日本全国・移動運用記
2025年5月1日掲載
利島村は東京都の離島にある村で、面積は4.12平方キロメートルと、東京都の市区町村で最も小さな自治体です。人口は約300人と少なく、運用する局の数も限られています。利島村が全市町村との交信のラスト1になっている方がいらっしゃると聞き、移動運用を計画しました。
離島のため、悪天候時には交通機関が欠航する可能性があります(図1)。観光シーズンには訪問者が多くなり、予約が満席・満室となることも予想されます。これらを考慮して、暑くも寒くもなく、台風の心配がない4月初めに運用を設定しました。
利島村へのアクセス手段としては、船とヘリコプターがあります。船には大型客船、ジェット船、フェリーがありますが、4月初めは大型客船の運航が無く、フェリーは運航日が限られているため、東京から1日1往復運航されるジェット船を利用することにしました。また、ヘリコプターは利島と大島とを結んでいますが、大島で船に乗り換えるには時間を要します。
図1 利島村の位置
機材は郵便局に郵送し、現地でレンタカーを借りて設置しました。行きの4月5日は好天の予報で、東京・竹芝のフェリー乗り場は釣り道具や自転車を持った大勢の人で賑わっていました。
利島に到着すると、島の中央にそびえる円錐型の大きな山が目を引きました(写真1)。レンタカーを借りて荷物を積み込み、山を目指して車で登っていきました。利島の集落は斜面に位置しており、勾配15%の急な坂も見られました(写真2)。
ところが、集落を通り過ぎると、残念ながらスマホが圏外になってしまいました。HF帯の運用だけであれば標高が高い場所を選ぶ必要はありませんが、今回は144~1200MHz帯の設備も持参したので、スマホが使用可能で見通しが良い、集落に近い標高129mの場所で妥協して運用することにしました。
写真1 ジェット船で利島村に到着した時の様子
写真2 勾配15%の坂道
運用場所からは大島が良く見えました(写真3)。まず、サテライトのAO-73から運用を開始しました。利島村はサテライトの移動局が少なく、未交信という局が非常に多かったため、最初はかなり激しいパイルアップになりましたが、時間の経過とともに徐々に落ち着いてきました。
続いてHF帯の運用を7MHz CWから開始すると、こちらもパイルアップが続きました。しかし、伝搬のコンディションは良いとは言えず、14MHz帯では近距離がスキップしていました。静岡、神奈川、東京方面とは直接波で交信できる局も確認できて、50MHz帯では8QSOできました。
HF帯のアンテナは、いつものように2025年3月号などで紹介している方法を採用しました。底面にアルミ板を貼り付けたオートアンテナチューナー(AH-4)を車の屋根に置き、ビニル線を取り付けた釣竿をタイヤベースで立てたものを使用しました。
ダイポールアンテナを使用しなかった理由として、食事の場所・時間が限られており食事の時間には一旦撤収して宿に戻らなければならない、港などの広い場所ではワイヤーアンテナの端を固定することが難しい(固定するための重石等を用意できない)といった事情もあります。
今回、釣竿は手持ちで運搬しました。ジェット船に長尺の荷物を持ち込むと追加料金が必要であり、本土に近いため必ずしも高性能のアンテナは必要無いと考え、釣竿ケースに収納できる長さ8mの釣竿を使用しました。
離島では車が塩害を受けやすく、古い車はボロボロに錆びていることがあります。今回利用したレンタカーは、整備は行き届いていたものの、塩害対策として厚めの再塗装が施されていました。そのため、アンテナチューナーの下面に取り付けたアルミ板の容量結合アースでは効きが弱いと感じることがありました。オートアンテナチューナーでチューニングは取れたため、運用に支障はありませんでした。
写真3 運用場所の様子
夜には再び標高の高い運用場所に移動して、144~1200MHz帯も運用しました。今回使用したレンタカーは軽自動車で、供給できる電流に制限があったため、一日の最後の運用では無線機用バッテリー(リン酸鉄リチウムイオン12V50Ahを1個と36Ahを1個)の残容量が少なくなりました。そのため、144MHz帯と430MHz帯はIC-705を使用し、PD 15V3A対応モバイルバッテリーと15Vトリガーケーブルを組み合わせて10W出力で運用しました(写真4)。この電源は2021年1月号 JH0CJH・JA1CTV 川内氏の記事を参考にしました。
アンテナは、サテライト通信に使用している144MHz 4エレ(水平偏波)/430MHz 7エレ(垂直偏波)で、伊豆半島に向けると信号は強くなる傾向がありました。1200MHz帯ではQSOできず、これは神奈川県の東部や東京都の都心方面が大島の陰に位置しており、電波がブロックされたことが原因と思われます。
写真4 IC-705で144MHz帯と430MHz帯を運用している様子
2日目の4月6日は悪天候の予報でした。ジェット船は欠航の可能性があると考え、利島から大島にヘリコプターで移動する予約を取り、運用を早めに切り上げることにしました。大島まで移動すれば、本土に移動する手段は複数あり、当日中に帰れると見込んでいました。
HF帯の伝搬はあまり良くないため、7MHz帯と10MHz帯の運用に集中し、24MHz UPは断念しました。午前9時頃から雨が強まり、予定していた午前10時の撤収時には、さらに激しい雨になっていました(写真5)。
写真5 雨が降る中で運用の様子
ヘリコプターは荷物の持ち込みに制約があるため、釣竿アンテナや衣類も含む全ての荷物を郵便局で発送し、最低限の荷物だけを持参してレンタカーを返却しました。ところが、悪天候でヘリコプターが欠航になり、ジェット船は、この天候で運航できるか不透明で、帰れなくなる最悪の事態も想定しながら対応策を執りました。結果として、ジェット船は東京まで運航され、無事に当日中に帰ることができました。
QSO数を表1に示します。18MHz帯から上のバンドは電離層反射がほとんど無く、直接波による交信でした。
表1 周波数帯、運用日ごとのQSO数。1.9~430MHz帯はCW、サテライトはCWとSSB。
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