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日本全国・移動運用記

第58回 徒歩によるHF帯の移動運用

JO2ASQ 清水祐樹

アイコムからIC-705とLC-192が発売されたことにより「徒歩によるHF帯の移動運用」がブームになりそうです。関連する記事では、7MHz帯などシングルバンドでの運用が多く、複数の周波数帯での運用は、あまり見かけないように思います。

筆者の移動運用の特徴として、HF帯の全ての周波数帯に対応していることが挙げられます。この連載では、自動車による移動運用を主に紹介していますが、第50回の記事のように、公共交通機関を利用したHF帯の移動運用の実績もあります。そこで、徒歩によるHF帯の移動運用で、複数の周波数帯に対応する事例を解説します。

HF帯の徒歩移動運用に適したアンテナ

徒歩での移動運用では、設置が容易で、小型軽量のアンテナが望ましいです。設置が容易なHF帯のアンテナには、図1のように、ダイポールアンテナ、逆L型アンテナ、ホイップアンテナがあります。このうち徒歩移動に適しているものはどれかを検討してみます。


図1 設置が容易なHF帯のアンテナの例

ダイポールアンテナは、性能が良く、調整も容易です。しかし、同軸ケーブルの荷重に耐える丈夫な支柱が必要で、必要な同軸ケーブルも長くなるため、機材が重くなります。また、広い設置スペースと、両端を地面から浮かせて固定する手段も要求されます。

逆L型アンテナにすると、性能は落ちるものの、設置スペースが少なくなる利点があります。この場合、横からの引っ張りに耐える支柱が必要です。支柱が運搬できて、アンテナチューナーが用意できるのであれば、比較的使いやすい方法です。

ホイップアンテナは、アンテナのエレメント全体を直立させたもので、素材としては釣竿やロッドアンテナなど、自身を支えるだけの強度があれば足りるので、軽量化に適しています。そのため、徒歩移動運用に適したアンテナとしては、ホイップアンテナの使用を考えました。

事例1: ロングワイヤーアンテナとアンテナカプラーで、マルチバンド運用

原稿執筆時点で、筆者の手元にはIC-705が届いていませんでした。そこで、仮想IC-705として、HF帯の出力10Wで移動運用を行いました。

ホイップアンテナのエレメント(ワイヤー)として、第54回で紹介したビニル線付きの長さ7mの釣竿を使用しました。普段はオートマチックアンテナチューナーAH-4との組み合わせで使用しています。

徒歩移動でAH-4を持ち歩くのは、ちょっと大掛かりです。そこで、手動操作のアンテナカプラー(アンテナチューナーよりも整合範囲が広い)であるコメットCAT-10を使用しました。これは、ロングワイヤーアンテナでの使用を想定したもので、M-Jコネクタと陸軍端子の2系統のアンテナ端子を有することが特徴です(写真1)。


写真1 使用したアンテナカプラー、コメットCAT-10

無線機は1.9~430MHz帯のコンパクト機である、アイコムIC-7000M(最大出力50W)を出力20%(10W)に設定、電源はバイク用の12V密閉型バッテリーを使用しました(図2)。釣竿は仕舞寸法が約1.1mあり、手持ちで運びました。公共交通機関等を利用する場合には、釣竿ケースやポスター収納用の筒型ケースに入れて運ぶことが考えられます。


図2 使用した設備の構成

それでは、移動運用に出掛けます。といっても、自動車で公園の駐車場に移動し、そこから機材一式を持って、運用場所に徒歩で移動するスタイルです。電波がよく飛びそうな場所として、池の周囲で運用するというアイデアが思い浮かびました。



写真2: 池の水面上に向けて、斜めに釣竿アンテナを設置した様子
【ご注意】池・川・海の近くでは、釣り禁止・禁漁区・密漁パトロール中などの規制がある場所も多く、釣竿の設置は、誤解を受ける可能性があります。また、工作物の設置を全面的に禁止している公園もあります。トラブルを避けるため、実際の運用時には運用場所の規則を十分に確認し、“アマチュア無線運用中”といった掲示をしたり、運用場所の管理者から確認・許可を得たりすることをお勧めします。

さて、池に到着すると、いわゆる東屋を見つけました。柵に釣竿を立てかけて、アンテナを池の水面上に向けて、斜めに設置しました(写真2)。釣竿は、マジックテープ付きバンド(100円ショップで入手)で柵に固定しました。

アースは鉄柵を利用しました。両端に大型のワニグチクリップを付けた長さ2mの電線を使用し、一端をアンテナカプラーのアース端子、他端を鉄製の柵に挟んで接続しました(写真3)。カウンターポイズ・ラジアル(長さ1/4波長の電線)を地面に這わせなくても、地面に近接している大きな金属製の物体(柵、金網、側溝の鉄製のフタ、空中に架設されている金属製のチェーンなど)に接続することで、アースとして機能します(図3)。

表面が塗装されていて導通しない場合や、支柱が太すぎてワニグチクリップが挟めない場合は、柵などに付いているネジの頭や取付金具にワニグチクリップを挟むと、導通が確保できます。また、無線機側にアース端子が無い場合は、M型コネクタの外側を直接ワニグチクリップで挟みます。


