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日本全国・移動運用記

第63回 沖縄県石垣市移動

JO2ASQ 清水祐樹

沖縄県石垣市は、日本の最南端・最西端に位置する市であり、東日本の局からはバンド・モードによっては交信が難しい市の一つに挙げられます。台風接近の可能性が低い11月中旬に、石垣市の石垣島で移動運用を計画しました。

18MHz帯と24MHz帯のリクエストが多い石垣市、その理由は…

国内コンテストのオールバンド部門で上位入賞するために、石垣島にシャックを構えて運用する局がいます。その理由は、HF帯の電離層反射の特性が関係していると考えられます。

地表から発射されたHF帯の電波は、上空の電離層で反射して、見通し距離外の遠方に到達します(電離層波)。また、近距離には電波が地表面を伝って到達します(地表波)。電離層波は、伝搬のコンディションによっては遠方に到達することがあり(参考: 2014年4月号の記事)、電離層波が届く距離よりも近いところには、地表波も電離層波も届かない不感地帯が現れます(図1)。

日本の南西端にあり、周囲が海に囲まれている石垣島で運用すれば、日本国内の陸地が不感地帯に入る可能性は低くなり、多くの局と交信できるというわけです。実際の電波伝搬は、さらに複雑な要素があり、コンテストの上位入賞局は、これだけでは説明できない各種のテクニックを駆使していると思われます。


図1 電波伝搬における不感地帯(第四級アマチュア無線技士用アマチュア無線教科書: 日本アマチュア無線振興協会 を参考に作成)

1.9MHz帯と3.5MHz帯の電波伝搬は、図1の状況とは違って、遠距離ほど交信が難しくなる傾向があります。そのため、筆者が移動運用の予定を公開してからは、石垣市の1.9MHz帯、3.5MHz帯、さらにはコンテストの対象外である18MHz帯、24MHz帯のリクエストが多く寄せられていました。10MHz帯もコンテストの対象外ですが、このバンドは季節にあまり関係なく国内局と安定して交信できるため、需要は満たされているようです。

また、サテライト通信も、遠距離ほど交信が難しくなる性質があり、石垣市でWACA(全市交信)が完成する局もいらっしゃいました。

1日目は、台風のような悪天候

設備は、この連載でたびたび紹介しているレンタカー移動セットで、無線機はIC-7300MとIC-9700です(写真1)。荷物は船便で発送し、1か所に滞在して運用するため、性能重視でHF帯はダイポールアンテナを使いました。

運用場所は、事前にインターネット上の航空写真で選定しておいた、市街地に近い公園です。1日目は、降り続く雨で駐車場の一部が冠水しており、地面の傾斜を確認して、雨水が流れてこない場所を確保しました。


写真1 レンタカー移動セットの様子

運用場所に到着すると、風速10m/s程度の強風が吹き荒れ、さらに断続的に雨が降り続いており、アンテナの設置には苦労しました。アンテナが風で揺れないよう、また、アンテナの付近を人が通過して引っ掛かることがないように、金網のフェンスに沿って長さ80mの1.9MHz用ダイポールアンテナを設置しました。導電性のあるフェンスがアンテナに近接しており、SWRが最低になる周波数が、通常よりも低くズレていました。これを補正するには、両端を折り返して電気長を短く調整する必要があります。

調整のため車(給電点)から40mほど離れたアンテナの先端を折り返して、車に戻ってSWRを測る…を繰り返していると、全身がずぶ濡れになってしまいます。この調整は途中で断念し、SWRが高い状態で、試しにIC-7300Mの内蔵チューナーをONにしたらSWRが下がったので、1日目の夜は、その状態で運用しました。

サテライト通信は、相手局との距離が離れているためにドップラーシフトによる周波数の変化が大きく、極端な場合は10~15秒程度のQSOに手間取っているうちに、周波数が1kHz近く動いてしまうことがありました。

電離層の状態を見ながら、運用バンドを素早く変更

HF帯の運用中には、NICT(国立研究開発法人 情報通信研究機構)が提供しているOblique propagation frequency summary のウェブサイトを見ていました。これは、電波が電離層で反射して伝搬する状態を示したもので、何MHzで何km到達するかが分かります。沖縄の観測データを見ながら、日本国内の多くの局が相当する1000~2000kmに伝搬する周波数を狙ってQSYしました。

沖縄の観測点(大宜味)と石垣島は、厳密には470kmほど離れています。しかし、沖縄の観測点は、石垣島から日本国内向けQSOの伝搬経路上にあり、上記ウェブサイトにあるLUF(最低使用可能周波数)およびMUF(最高使用可能周波数)と、実際にQSOできる周波数は概ね一致していました。

昼間は、例えば沖縄から1500~2000kmのMUFが18MHzを超えると、18MHz帯で0・1・7・8エリアの多くの局から呼ばれました。しかし、このタイミングですぐに21MHz帯にQSYしても、8エリアが時々聞こえる程度でした。いったん周波数の低いバンドにQSYして様子を見ながら、MUFが上がった時に素早く21MHz帯にQSYすると、8エリア以外の局からも呼ばれる…といった様子で、HFのハイバンドは少ないチャンスを効率的に利用しました。

運用場所の様子を写真2に示します。


写真2 運用場所の様子

使用したダイポールアンテナは、昼間は両端の3.5/1.9MHz帯のエレメントを切り離して、7~50MHz帯に対応できるようにしています(写真3)。また、エレメントは巻き取って収納できるようにしています。詳細は2013年9月号の記事をご覧ください。


写真3 ダイポールアンテナを収納した様子。

結果

運用日別のQSO数を表1に示します。

1.9MHz帯は伝搬のコンディションが悪く、遠距離交信の限界は栃木県・新潟県付近でした。3.5MHz帯は、こちらの受信状態が良好な時には安定して交信できました。前述したOblique propagation frequency summary で、沖縄から2,000kmのMUFが24MHzを超えることは無く、実際のQSO数においても、21MHz帯と比較して24MHz帯は明らかに少なくなりました。

4月に、石垣市に近い竹富町で運用した時のQSO数(2015年10月号)と比較すると、今回の運用では1.9MHz帯とハイバンドの交信に苦労した様子が分かります。


表1 運用日別のQSO数。サテライトはCWとSSB、3.5MHzのみRTTYを含む、他はCW。

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次号は 12月 1日(木) に公開予定

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