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日本全国・移動運用記

第46回 長崎県壱岐市移動 (V/UHFは2台のIC-9700で効率運用)

JO2ASQ 清水祐樹

長崎県壱岐(いき)市は、全域が離島で構成されている市であり、移動運用のリクエストが多く寄せられていました。壱岐市は全市交信(WACA)を狙う上で、難関の一つになっています。そこで、HF帯の多くのバンドで交信が期待できるシーズンを狙って、移動運用を計画しました。

WACA(全市交信)における難関の一つ、壱岐市

アマチュア無線の「目標」として、よく話題になるものの一つに、日本の全ての市と交信するアワードWACA(Worked All Cities Award)があります。全ての市と交信するには、大都市近郊で運用場所の確保が難しい市と、離島だけで構成される市との交信が難関になるようです。

離島にある市(本土と橋でつながっている市は除く)は、0エリアにある新潟県佐渡市を除くと、6エリアに集中していることが特徴です。そのため、西日本の局にとっては、距離的に近すぎてHF帯では電離層反射の機会が少ない、6エリアの離島の市との交信が難しいと聞きます。一方、東日本でWACAを狙っている局から見ると、東京近郊の市が全市交信の最後に残りやすい傾向にあるようです。

そのような背景から、Eスポ(スポラディックE層)が発生してHF帯のハイバンドや50MHz帯の伝搬状態が良くなる6月を狙って、長崎県壱岐市での運用を計画しました。

長崎県壱岐市へは、福岡県からフェリーで移動

長崎県壱岐市にフェリーで移動するには、福岡県の博多港からの航路と、佐賀県の唐津港からの航路があります。つまり、長崎県の九州本土から壱岐市に移動するには、長崎県から直接移動するルートではなく、佐賀県か福岡県に陸路で移動してからフェリーを利用するルートになります。今回は、博多港まで自走で移動し、博多港を発着するフェリーを利用しました。

6月はEスポが活発になる季節でもあり、梅雨の季節でもあります。夜のフェリーで壱岐市に上陸すると猛烈な雨でした。運用場所は事前に決めており、大雨でも通行には影響ないと判断して、運用場所に到着してから一夜を明かしました。

V/UHF帯の遠距離通信を狙うには、見通し距離を稼ぐため、標高が高い場所で運用するのが定石です。しかし、HF帯で電離層反射を狙う場合には、電離層に電波が届けばよいので、標高が低い場所でも差し支えありません。そこで、海岸に近い、広い平地で運用することにしました(写真1)。東側は海に近く、海の向こうで約50km離れた、糸島430レピータも聞こえました。この方向には電波が良く飛ぶことが期待できます。


写真1 運用場所の様子。写真は天候が回復してから撮影した。

アンテナの設置方法の詳細を図1に示します。北からの強風と激しい雨のため、車内に雨が入らないように、運転席側を南に向けました。南北方向に延びる長い通路には車止めがあり、車が進入できないため、ダイポールアンテナの先端は、通路をまたいで立ち木に固定しました。上から見ると、ダイポールアンテナの給電点付近が少し閉じた形になっています。これは、通路を通る人がアンテナの下をくぐりやすいように配慮したためです。このようにして、1.9~50MHz帯のダイポールアンテナを敷地内に収めることができました。

50MHz帯は、理想としては5エレ程度のアンテナを使用すれば、微弱な信号も拾えます。しかし、雨風が強かったため今回は5エレの設置を見送り、コンディションが良くなった場合は風にも耐えられる2エレのHB9CVを設置する予定でした。しかし、後述の通り50MHz帯では電離層反射に出会うことが無く、ダイポールアンテナでの運用となりました。


図1 アンテナの設置方法

HF帯では、コンディションが良く長時間のパイルアップに

翌朝は雨風ともに強烈で、傘の骨が折れてしまいました。アンテナ設置の作業をしようとしても、地面に水が溜まっており、作業を進めにくい状況でした。雨の中、7~50MHz帯のダイポールアンテナと、サテライト通信用のアンテナを設置して運用を開始しました。幸い、雷が鳴ることは無かったので、強風対策としてロープや重石を増強して、運用を開始できました。

珍しい市であることもあって、7MHz帯では早朝からパイルアップになりました。伝搬のコンディションはあまり良くない感じで、4・5・6エリアからは、あまり呼ばれませんでした。午前7時台になると10MHz帯が良くなってきて、CWでハイペースのQSOが続きました。また、今回の運用では途中で運用場所を変えることがなく時間に余裕があると考え、RTTYも積極的に運用しました。午前中はコンディションが良く、14MHz帯から28MHz帯まで、QSYした先の各バンドでパイルアップが続きました。

