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Mr. Smithとインピーダンスマッチングの話

【第39話】 アンテナと空間のインピーダンス(その6 平衡と不平衡(その2))

濱田 倫一

第38話では、平衡(Balanced)配線と不平衡(Unbalanced)配線、差動(Differential)回路と片線接地(Single end)回路について解説しました。無線通信の世界では平衡回路(素子)の代表がダイポールアンテナで不平衡回路の代表が同軸ケーブルや同軸ケーブルが接続されるように設計された無線送受信機なので、両者を接続する機会が頻繁に発生します。両者をそのまま接続すると何が不都合なのでしょうか。第39話はそのあたりのお話です。

1. コモンモード電圧とノーマルモード電圧

図1は第38話の図2(a)を改めて書き直したものです。平衡配線された回路では、回路の動作は全てHOT/COLDの2線間の電位差で規定されます。各配線間には電位差があるので、当然GND(大地)の間の電位差VC1,VC2も異なる値になるのですが、回路設計の観点では個々の配線とGND間の電位差を都度考慮するのは合理的ではありません。

そこで図1の右側に示すように、回路全体とGNDの間にはコモンモード電圧VCに相当する電位差があって、回路各部の電位はVCを中心電位(中性点)として対称に分布していると考えます。こう考えることでVCは回路の動作に影響しません。回路の動作はCOLDラインを0Vとして考えていますが、これをノーマルモード電圧と呼びます。


図1 平衡線路とGND電位の関係

2. コモン・ノーマル変換(平衡線路と不平衡線路を直結すると何が悪いのか)

図1に示した平衡型の配線においても、コモン電圧VCの大きさを管理したくなる(一般的にはVC =0Vにする)場合があります。そのためには回路をGNDに接続する・・・つまりアースをとる事になるのですが、HOTラインとCOLDラインがバランスしている配線なので、図2(a)に示すように回路の中性点(電位が中間になるノード)をGNDに接続する必要があります。回路の中性点をGNDに接続する限り、VCは短絡されることがあっても回路電圧(ノーマルモード電圧)VnはGND接続の有無で変化しません。ところがCOLDラインをGNDに見立てて接地してしまうと、図2(b)に示すようにVCによって回路に流れる電流IC+IC-がアンバランスになり、回路電圧(ノーマルモード電圧)に、Vc’という電圧が加算されて観測されます。(→図2(c))このVC’は回路動作に影響を与えなかったコモンモード電圧VCが、回路動作に影響するノーマルモード電圧Vnに変換されて重畳されたと見なすことができ、この事象をコモン・ノーマル変換と呼びます。


図2  コモン・ノーマル変換

同軸ケーブルを入出力インタフェースとする機器・・・無線通信機、スペアナ、オシロスコープ等々は全て片線接地、すなわちCOLDラインが接地されています。従って平衡回路と直結すると図2(b) の状態が成立してコモン・ノーマル変換の影響を受けてしまうのです。

コモン・ノーマル変換で最も身近なものはハムノイズではないかと思います。機器をどこかに接地したときや、人が手を触れたときに、今まで聞こえなかった(見えなかった)ノイズが浮上するという気味の悪い現象の大半は、コモンモードで重畳していた(隠れた)ノイズ電圧がバランスを崩してノーマルモードの電圧として回路に影響(重畳)することで発生しています。

ダイポールアンテナの片方のエレメントをGNDに接続した場合は、図3に近い状態になります。(受信アンテナとして見た場合のイメージです)

図3に示すように回路の中性点を積極的に接地している信号源のCOLD側を負荷側で接地してしまうと、COLD側の信号源は短絡されることになり、GNDに短絡電流が流れてしまいます。 ダイポールアンテナの場合は中性点を大地に接続しているわけではありませんが、対になっている2つのエレメントは大地から見て同電位を前提にしているので、片方を大地に短絡するとバランスを失ってしまいます。この結果、高周波電力が漏洩してTVIを発生したり、指向性が崩れたりする原因になります。


図3 接地によるアンバランス化

3. 平衡回路と不平衡回路の接続方法

平衡回路と不平衡回路を接続するためには、GNDとの接続を絶縁して、線間電圧(信号)のみを受け渡しする仕組みが必要です。最も確実で基本的な考え方は図4に示すようにトランスで絶縁する方法です。電力送電やオーディオ回路では単に「トランス」または「絶縁トランス」と呼んでいますが、アンテナの給電系に用いるものについては「バラン: BalUn → Balanced/Unbalanced変換トランス」という俗称がよく使われます。


図4 平衡-不平衡変換の基本コンセプト

図4に示したトランスは直流まで絶縁できるので、ハムノイズ等への対策には効果的ですが、高周波になると磁気回路の損失が無視できなくなってしまうので、高周波領域のみで絶縁を確保する図5のような構成のトランスを用います。図5(a)の強制バランは高周波用バラントランスとして最も良く知られたもので、めがね型のコアやリング状のコアに3本撚りのワイヤーを巻くことで実現します。図5(b)のコモンモードチョークはフローティングバランとも呼ばれ、同相の電流のみ相殺するように働く事で、コモンモードを絶縁します。


