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熊野古道みちくさ記

第45回 生石高原に立って(有田川町)

熱田親憙

秋が深まると山野のススキの穂が白髪の穂に変わり、年齢のせいか、親しみを覚える。ちょうど新聞に掲載された真っ白なススキに覆われた生石高原の写真が目に留まり、登りたい衝動に駆られた。

広川町の稲むらの火祭りが行われた10月15日、正午に生石高原の頂上に着く予定で和歌山市駅を車で出発。阪和自動車道から県道を経て国道480号線を有田川上流の二川沿いに行くこと40分、有田川町(旧清水町)の粟生付近に来ると、アユ釣りの釣り人が数人澄んだ水面に糸を垂らしていた。祭礼行事として歌舞伎を奉納する城山神社、治水と発電目的で作られた二川ダム、軒先に山菜を干す農家など山村風景を右手に見て間もなく、県道野上清水線に入る。S字の上り坂を一気に進むこと10分、頂上からは幾重もの山系が足もとまで伸びていた。「木の国俯瞰(ふかん)図」の眺めが足元に広がった。

ここまでは神社の神木となる巨木を足元から見上げ、木の国の偉大さと畏れを感じてきた。
今ススキ越しに見る山並みは、地球の営みが生み出した生命力を宿していると思った。ショベルカーでは到底創れない山川の褶曲(しゅうきょく)、自然の美しさは言葉で言い尽くせない。

駐車場から標高870メートルの生石ヶ峰をはるかに見る笠石に登ると視界が更に広がり、「木の国の頂上」に登ったかのような錯覚に陥った。

足元には、広い2つのスロープがススキの白い穂のカーペットで覆われ、はるか下方に幾重にも延びていた。笠石を降りた場所にあるススキに囲まれた広場では、家族連れやカップルがそれぞれに開放空間を満喫していた。

「気持ちいい!」「わあ広い」「お弁当にしようよ」の歓声が聞こえてきた。私は背丈ほどのススキの穂に触れて、忘れかけていた小学校3年時の遠足を思い出した。いつもの遠足と違って、リュックか風呂敷持参の山登りと告げられた。登った経験のない山に群生するススキの穂の前で先生いわく「今日はお国のために働いてもらうぞ。これからススキの穂を刈り取るのだ。軍隊の野戦病院の枕と布団の綿代わりにする。多く供出したら軍からご褒美があるそうだ。頼むぞ」。私は「ラジオで戦勝の放送は聞くけど、綿まで不足とは・・・・・。本当に勝てるのか」と疑問を持ちながら、黙々と刈り取った。

風に誘われてスロープを下りてみると、吹き上げてくる風に揺れるススキの穂が、逆光線でステンドグラスのようにキラキラときらめき、美しかった。ススキを軍事物資や屋根葺(ふ)きに使うことはもはやない。だが、草原や道路脇に生えるススキは防風垣や土砂流出防止の役割を果たしている。木の国の森や林が営みを続け、生態系を維持するため、なくてはならない存在であることに気付かされた。

今年、ノーベル医学生理学賞を受賞した大隅良典・東京工業大栄誉教授の「役に立つ、事業になる科学技術だけを求めていくと、文化のない社会に堕ちていく」という言葉を思い起こしながら草原を後にし、祭りへと向かった。
(記:2016年)


スケッチ;生石高原笠石付近のススキの草原(有田川町)にて

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