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日本全国・移動運用記

第48回 IC-9700でサテライト通信の移動運用(前編)

JO2ASQ 清水祐樹

5. 周波数の設定方法

リニアトランスポンダ(CW/SSB)で運用する場合、希望するダウンリンク周波数で自局の信号が聞こえるように、アップリンク周波数を調整する必要があります。FM衛星での周波数の設定は、「6. FM衛星」での交信 をお読みください。

① ドップラー効果
サテライト通信の周波数設定を理解するために、まず「ドップラー効果」について説明します。動いている物体から一定の周波数の波(水面波、音波、電波など何でもよい)が発せられている場合、観測者との相対速度に応じて周波数が変化して見えます。これをドップラー効果といいます。

簡単な説明を図3に示します。音源が近付く場合には 波長が短い=周波数が高い、音源が遠ざかる場合には 波長が長い=周波数が低い となります。なお、この説明は極めて簡略化しており、実際には様々な条件を定量的に考える必要がありますので、図3の説明だけで大学入試等を突破するには無理があるでしょう。


図3 ドップラー効果の原理

衛星は、地球の中心を基準として見ると一定の速度で地球を周回しています。衛星の速度を、地表にいる観測者を基準とする相対速度として考えると、衛星のAOS直後には、相対速度は近付く方向に、衛星のMEL直前には相対速度がゼロに、衛星のLOS直前には、相対速度は遠ざかる方向になります(図4)。

つまり、衛星が一定の周波数の電波を発している場合には、AOS直後には地上の受信周波数が高く、MEL付近では衛星が発する周波数と地上の受信周波数が同じ、LOS直前には地上の受信周波数が低くなります。


図4 衛星の位置と相対速度(上空から見た図)。
MELでは衛星が動いているにもかかわらず、相対速度はゼロになる。

② トランスポンダの周波数関係
リニアトランスポンダを搭載した衛星では、衛星がアップリンクの周波数帯の信号を受信すると、ダウンリンク周波数に変換して送信します。通常の衛星では、アップリンクとダウンリンクの周波数の関係は、高低が逆に設定されています(図5)。実際には、③で説明するように、ドップラー効果による周波数の変化が加わります。

サテライトでSSBを運用する場合は、アップリンクの電波型式をLSB、ダウンリンクの電波型式をUSBに設定します。


図5 トランスポンダにおける周波数の関係。FO-99(NEXUS)の例

③ アップリンク周波数とダウンリンク周波数の関係
各衛星ごとに、アップリンク周波数とダウンリンク周波数の関係を図6に示します。

145MHz帯アップリンク/435MHz帯ダウンリンクの衛星では、一定の送信周波数に対してAOS時にダウンリンクの周波数が高く、LOS時にダウンリンクの周波数が低くなります。ところが、435MHz帯アップリンク/145MHz帯ダウンリンクの衛星ではその逆で、AOS時にダウンリンクの周波数が低く、LOS時にダウンリンクの周波数が高くなります。これは、435MHz帯は145MHz帯よりもドップラー効果による周波数の変化量が大きく、かつアップリンク周波数はトランスポンダで周波数の高低が逆転されるので、アップリンク周波数とダウンリンク周波数の変化量を加算すると、アップリンク周波数の逆転が優位になるためです。

サテライト通信は、SSBよりもCWがはるかに簡単です。それはドップラー効果で受信周波数が常に変動するためです。CWで符号を解読するには、受信周波数が数100Hzずれても可能ですが、SSBで音声を理解するには、受信周波数を数10Hzの精度で合わせる必要があります。受信周波数の変動に対応するため、筆者はCW・SSBのどちらの受信でも、USBモードでフィルタ帯域を3.6kHzに設定しています(詳細は2019年4月号の写真7)。

FO-99 (NEXUS) 送信-受信周波数

CAS-4A 送信-受信周波数

CAS-4B 送信-受信周波数

XW-2A 送信-受信周波数

XW-2B 送信-受信周波数

XW-2C 送信-受信周波数

XW-2F 送信-受信周波数

EO-88 (Nayif-1) 送信-受信周波数

図6 アップリンク(送信)とダウンリンク(受信)周波数の関係

④ 送信固定と受信固定
現在利用できる衛星では、受信固定での運用が主流になっています(IC-9700の取扱説明書も受信固定の方法を記載)。これは衛星のトランスポンダの帯域が狭い場合に、送信固定で運用すると他局と混信しやすいためです。(図7) 仮に送信固定で運用した場合、AOSからLOSまでに周波数は約12kHz変化します。現在利用できる衛星のトランスポンダの帯域は表1の通り、20~30kHz幅しかありません。

自局が完全な受信固定になるように送信周波数を制御した場合でも、遠く離れた局には周波数が変動して見えるので、受信固定でも混信を完全に回避することはできません。状況に応じて周波数を調整する必要があります。なお、図7は各衛星の状態を正確に示したものではありません。144MHz帯をアップリンク、430MHz帯をダウンリンクとする衛星では、送信固定の方が、衛星のトランスポンダにおける周波数変化量が小さいため、混信しにくくなります。


