコト、配神として、左脇宮にオウヤツヒメノミコト、右脇宮にツマツヒメが厳かに祀られていた。3神ともに木の神様の元締・スサノウノミコトの子で、主祭神は長男、脇宮は長女、次女の順となる。

日本書記(卷第一)によれば、イタケルは天降るときに多くの樹種をもって下ってきた。スサノオノミコトは「日本の到るところを青山にすべし」と3人の子神らに言いつけたので、スギ、ヒノキ、マキ、クスノキの種を筑紫から全国に蒔(ま)き、最後に紀伊国に残り全部蒔いた。兄のイタケルは有功(いさをし)の神として紀伊国の大神となる、とある。(意訳)。境内でクスノキの巨木と共に、ひときわ目を引いたのが、しっかりとしめ縄をされて「家内安全」「魔除け」の神木になっているナギ(梛)の木だった。熊野詣では、道中安全を祈る神木として、懐に入れてその葉をお守り代わりにしたそうだ。草木に神が宿る信仰は、今のインド、ネパールのヒンズー教とも共通しており、うなずける。

拝殿前の館には、木を愛する人達のチェンソーアートの作品が陳列されていた。人間の10倍以上も生きている大樹を見上げると、その毅然として神霊に支えられたような生命力を感じ、自然と手を合わせたくなるから不思議である。

汐見峠を越えて松代、祓戸王子を歩いて今日の終点・藤白神社(海南市)へ着く。

この神社は斉明天皇が紀の温湯(白浜湯崎温泉)に行幸の際に創建したといわれ、格式のある熊野王子社の一つ。境内には、子供の守り神の楠神社があり、樹齢千年の楠の巨木が神木である。病弱だった南方熊楠が藤白神社から「熊」と「楠」の2文字を授けてもらったといわれている。

藤白神社の吉田晶生宮司は朱印帳持参など、信仰に関心のある方には、権現堂で説法をするように努めておられる。特に古道を歩くことによって、自然に触れて「畏敬の念」を持ってほしい、自然の霊気に触れ、神、仏の存在に気付いてほしいと願っておられる。更に、参詣道では、昔から旅する人たちに会ったら「あいさつ」を交わし、困っている人には親切を施してきた。こうした人と人との心ふれあいが接待の原点であり、施しが浄土につながる信仰へと発展していくのである。「いにしえの熊野古道参詣の動機は、難行苦行の末、歩き通した達成感で生きる勇気をもらい、蘇(よみがえ)るの境地になることでしょう」と締めくくっていただいた。

現代人は文明の利器にどっぷり浸かり、人間本来の機能性が劣化していることに早く気づいて、人間性を取り戻す第2次ルネサンスの到来を望む声が聞こえてくるようなお話だった。帰途の車中、NHK大河ファンタジー「精霊の守り人」が頭によぎり、神木の霊を肌に感じながら、心地よい眠りのひと時を持った。


スケッチ;伊太祁曽社殿(和歌山市伊太祈曽)

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