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日本全国・移動運用記

第67回 熊本県球磨郡移動

JO2ASQ 清水祐樹

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熊本県球磨(くま)郡は、熊本県南部の山間部にある、9町村から構成される郡です。山間部で交通アクセスが限られている地域もあることから、球磨郡での移動運用リクエストが多く寄せられていました。そこで、気候が安定しており、電波の伝搬としても7MHz帯や10MHz帯で国内との交信が期待できる3月に移動運用を計画しました。

短時間での移動に備えて、設備を改良

球磨郡の全ての町村から1日で移動運用することは難しいので、リクエストが多かった町村に限定し、球磨村と山江村を除いた7町村に人吉市を加えた8か所を、1日で回ることにしました。短時間の運用であり、アンテナの設営・撤収の時間をできるだけ少なくするため、釣竿に付けた電線(ビニル線)とオートアンテナチューナー(アイコムAH-4)を組み合わせた従来のシステムを少し改良しました(図1)。

2020年3月号で紹介したものを、釣竿は7mから8mへと長く、ビニル線をAWG20からAWG18へと1ランク太くしました。AH-4の底面にはアルミ板を貼り付けてアースに接続し、クルマの屋根に置くだけで容量結合アースが確保できます。釣竿にはビニル線を取り付けてあるので、釣竿を伸ばしてタイヤベースに差し込み、クルマの屋根に置いたAH-4にビニル線を接続するだけで設営が完了します。このシステムは2分以内で設営できます。全長が長くなりローバンドの感度も向上しました。


図1: 使用したアンテナのシステム。1.9MHz帯の運用時には約120μHの補助コイルを直列に接続する(2020年3月号を参照)

人吉市から運用を開始し、最上流の水上村へ移動

愛知から熊本へ、自走で移動する途中には激しい雨に見舞われたものの、熊本県に入った頃には好天に恵まれました。前日は熊本県内の各地で運用し(写真1、2)、人吉市内の宿に泊まりました。


写真1: 玉名郡玉東町での運用の様子


写真2: 八代市での運用の様子

早朝にサテライトと1.9/3.5MHz帯を運用するため、午前5時過ぎから始動します。西日本は日の出が遅く、この時間は真っ暗で、周囲の山の地形を目視で確認することはできません。周囲に山や高い建物が無いことをインターネット上の地図で事前に調べて、運用場所を決定しました。

熊本県はサテライト通信の移動局が非常に少ないため、午前5時台の運用でも激しいパイルアップになりました。夜明けとともに周囲の地形が見えるようになると、運用場所の選定が妥当であったことが確認できました(写真3)。朝に霧が出やすく、「あさぎり町」の地名が付けられたことも納得できました。


写真3: 人吉市の運用場所の様子

午前7時台は、利用できる衛星が少ないことと、HF帯の伝搬は3.5MHz帯が次第に弱く、7MHz帯が次第に強くなる過渡期になることから、多くの局との交信は期待しにくいので、この時間帯に球磨川の最も上流にある水上村に移動し、そこから下流に下りるルートとしました。

水上村は山に近く、サテライト通信の運用に適した場所が見つかるかは不明でした。村内の地形をよく観察し、現地で確認すると手頃な空き地を発見しました(写真4)。また、この近くには貴重なコンビニエンスストアがありました。時間に余裕がなく食事の時間も惜しいので、昼食と夕食をここで確保して、食事を摂りながら運用しました。

水上村では7MHz帯の伝搬が特に好調で、CWで100局以上と交信できました。10MHz帯は近距離がスキップ気味で、運用を開始した直後にはパイルアップになったものの、長続きしない状態が続きました。


写真4: 水上村での運用の様子

湯前町以降は、主に公園で運用

湯前町は公園の駐車場で運用しました(写真5)。この町はリクエストが多く、7MHz帯と10MHz帯でパイルアップになりました。サテライト通信では、この町での運用自体が超レアだったことと、南側がそこそこ開けていて海外から何局か呼ばれたことから、RS-44では1パスで63QSOの最多記録を更新しました。

HF帯の伝搬は、あまり良いとは言えず、入感するエリアが激しく変化していました。10MHz帯は1エリアや7エリアが強力に聞こえる時間が長く、それより近い2エリアや3エリアが聞こえたのはわずかな時間でした。パイルアップになったのは、局数の多い1エリアが入感したことによる「地の利」です。この様子を図2に示します。伝搬のコンディションが悪い時には、国内の広い範囲がスキップゾーン(直接波・地表波も、電離層波も届かない範囲)になります。例えば10MHz帯で熊本県から1エリアに伝搬があったとしても、同様の伝搬状況で、愛知県では国内局がほとんど聞こえない状況になることが予想されます。


写真5: 湯前町での運用の様子


図2: 熊本県でのHF帯の国内向け運用において、伝搬の様子を示した概念図

1か所当たりの滞在時間が最大90分程度しか無いため、休憩は最小限にしてすぐに次の目的地に向かいます。多良木町から錦町にかけては、山から次第に離れるため広い平地が多く、運用場所はすぐに見つかりました(写真6、7)。時間の都合で、昼間の運用は7MHz帯、10MHz帯、サテライトだけに限定しました。周囲が開けた場所では風が強く、写真では釣竿アンテナが傾いていますが、運用には影響ありませんでした。


写真6: あさぎり町の運用場所の様子


写真7: 錦町の運用場所の様子

山間部の秘境、五木村へ

夕方、相良村に入ると、周囲が山に囲まれた場所が多くなりました。17時を過ぎると7MHz帯の近距離はスキップして聞こえなくなり、1.9MHz帯と3.5MHz帯が運用の主力となります。ローバンドでも、球磨郡では移動運用する局が少なく、多くのリクエストがありました。

最終目的地は五木村です。この村は集落が深い谷底にあり、周囲が開けた場所が見当たらないため、サテライト通信の運用の難しさは国内屈指と思います。衛星が見える短時間に手際よく交信をこなし、CWとSSBの両モードで何とか予定通りの運用ができました。

山に囲まれた地形でありながら、1.9MHz帯では8エリアと交信できました。山に囲まれているといっても、160mの波長と比較すると山の高さは相対的に低く、影響は小さいのかもしれません。夜間、明かりがほとんど無い場所での運用だったので、写真はありません。

ID-52の使用を開始

今回の移動運用では、アイコムの新型ハンディ機ID-52を使用しました。シガーソケットに差し込むスマホホルダーを使って車内に設置しています(写真8)。画面が見やすく、DVモードの2波同時受信ができるほか、音量が大きい、GPSの受信に要する時間が短いといった特長もあります。ID-52は電源投入後に短時間でグリッドロケータの表示が出るため、ログにグリッドロケータを記入するまでの時間が短縮できます。

熊本市とその周辺では、D-STAR熊本430と熊本東430の両方にアクセスできる地域があり、2波同時受信は、レピータの空き状況の確認に有効でした。


写真8: ID-52を車内に取り付けた様子

結果

移動途中も含めたQSO数を表1に示します。HF帯は1.9~10MHz帯の4バンドだけ運用したにもかかわらず、人吉市・球磨郡で運用した14日にはサテライト通信と合わせて1日1,000QSOを大きく上回りました。Eスポシーズンになれば、各バンドでさらに多くの交信ができそうです。


表1: 運用地点ごとのQSO数。下松市・美祢市は山口県、門司区は福岡県、それ以外は熊本県。1.9~10MHzはCW、430MHzはD-STAR(レピータ経由)、サテライトはCWとSSB。

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次号は 12月 1日(木) に公開予定

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