しかし、HF帯の信号はそれほど強くはなく、高い周波数帯では近距離がスキップして聞こえなくなる状態が目立ちました。50MHz帯に何回かチャレンジしたものの、電離層反射によるQSOは全くできませんでした。HF帯で長時間のパイルアップに対応したことで、50MHz帯が良くなるタイミングを逃してしまったこともあるようです。50MHz帯で珍しいQTHで運用中に、Eスポが開けた時の高速QSO、特にSSBを楽しみにしていたのに、今回の移動でも50MHz帯が開けることはありませんでした。

昼休み後はHF帯のコンディションが悪くなり、各バンドで次々に呼ばれていた状態から一変しました。7MHz帯などを巡回しながら、コンディションの回復を待ちました。天候が回復するのと同時に、夕方に再びコンディションが上昇し、普段は静かなことが多い28MHz帯、しかもCWだけで1日で100局を超え、このバンドでこんなに出ている局がいるのかと驚きました。

夜には3.5MHz帯と1.9MHz帯を運用しました。夏至に近い時期の九州地方では日の入りが遅く、19時30分でもまだ明るいのです。そのため3.5MHz帯と1.9MHz帯はさらに遅い時間になってから聞こえるようになりました。バンド全体に強力なノイズがあり、IC-7300の各機能を駆使して、何とか逃げ切りを図りました。1日目は延べ1200QSOを越えました。

2日目の朝は天気が良く、気温がぐんぐん上昇しました。車内には充電式のファンを設置して暑さをしのぎました(写真2)。しかし、伝搬のコンディションが悪く、3.5MHz帯だけが続けて呼ばれる状況でした。午前中、弱いながらも一時期は28MHz帯まで7エリア付近が入感したものの、急激にコンディションが低下して、14MHz帯でもQSOが難しい状態になってしまい、予定通り運用を終えました。


写真2 車内の様子

現地での実質の運用時間は18時間ほどで、バンド別のQSO数は表1のようになりました。28MHz帯と50MHz帯の伝搬に大きな違いがありました。


表1 壱岐市での交信数

V/UHF帯の異常伝搬に備えて、IC-9700も使用

今回の移動運用では、ダクトによる異常伝搬の影響を受けやすい、海に近い場所での運用だったため、機会があればV/UHF帯の異常伝搬を狙っていました。HFの運用中にもIC-9700でV/UHF帯のスペクトラムスコープを使用してバンド全体の様子を確認し、インターネット上のサイトで異常伝搬の発生を観察していました。

結論から言うと、運用している間、異常伝搬は全く見当たりませんでした。しかし、異常伝搬ではない通常の交信をスムーズに進めるため、いくつかの運用テクニックを確立できました。

異常伝搬を効率良く発見するために、2バンドでスペクトラムスコープを使いたいと考えました。しかし、IC-9700でスペクトラムスコープを使用できるのは1バンドだけです。そこで、2台のIC-9700を投入しました(写真3)。アンテナは、1台はサテライト用、もう1台はモービルホイップです。


写真3 IC-9700を2台設置し、2バンドでスペクトラムスコープを使用している様子。

これまで、複数台の無線機を同時にワッチする場合、どの無線機から音が出たかが瞬時に分からない、ということがよくありました。スペクトラムスコープを使えば、どの無線機で信号を受信したかは一目瞭然ですし、受信音をリアルタイムで追っかけなくても、信号の記録が画面上に残ります。この方法で、144MHz帯に出ている移動局をすぐに見つけて交信できました。

同一バンドでFMとSSBのデュアルワッチ、あるいは、サテライトと地上波(レピータも含む)のデュアルワッチという使い方もできますし、2台のIC-9700で144/430/1200/2400MHz帯(トランスバータ使用)の4バンド同時ワッチなどもチャレンジしたいと考えています。

海からCQ

行き帰りのフェリーにID-51PLUS2を持ち込み、D-STARのレピータに近付いた時にはCQを出してみました(写真4)。結果は、聞いている局が少ない時間帯だったこともあり、交信には至りませんでした。

エンジン音などの周囲の騒音で、音声が判別できないかもしれないと思い、音声メモ機能で録音した自局の送信音を確認してみたところ、変調には特に問題がありませんでした。


写真4 海からCQの様子。アンテナは伸縮式ロッドアンテナを使用。

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次号は 12月 1日(木) に公開予定

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