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熊野古道みちくさ記

第37回 慈尊院(九度山)と青洲の里(紀の川)

熱田親憙

大河ドラマ「真田丸」でにぎわっている九度山町を訪ねた。真田信繁(幸村)雌伏の地、高野山への町石道の起点という二つのビューポイントがある。まず真田庵や抜け穴を散策したあと、紀の川支流の丹生川を渡って慈尊院を訪ねた。

ここは高野山と下界を結ぶ起点であり、終点。また女人高野の寺でもあり、女性の信者が多い。それは母思いの空海がここに住む母を月に9度訪ねたことと、母が本尊の弥勒菩薩を深く信仰されていたことが背景にあるようだ。

特に目に留まったのが乳房形(ちちかた)であった。板に布で作った乳房が貼り付けられた絵馬が奉納されていた。安産祈願、乳がん予防・平癒などを願う文字が記され、幾重にも重なって下げられていた。昔から女性にとって乳房は子育てのための大切な身体の一部であった。育児中家内も乳腺炎で苦しんだことがある。今でも乳がんに悩まされている女性を多く知る。医学が発達していなかった昔は、神にすがって祈るしかなかったのだろう。

乳がんの悩み、不安に立ち向かった町医者・華岡青洲(1760~1835年)が、紀の川沿いに住もうておられたことを思い出し、日を改めて「青洲の里」を訪ねた。

JR和歌山駅から紀の川とJR和歌山線に沿って「青洲の里」の西野山に向かう沿道は、菜の花、ピンク一色の桃畑、白い木肌に若葉が芽吹いた柿の木など、自然の息遣いで満ちていた。ここが有吉佐和子の代表作「華岡青洲の妻」の舞台かと、やや緊張した思いでアーチをくぐると、青洲先生の銅像がにこやかに迎えてくれた。

「自分は何の富貴栄達も望まない。竹垣をめぐらす野鳥の声がする景色のよい田舎に住んで、ひたすら瀕死(ひんし)の病人が回生する医術の奥義を極めたい」との言葉に接し、町医者に徹した生き方に感動させられた。

医療機器のレンタルローンに振り回されている現代の医師と比べ、その人間性に隔世の感を強くした。さらに進むと生誕地の春林軒があり、裏木戸をくぐると約200年前の母屋での先生の活躍ぶりが再現展示されていた。

先生は75年の生涯の中で、1804年10月13日に世界初の全身麻酔による乳がん摘出手術成功という快挙を成し遂げた。その陰には、マンダラゲの薬草を主成分とする麻酔薬「通仙散」を開発するため、動物実験、妻と母への人体実験を重ねた。その経緯は、小説のドラマ化でご存知の方も多いかと思う。成功の暁には自ら春林軒塾を開き、約1000人の門下生を指導して臨床治験の基礎をつくった。

先生は医療だけでなく、農村のかんがい用のため池事業にも携われた。江戸へ出ずに地元にとどまり、私利私欲を捨て、農民のために尽くす姿は、紀州人の誇りとして、現代も尊敬されている。彼のような偉人の登場で村や町が発展し、国全体が力を付けたのだろう。戦いのない平和な江戸時代であったからこそだと思う。

今世の中は、憲法9条をどうするかで揺れている。「鎖国を経験した日本にとって、戦争放棄は当たり前の事だよ」と先生が耳元でささやいていているように思えた。

スケッチ;春林軒内庭(紀の川市西野山 青洲の里)

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