図7 送信固定と受信固定の違い(イメージ図)

⑤ ループテストの方法
IC-9700のサテライトモードには、アップリンク周波数とダウンリンク周波数を連動して調整するトラッキング機能があります。この機能の使い方に慣れれば、アップリンク周波数とダウンリンク周波数を別々に調整するよりも手間が少なくなります。トラッキング動作は、表1にある衛星は全てREVに設定します。

受信固定でCQを出すには、IC-9700の取扱説明書13-3にあるようにループテスト(送信しながら衛星から戻ってきた信号を受信して、交信状態を確認すること)を行ってから、空いている周波数にQSYします。ここでは、ループテストの方法の概要だけを記載します。

1. ビーコン周波数が受信できることを確認する(ビーコンではなく、ダウンリンク周波数の他局の信号を受信してもよい)
2. ループテストをするための、空いているダウンリンク(受信)周波数に設定する
3. 送信状態にする
4. SUB(TX)バンド選択状態にする
5. アップリンク(送信)周波数を調整しながら、できるだけ短時間で送信する(SSBでもCWでも同じ)
6. SUB(TX)バンド選択状態を解除する。

あとは、トラッキング機能で希望の受信周波数に合わせれば、受信周波数と送信周波数が連動して変化して、そのまま送信すると衛星経由で戻ってきた自局の信号が受信できます。実際は、ループテストから時間が経つとドップラー効果で周波数が変動しますので、144MHz帯でアップリンクする衛星は送信周波数を低く、430MHz帯でアップリンクする衛星は送信周波数を高くして補正します。

実際の移動運用では、ループテストの時間を節約するため、空いていると思われる周波数でAOSと同時にCQを出して、もし混信があればトラッキング機能で空いている周波数にQSYするように運用しています。

「空いている周波数でループテストをする」基本を守らずに、相手局と同じ周波数でCWの短点連打や連続送信をしてループテストをする局がいます(もちろんマナー違反)。トラッキング機能を活用して、空いている周波数でループテストをしてから、目的の周波数にQSYするようにお願いいたします。

サテライト通信の周波数を自動で設定する、リグコンと呼ばれるソフトウェアがあります。ここではリグコンの説明は省略します。筆者はリグコンを使わず、周波数制御は全て手動で操作しています。その理由は次の通りです。

1) サテライト通信は衛星の時刻が決まっているため、リグコン等にトラブルがあった場合に時間のロスが大きい
2) 衛星側の周波数誤差や、相手局の周波数設定の精度の関係で、自局の設置値と離れた周波数で呼ばれることが多い。手動で周波数を設定すれば、瞬時に対応できる。
3) 移動運用はシンプルな設備で、機器トラブルのリスクを下げたい。

6. FM衛星での交信

IC-9700を使ってFM衛星で交信するには、アップリンク(送信)とダウンリンク(受信)の周波数、アップリンクのトーン周波数を設定して、衛星の方向にアンテナを向ければ準備OKです。受信周波数の調整は、IC-9700のAFC機能をONにすれば、自動で設定されます(写真5)。

FM衛星では1チャンネルで短時間に多くの局との交信するために、独特のスタイルがあります。十分にワッチして、交信の要領を理解してから送信することをお勧めします。また、短時間に連続してCQを出さないことも重要です。

FMの場合、混信した場合に最も強い信号だけが聞こえて、弱い信号は消される性質があります。また、地上の違法局等による混信もあります。そのため、FM衛星に限っては、交信の確実性を上げるために送信出力を上げることも有効です。可能であれば、アンテナのエレメントの方向を変えて信号が強くなる方向に偏波面を合わせると、小電力でも強力にアップリンクできることがあります。


写真5 IC-9700のAFCボタン

7. サテライト通信の移動運用とアワード

サテライト通信を対象とする各種のアワードがあります。サテライト通信で全市交信(WACA)、全郡交信(WAGA)を達成した局もいます。アワードの一つであるAJAではサテライトは、独立した1バンドとして計上されます。

サテライト通信の運用局は、西日本に少ない傾向があり、5エリア、特に高知県での運用は非常に珍しいです。5エリアでサテライト通信の移動運用をすれば、大パイルアップは確実と思われます。

また都心部や山間部などロケーションの悪い場所では可視時間が短いため、北海道や沖縄などでは相手局との共通の可視時間が短くなるため、交信が難しくなります。その点を考慮して移動運用するのも楽しみ方の一つです。

サテライト通信のQSLカードをアワード申請に利用するには、アップリンク/ダウンリンクの周波数帯(例:145/435MHzと書く。144/430よりも145/435とすることが多い。)と、使用した衛星名(例:Via FO-99)の記載が必須です。

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次号は 12月 1日(木) に公開予定

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