写真3: アースの取り方。大型ワニグチクリップ付きケーブルの一端をアンテナのアース端子へ、他端を、地面に近接している金属製の物体に接続する。


図3 アースとして利用可能な物体の例

今回の運用は、3.5~50MHzの全ての周波数帯でのアンテナの性能を知るため、モードはCWとしました。送信する前に、アンテナカプラーのチューニングが必要です。適当な信号を受信して、受信音が最大になるようにアンテナカプラーのつまみを回します。受信音が強くなったら、送信しても他局に妨害を与えない周波数に設定し、出力を低減(無線機内蔵のSWR計が動作する最小限に)して送信すると、SWRが計測できます。そしてSWRが1に近付くように、つまみを再調整します。

運用は10MHz帯から開始しました。このバンドは、昼間に伝搬のコンディションが良い時には国内の近距離が強力に聞こえて、コンディションが悪い時には近距離が全く聞こえない性質があります。伝搬のコンディションはあまり良くないにもかかわらず、国内の各エリアから順調に呼ばれました。

続いて、14MHz帯、18MHz帯と順に高い周波数に上がると、伝搬のコンディションはあまり良くないようで、呼ばれるのは6エリア(九州)と8エリア(北海道)ばかりでした。それでも、8エリア某局とは10~28MHz帯の全てのバンドでQSOできました。また、50MHz帯では沖縄とQSOできました。特に珍しいことではないのですが、やはり出力10Wで沖縄とのQSOはうれしいものです。

7MHz帯でCQを出してみると、さすがに50W出力には及ばないものの、ちょっとしたパイルアップになり順調に呼ばれました。コールが途切れてから3.5MHz帯での運用を考えていたところ、残念ながらバッテリーの残容量が無くなり、運用を終了しました。

最大出力50Wの無線機を10W設定で使うと、回路の動作原理の都合で、消費電流が多くなります。IC-705は消費電流が少なく、長時間の運用が可能になるでしょう。約80分間の運用で、延べ63局とQSOできました(表1)。

帰宅後、Reverse Beacon Network (http://www.reversebeacon.net/index.php) を見てみると、出力10Wの電波は、14MHz帯でオーストラリアまで届いていました(図4)。


表1 バンド別のQSO数


図4 Reverse Beacon Networkに上がったレポート。画面は必要な部分のみ合成して作成した。14MHz帯で、オーストラリア(VK)ではSNR=8dBで受信されていることが分かる。

事例2: 専用リュックサックLC-192の代わりに、あの装備で…

IC-705のオプションとして、専用リュックサックLC-192があります(参考: http://fbnews.jp/202006/fbgirls/index.html)。しかし、原稿執筆時点で、筆者の手元には届いていなかったため、「持ち運びできる無線機」として、JS2AVK濱島さんの IC-7300ポータブル仕様(http://fbnews.jp/201811/fblabo/index.html)を参考とした装備で運用しました(写真4)。

ポータブル仕様の原作は、IC-7300の周囲をアルミ板で囲んでいるのに対して、筆者は頑丈な鉄製のフレームにIC-7300を固定しました。フレームに取り付けたM-Jコネクタに、アンテナを直接装着して使用します。

アンテナとして、自作した長さ5mの釣竿アンテナを使用しました。これはコイルとインピーダンス変換トランスを切り替えることで、1.8~14MHz帯に対応したものです(図5)。なお、このアンテナは製作が極めて難しく、製作方法は未公開です。ご了承ください。


筆者が製作したIC-7300ポータブル仕様による運用の様子。アンテナは長さ5mの自作釣竿アンテナを使用した。なお、赤い金属ケースは蚊取り線香の携行容器。


図5 使用した自作釣竿アンテナの構造図

IC-7300ポータブル仕様、釣竿アンテナ、バッテリー、ログ帳、蚊取り線香などを持って、電波がよく飛びそうな池の近くに移動しました。アースは鉄製の柵に接続しました。釣竿アンテナのコイルのタップを切り替えて、目的の周波数でSWRが下がるように調整を始めました。

ところが、ここで新たな問題が発生しました。このアンテナは自動車のボディアースを使用した場合にSWRが下がるように製作・調整されているため、アース線をアースにした場合にはSWRが下がらず、IC-7300の内蔵アンテナチューナーでもチューニングできませんでした。周波数とSWRの関係を図6に示します。なお、6月15日号の「FB Girlsが行く!!」の記事で紹介されているHFJ-350M、RHM8Bのように、アンテナの長さを可変できるアンテナの場合は、可変範囲が広いので、自動車のボディアース、アース線のどちらにも対応が可能と思われます。

ここで、アンテナカプラーCAT-10を使用すると、1.9~14MHzの各バンドで簡単にSWRが下がりました。さらに、5mのエレメント(14MHzの1/4波長)で、18、21、24、50MHz帯でもSWRが下がりました。28MHz帯は1/2波長になり、動作原理の関係でSWRが下がりませんでしたが、10MHz帯のコイルを挿入してアンテナカプラーを調整するとSWRが下がりました。


図6 釣竿アンテナの周波数とSWRの関係。アース線によるアースでは、SWR最小になる周波数が自動車のボディアース使用時よりも高くなる。

早速、7MHz CWでCQを出しました。この日は伝搬のコンディションが悪く、近距離の信号は聞こえませんでした。そこで3.5MHz帯にQSYすると、1エリアと4エリアが強力に聞こえてきました。1.9MHzは、夜間ではないためQSOには至りませんでした。10MHz帯では1エリアが不安定ながらも聞こえており、14MHz帯と18MHz帯では4,5,6,7,8エリアから次々に呼ばれました。

結果は、6エリアと8エリアは10~28MHz帯の各バンドでQSO。50MHz帯は電離層反射で6エリアが1局できただけで、あとは地元局でした。約100分間の運用で、延べ69局とQSOできました(表2)。


表2 バンド別のQSO数

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