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日本全国・移動運用記

第71回 鹿児島県大島郡喜界町移動

JO2ASQ 清水祐樹

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鹿児島県大島郡喜界町にある喜界島は、鹿児島市から約380km離れた離島です。喜界島には、アマチュア無線では特別な意味を持つ場所があり、そこでの運用を目的として移動運用を計画しました。

飛行機の待ち時間に、IC-705で手軽にHF帯の移動運用

喜界島へは飛行機で移動しました。鹿児島から喜界島への飛行機は1日に2便のみで、1便には名古屋(中部)から鹿児島への始発に乗っても間に合わないので、午後の2便を利用しました。そこで、鹿児島へは早めに移動して、飛行機の待ち時間に鹿児島空港の近くで移動運用を行いました。

飛行機で移動する場合、機材の大部分は宅配便で現地に発送しています。しかし、鹿児島空港の近くでの運用では宅配便を使用しないで、飛行機で輸送できる機材だけを持参しました。無線機はIC-705を2台(サテライト通信を運用するため)、電源は機内持ち込み可能なPD対応モバイルバッテリーとUSB PDトリガーケーブル(15V)、アンテナは7~50MHzに対応した長さ2.5mの釣竿アンテナ(2013年4月号の記事参照)、144/430MHzに対応した長さ1mのモービルアンテナを釣竿ケースに収納して運搬しました。

暑さ対策として、運用は徒歩移動ではなくレンタカーを使用しました。近くの公園に移動し、簡易モービルシャックを組みました(写真1)。釣竿アンテナはマグネット基台で車の屋根に立てて、アースは200mmx300mm、厚さ1mmのアルミ板を車の屋根に置いて接続しました。カウンターポイズは使用していません。

伝搬のコンディションは比較的良好で、CWで各バンドで順調に呼ばれ続け、3時間ほどの運用で7~28MHz帯(50MHz帯は入感無し)とサテライト(RS-44)で合計202QSOできました。気温が30℃近くまで上昇しており、IC-705で10W出力を連続すると高温でサーマルプロテクターが作動し、出力が低減しました(詳しくは2020年8月号 IC-705クーリング実験を参照)。私はクーリングファンを使用しないで、サテライト通信のために用意した2台目のIC-705に交換することで、出力低減を回避しました。


写真1 鹿児島空港の近くの公園(霧島市)での運用の様子。IC-705のサーマルプロテクターが作動した場合には、2台目のIC-705と交換した。


写真2 使用したアンテナ

喜界島の一部だけに存在する、珍スクエアPL58

アマチュア無線では、交信した局がある条件を満たした場合に、申請することでアワード(賞状)をもらう、アワードハンティングの楽しみ方があります。

緯度と経度で区切られた地域(スクエア)との交信数を集計するアワードがあります。全世界には緯度1度、経度2度ごとに区切った32,400のスクエアがあり、アルファベット2文字+数字2文字の4文字でスクエアを表します。運用地点を表すには、緯度・経度から計算されるアルファベット2文字+数字2文字+アルファベット2文字の合計6文字でグリッドロケーター(サブスクエア)を表記することが一般的です。グリッドロケーターについては、JARLのサイトで詳しく説明されています。グリッドロケーターで検索すると、地図からグリッドロケーターを求めるウェブサイトがいくつか見つかります。私はHA8TKS局のウェブサイトをよく使用しています。地図を眺めていると、緯線や経線が陸地ギリギリを通過して、陸地がわずかしか無いスクエアの存在に気付きます。日本で最も有名な珍スクエアは福井県にあるPM76で、陸地は約3kmx2kmのほぼ直角三角形の領域だけです。他にも、珍スクエアにはQM19、PN91、QN11、QN22などが挙げられます。離島にも珍しいスクエアがあります。PL58は、喜界島の東側の一部だけに陸地が存在します。アワードを集めている方からPL58は未交信との声が多く聞かれ、Eスポが発生して伝搬のコンディションが良い6月の下旬に、多くの周波数帯でPL58での交信をサービスしようと考えました。

喜界島に到着、2日目の朝からPL58に移動

喜界島に到着し、発送しておいた荷物を受け取ってレンタカーに設置しました。1日目の夜は、暗くて運用場所の様子が分からないため大型のアンテナは設置できないので、市街地のスクエアPL48の場所で、サテライト通信だけを運用しました。この島には、早朝に営業しているコンビニエンスストア等は無いため、2日目の朝食もあらかじめ調達しておきました。

