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熊野古道みちくさ記

第54回 難行苦行の始まり (滝尻王子周辺 田辺市)

熱田親憙

世界文化遺産に追加登録された潮見峠を登った後、4年前に訪ねた滝尻王子(田辺市)とその周辺の変化を見たくなった。富田川沿いの311号に入って間もなく左折し、石船川との合流点に出た。

4年前は、熊野古道中辺路の滝尻王子から熊野本宮大社まで37.7キロを5回に分けて歩くバスツアーの企画を知り、1回目のツアーで初めて滝尻王子を訪ねた。当時、富田川と石船川の合流点は、紀伊半島豪雨をもたらした台風12号による被害が甚大で、修復工事で雑然としていた。今回は、その復旧の様子を目の当たりにして安心した。滝尻王子社の境内に入ると、目的地の高原熊野神社まで、予想以上に難儀しながら参道を登り下りした当時を思い出し、ひとり苦笑せざるを得なかった。

その当日。ツアーの一員であるからには脱落は許されないと言い聞かせていたものの、滝尻王子に参拝後、聖域熊野山の入り口で、今から登る裏山の急勾配の坂道を見上げ、圧倒され、ため息が出てしまった。

ツアーは語り部ガイド1人につき観光客が約20人。上り始めた坂道を、丸太で作られた階段に合わせて一歩一歩進んだ。息切れと戦いながら、いつの間にか列の最後にいた。周囲を見る余裕は全くなく、2メートル先の階段の足場を確実に踏みしめられるよう、黙々と歩いた。なんとか最後部が見える範囲に自分がいるようにがんばり、やっと平坦な場所にある巨岩「乳岩」に辿りつけて安堵(あんど)したのが昨日のことのように思い出される。巨岩がここにあるのは、人の力によるものと思えず、奥州平泉の藤原秀衡の子にまつわる伝説をはじめ、さまざま伝説が存在するのも不思議ではない。

不寝王子跡から急な坂を懸命に登って、剣の山(371メートル)で団体と合流。語り部ガイドが歌われた木やり節調の歌や腹話術が疲れを癒してくれた。一休みの後、展望台のある飯盛山へ。視界が開けて解放感を味わう。足元に集落を見て古道が村人に守られていることを感じた。

坂を下り、針地蔵に近い県道と古道の交差点で、語り部ガイドに団体行動ギブアップを告げた。近道の県道を歩いて高原熊野神社に一足先に着いた。この神社は滝尻王子社よりずっと風格があり、中辺路参詣道における最古の神社建築として県の文化財に指定されている。畔道(あぜみち)にマンジュシャゲが咲き、参詣にふさわしい雰囲気だった。高原集落は 熊野詣での開始当初から民宿の地、宿場としてにぎわったようで懐が深い。

3時間ほどのツアーだったが、雑踏から逃れて古人の気持ちを知り、人間が自然に生かさていることを感じたひと時だった。大学時代ワンダーフォーゲルの経験があるにも関わらず、団体行動から脱落したのが残念でならなかった。衰えと運動不足は現実であり、自分と対峙(たいじ)するいい機会でもあった。

古道の難行苦行が浄土につながるという教えから、古人は滝尻から本宮までの参拝道が極楽浄土へ続くと捉えていたのかもしれない。


スケッチ;高原熊野神社(田辺市中辺路町高原)にて

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