図5 高周波バラン

図6は分布定数回路(λ/4伝送線路)を用いたバランになります。λ/4伝送線路のインピーダンス変換については、第11話、λ/4伝送線路によるスタブライン(オープン/ショート変換)は第12話を参照ください。


図6 伝送線路を用いたバラン

並行線路のようにGNDから離れている伝送線路の特性インピーダンスには
①奇モードインピーダンス Z0(Odd):線間のインピーダンス(ノーマルモードに該当)
②偶モードインピーダンスZ0(Even):各線とGND間のインピーダンス(コモンモードに該当)
の2種類が存在します。バランとして動作させる為には奇モードのインピーダンスを変化させずに偶モードのインピーダンスを高くとって絶縁するという方法をとります。

このタイプのバランは、通常、同軸ケーブルの外周にGNDの働きをさせる導体スリーブを設けることで実現します。

並行線路に沿ってGNDに相当する長さλ/4の線路を接地側の線路に設けることにより、不平衡回路側でCOLDラインをGNDに短絡したときに、平衡回路側ではCOLDラインがGNDと絶縁されて見えます。HOT/COLD間のインピーダンスは奇モードなので変化しません。

同軸線路の特性インピーダンスを適当に選ぶことによってインピーダンス変換の機能を持たせることも可能です。(→第11話参照)

4. ダイポールアンテナと同軸ケーブルの接続

最後に3章で解説したバランを用いてダイポールアンテナと同軸線路を接続するイメージを図7~図9に示します。ここに示した図では同軸ケーブルの特性インピーダンスZ0(=50Ω)とダイポールの給電インピーダンスRf(=73Ω→≒75Ωとしています)の整合をバランの不平衡線路側でおこなっていますが、ダイポールエレメントの長さを調整するなどして、アンテナ側で給電インピーダンスを調整しても構いません。図7はトランスでインピーダンス変換と不平衡-平衡変換を行うケース(原理図)、図8は図5(a)に示した強制バランの適用例、図9は図6で解説した伝送線路タイプのバランにインピーダンス変換の機能も組み込んだものです。

なお伝送線路を使用したインピーダンス変換は第11話で解説しましたので、併せてご参照ください。


図7  ダイポールアンテナと同軸給電線を接続する時の基本的な考え方


図8 ダイポールアンテナと同軸給電線の接続(強制バラン適用)


図9 ダイポールアンテナと同軸給電線の接続(伝送線路タイプのバラン適用)

5. 第39話のまとめ

以下、第39話のまとめです。

①平衡回路においては、回路の線間電圧である「ノーマルモード」以外に、GND基準で見た時に回路全体に観測される「コモンモード」電圧が存在する。
②平衡回路と不平衡回路を直結すると、平衡回路の片線(一般にはCOLDライン)が接地、短絡されることになるので、平衡回路側のバランスが崩れ、GNDに電流が流れる。
③結果、平衡回路では問題にならなかったコモンモード電圧が、ノーマルモード電圧に変換されて、回路にノイズ電圧やスプリアススペクトル(電圧)として出現する。この事象をコモン・ノーマル変換と呼ぶ。
④ダイポールアンテナを片線接地の同軸ケーブルと接続すると同様の問題が発生し、対になっている素子の電流バランスが崩れる。その結果、ダイポールアンテナの指向性が乱れるのみならず、給電電流が漏洩することで、TVI等、干渉問題の原因になる。
⑤平衡回路と不平衡回路を接続する時は、GNDとの接続を絶縁して線間電圧のみ受け渡しする仕組みが必要で、これを実現するのがトランスである。高周波においては、平衡不平衡変換トランスのことをバランと呼ぶ。
⑥平衡回路においては、コモンノード電圧とノーマルモード電圧が存在するのと同様、線間インピーダンス(特性インピーダンス)についても偶モードインピーダンスと奇モードインピーダンスが定義される。バランの動作は、平衡回路から不平衡回路を見た時に、不平衡回路で片線が接地された状態において、偶モードインピーダンスのみOPENに見せるインピーダンス変換回路といえる。

これでダイポールアンテナと無線送受信機の接続方法について一通り解説できました。バランやアンテナの整合方法は変形例が多く、私の解説で全てを網羅できた訳ではありませんが、原理的なところはご説明したつもりですので、皆さんで色々な設計事例を読み解いていただければと考えます。

さて2018年10月から3年とちょっと、「インピーダンスマッチング」をテーマにして、色々な設計事例をMr.Smithの使い方を交えてご紹介してきましたが、筆者の浅学の知識は概ね書き尽くしたのではないかと思います。

次回、総集編として、読者の方から寄せられたご指摘も交え、改めて「インピーダンスマッチングとは何か」について語らせていただき、「Mr.Smithとインピーダンスマッチングの話」は休刊とさせていただこうと考えます。今後、インピーダンスマッチングというテーマについて、読者の方から「こんな話を聞きたい」というご要望や、過去の掲載に対するご指摘があれば、不定期で記事を掲載させて頂こうと思いますので、ご要望やご指摘がございましたら、月刊FB NEWS編集部にお寄せ頂けますと幸いです。宜しくお願い申し上げます。

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