雨が本降りになった2日目の朝に、市街地から10kmほど離れたPL58の海水浴場に移動しました。この海水浴場の駐車場には東経130度を示す線があり、記念碑が建てられています(写真3)。これより西側がPL48、東側がPL58です。東側でID-52の電源を入れると、期待通りにPL58と表示されました(写真4)。


写真3 喜界町の運用場所の様子。黄色の2本線は東経130度線で、これより東側がPL58。


写真4 ID-52のグリッドロケーター表示

午前5~6時台に使える衛星が集中しているので、まずサテライト通信を運用した後、HF帯の逆V型ダイポールアンテナを立てて、CWで7MHz帯から順番に上がっていきました。喜界町もPL58も各バンドで需要があるためパイルアップが続き、7→10→14→18→21→24→28→50MHz帯と順番に上がっていくと、午前11時頃になってようやく50MHz帯に到達しました。熱中症対策のため水分と塩分を定期的に摂取し、バンド切り替えのタイミングでトイレに行くようにしています。

今回は、50MHz帯のアンテナとして、自作の軽量HB9CV(2013年8月号参照)を持参しました。28MHz帯で多くの局が強力に入感しており、50MHz帯にも期待できる状況でした。そこで50MHz帯のアンテナを急いで組立てて、北北東に向けて設置しました(写真5)。50MHz帯で広い範囲が入感している場合、利得が高く指向性が狭いアンテナよりも、利得が低く指向性が広いアンテナの方が、アンテナの向きを正確に合わせる必要が無いため便利です。


写真5 50MHz帯と144MHz帯のアンテナ

7~28MHz帯と50MHz帯では、呼んでくる局の雰囲気、いわゆる客層が違います。50MHz帯は、このバンドだけを専門に運用している局や、予想もしていなかった海外局から突然呼ばれることがあり、注意していないと相手局のコールサインを聞き逃してしまいます。また、伝搬のコンディションが急変して数10秒後に聞こえなくなることもあり、交信は最小限の事項で簡潔に、ミスを減らして時間のロスを少なくするよう運用する必要があります。そのため、50MHz帯のパイルアップは他の周波数帯よりも高度な集中力が要求され、そこが面白いところです。昼休みには町の中心部で昼食を確保し、運用場所に戻ってくると、午前中の賑わいから一変してバンド全体が静かになり、CQ空振りが続きました。

夜には1.9/3.5MHzを運用するため、逆L型アンテナを設置しました。この場所は夜間も人通りがあり、アンテナの端を固定できる物体が少ないので、設置スペースが少なくて済む逆L型アンテナを使用しました。ところが、夜になって雷が発生し、遠く離れた海上に落雷するようになりました。激しい空電ノイズが受信され、雨雲レーダーを見ると、強い雨雲は運用場所からは数km離れているようで、雷の直撃は免れました。しかし、万が一のことも考え、雨雲が最接近する前に運用を終了しました。このため、日没からしばらく時間が経ってから国内遠距離の伝搬が安定する1.9MHz帯は、7QSOしかできませんでした。

3日目は雨が上がり、同じ場所で運用しました。早朝は伝搬のコンディションが悪く、7MHz帯でCQ空振り連発になり、パッとしない感じでした。しかし急激にコンディションが上昇して、特に28MHz帯は前日よりも激しいパイルアップが続き、50MHz帯の開始は前日と同じ午前11時頃になりました。ここからの50MHzは圧巻で、全国各地および近隣諸国が一斉に入感し、1時間に100局を超える猛烈なパイルアップになりました。

50MHz帯の運用が一段落して、イオノグラムを見るとまだ強力なEスポが発生していました。そこで、Eスポで144MHz帯での交信にチャレンジしました。サテライト用の4エレのアンテナを北北東に向けてCQを出すと、青森市と新潟市の局から呼ばれました。特に新潟市の局は、144MHz帯のEスポでは距離が近すぎてQSOが非常に困難と思われるため、とても印象に残るQSOとなりました。

結果

QSO数の日ごと、1時間ごとの集計を表1に示します。喜界町では1,706QSOでした。南西諸島では、昼間は7MHz帯の国内向けの伝搬があまり良くない傾向にあるので、今回の運用では早朝と夕方だけに限定しました。


表1 QSO数の日ごと、1時間ごとの集計。モードは1.9~144MHzがCW、サテライトがCWとSSB

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次号は 12月 1日(木) に公開予定

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