2013年11月号

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連載記事

楽しいエレクトロニクス工作

JA3FMP 櫻井紀佳

第6回 送信機

6.3 LPF (Low Pass Filter)

スイッチされた変調出力は、AF信号とクロック信号の引き算の以外に足し算の周波数も含まれているため、必要な引き算の周波数を取り出すようLPFを通します。このLPFは図のようなOPアンプを使ったアクティブフィルターとなっています。

また、特性は次のようになっています。この図はシミュレーションしたものですが、今までの経験でこのような低周波ではほぼシミュレーションに近い特性になります。このフィルターは直流まで通すフィルターでなければなりません。もし、低い周波数で切れていると、元に戻した時に1500Hz付近で信号の通らないところができてしまうので不具合です。OPアンプの電源は3.4Vのものを使って、信号のない時にはOPアンプの出力はできるだけ0Vに近くなければなりません。もし、直流電圧が残っていると1500Hzのところに信号があることになり、ピーという音がいつもでてきます。

このLPFはスイッチされたAF信号の積分器にもなっています。LPFの前は切れ切れの信号ですがLPFの後ではきれいな正弦波になります。

6.4 平衡変調器2

後の平衡変調器もアナログスイッチを使います。1.2kHzのフィルターを通った信号とそれを反転して180°位相の異なる信号を作り、VFOの周波数でスイッチしてやると変調できます。回路的には平衡変調器1と同じですが、スイッチする周波数が7MHz帯となっています。

基本的には変調器なので、キャリヤーにあたるVFOの周波数の上下両側に1.2kHzのLPF出力の信号がつくことになります。ブロックダイヤグラムで見ると上下対称になっていて異なるのは局部発振器とVFOの位相が90°ずれていることです。一般的に局部発振器の位相が90°ずれるとミキサーの出力の信号も90°ずれます。

最初のブロックダイヤグラムを見ながら考えてください。最初の平衡変調器1で1500Hzより高い音声信号と低い音声信号が折りたたまれていてブロックダイヤグラムで上下対称のため、4つの組合せができることになります。最初の平衡変調器1で90°位相がずれ、後の平衡変調器2で更に90°位相がずれますので、VFOより高い信号は1500Hzより高い信号が180°位相が異なってキャンセルされ、逆にVFOより低い信号は1500Hzより低い音声信号がキャンセルされます。キャンセルされない側は加算されて2倍の大きさになります。このため、VFOより高い側は音声信号の1500Hzより低い信号が残り、VFOより低い側は音声信号の1500Hzより高い信号が残ることになります。結果としてVFOの周波数を中心にしてLSBが作られたことになります。

6.5 電源

今回の回路で絶対最大定格7VのCMOS ICを使っていますので電源は7V以下にしなければなりません。本当はOPアンプの電源として±5V以上にしたいのですが、CMOS ICの絶対最大定格が7Vのため、この電圧で我慢することにしました。7Vの3端子レギュレータは見当たらないので5Vのものを使って考えてみます。2Vのゼナーダイオードもないことはないのですが、赤色LEDの順方向の電圧が2Vに近いのでこれを使ってみました。実測で1.8Vになりました。つまり5Vの3端子レギュレータのアース側を1.8V持ち上げた形になります。このような方法は下駄を履かせるということがあります。LEDはもちろん点灯するのでパイロットランプとしても使えます。

電源入力は9Vの他のオーディオ機器の電源が手元にあったのでこれを使いました。電圧が高いと3端子レギュレータの損失が増えて熱くなるので9Vくらいが適当です。実験用の電源などで他の機器等に共用しているものを使うと-側をアースしていることがあります。今回は中点アースで使うため-側が浮いていることが必要です。

先に説明したようにOPアンプの出力は信号のない時、できるだけ0Vに近くなければなりません。このため、電源は±対称となって電源の+側と-側の絶対値が同じであって欲しいところです。このような要求に合う回路としてレールスプリッターといわれるものが知られています。これは電源の中点がアースになる回路でアースから見ると±対称になっています。使っているOPアンプは何でもいいのですが、シングルのTA7S588が手元にあったのでこれを使いました。OPアンプの+入力は同じ値の抵抗で分圧されるため電源電圧の丁度半分の電圧がかかっていて、-入力は出力が帰還されて入力されるため+入力と同じになるよう働きます。このため、電源電圧の中点がアースされることになります。

VFO (Variable Frequency Oscillator)の信号と、最終的な変調の後のアンプの説明などは次回にしたいと思います。

■ メリゴ(Merry Go Round)方式
音声信号の位相を45°毎に送信周波数でスイッチして変調するSSB発生方式。
CRネットワークの右出力側の1つ飛びの2端子を使うと90°PSNとして使えます。

■ アナログスイッチ
CMOSのICはほとんどロジックICでON、OFFしか扱えませんが、アナログ信号をスイッチすることができるものがあります。4016、4066がよく知られていて、74HCシリーズでは74HC4016、74HC4066になります。コントロール端子にロジックレベルの信号を入れるとアナログ端子がONになります。

■ ロジック回路
今回は局部発振器等にロジック回路を使っています。ロジック回路はアナログ回路と違ってあるレベルを境にして0か1のデジタル回路です。ICの種類によってその境の閾値(Threshold Level)が異なりますが、今回使用したCMOSでは電源電圧の半分の電圧になります。ロジック回路では安全性とノイズが載って誤動作しないために、電源電圧の30%以下をL(0)、70%以上をH(1)としていてロジックレベルと言います。

今回使った74HC74はD-FFと呼ばれるフリップフロップで次の図のように接続してCLKよりクロック信号を入れると2回に1回反転するので1/2分周期になります。また、今回の回路のようにD-FFを2個使った回路にすると1/4分周期となり4回に1回反転するので90°位相器として使えます。

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