2016年2月号
連載記事
楽しいエレクトロニクス工作
JA3FMP 櫻井紀佳
第33回 GPS その1
GPS(Global Positioning System)は様々なものに使われており、アマチュア無線にも役立っているのはご承知の通りです。あらかじめ設置されているシステムをそのまま使用するには何もする必要はありませんが、GPSの電波の届かない室内では使用できません。
今回はGPSの電波の届かない室内で使用するための工夫とGPSマイクの使用法を、室内GPSへ電波を誘導する方法と、GPSマイクの使い方との2回に分けて実験します。
1. 室内GPS
GPSシステムは地球の上空を飛行しているGPS衛星の電波を受信し、その位置を計算して確定するものですが、電波を受信できなければ位置は分かりません。ビルや屋根が電波を通さない室内では受信できないためその対応を考えてみます。電波の受信できる屋外にアンテナを設置し、その信号をGPS受信機に導くとシステムを稼働できますのでその方法を検討してみます。
次の図は1ターンのアンテナを屋外におき、そのアンテナで誘起した信号を同軸で室内まで誘引し、2ターンのコイルでGPS受信機に導くものです。1ターンの大きさは1λの長さのホルマール線を円形にしたもので、その特性は次の図の右のようになっています。1ターンの長さは、GPSの周波数が1575.42MHzのため、電気的波長は3x108/1575x106で計算したもので190mm程度になります。
使用した同軸ケーブルは、以前SMAコネクター付きのジャンクで買ったもので、1.5Dタイプより細く2.7mで損失は約5dB位でした
このワンターンの特性を見るため、ワンターンを2つ作って対向させ、間を5mmあけて結合程度をスペクトラムアナライザーで計ってみました。直結より5dB程度下がりますがGPSの周波数で損失が少ないことが分かりました。
反対側のGSPユニットに結合する2ターンのコイルは1ターンと同じ長さのホルマール線を使っていますが、2ターンの意味は1ターンでは直径が大きすぎてGPSユニットに結合し難いためです。
この状態で実験の結果、十分に希望する機能を発揮させることができませんでした。このため、1ターンアンテナの後にアンプを入れてみることにしました。
手元にあったICの内、この周波数に使えそうなものとしてTA4001を選びました。このICは特性的にはあまり高い周波数まで伸びていませんが、GPSの1575MHz位までは使えるのではないかと思います。回路的には単純に約15dB程度増幅するだけです。このICの仕様の詳細は巻末のコラムをご覧ください。
GPSアンプの回路と実験基板
このアンプの実際の特性を取ってみました。
TA4001アンプの特性およびGPSユニットへ2ターンコイルで結合
元々のICの特性図にある15dBのゲインは取れていませんが12dB程度はゲインがあり、使用した同軸ケーブルの損失は十分カバーできるはずです。実際に実験してみると残念ながらあまり電波が強く受信できていないことが分かりました。ゲイン不足かも知れませんのでアンプのゲインを上げることにしました。
今度は手元にあったNECのICでUPC1678を使いました。カタログデータでは1.5GHz付近で20dB強のゲインがありTA4001より10dB近くゲインが上がりそうです。このICは出力端子にコイルを追加する必要があり周波数を考えて空芯のコイルを取り付けました。その回路とICのゲインおよびプリント基板は次のようになりました。
左から増幅回路、IC単体のゲインおよびプリント基板に組み込んだ回路
この構成で同様に試験しましたがやはり希望するように信号は強くなりませんでした。この後の専用アンテナの実験の結果から、どうも1ターンアンテナに原因があるように思われ、改めて検討する必要がありそうです。
・GPS専用アンテナ
車で使っているIC-2820(144/430MHzデュアルバンドトランシーバー)にはGPSアンテナが付属されていますがこれが使えないかと検討してみます。一般にGPSアンテナは内部にアンプが入っており、アンテナから引き出されている同軸ケーブルに電源電圧を重畳する必要があります。電圧が分からないため、IC-2820のGPS端子の電圧を測ってみると3.25Vとなっていました。多分3.3V系の電圧と思われます。
また、以前にパソコンGPS用に販売されていたものを購入し、その後使っていないユニットのアンテナ部分を使ってみることにしました。PCMCIA(Personal Computer Memory Card International Association)ユニット(通称PCカード)に接続するタイプで端子の電圧を測ってみると2.7Vでした。
PCMCIAユニットのGPSアンテナ(左)と、IC-2820の付属GPSアンテナ(右)
インターネットでも同様なアンテナの通販を見つけることができると思います。重畳する電源の電圧はそのユニットに合わせる必要があります。
これらのアンテナを使うため変換アダプターを作りました。それぞれのアンテナに合わせた電圧の電源を乗せました。3.3Vの定電圧電源ICを使って3.3V側に供給します。また、この3.3Vよりシリコンダイオードを直列に入れると順電圧分電圧が下がるため2.7V位になりこれをもう一方に供給します。これら2つのアンテナのコネクターが異なるため部品屋さんにこれに合うコネクターを探しに行き、幸いにも見つけることができました。
この基板には2組の回路、コネクターがありますが相互には関係ないので片方ずつ試験することになります。出力側のSMAコネクターに同軸ケーブルを付け、反対側には2ターンのコイルを付けてGPSに結合させます。
GPSアンテナインターフェイスとその回路
次のような接続で試験した結果、両方のGPSアンテナ共電波を受信することができました。PCカードのGPSアンテナの方が少し強く受信できましたが、一応両方とも実用になるように感じられます。
GPSアンテナとユニットへの結合
一応信号の入力はできるようになりましたが、アンテナから同軸ケーブルの延長は位置情報にどのような影響を与えるでしょうか。どの衛星からの電波も同軸ケーブルの長さだけ遠くなることになるため、多分高度が下がる表示になるのではないかと思われます。
結局1ターンアンテナはゲインと指向性が十分ではないという結論になりました。また、2ターンの結合コイルも改善の必要があるように感じます。どのように改善すると実用になるかは相当検討しないとすぐには分かりません。結論的にはGPSアンテナの開発ということになるので簡単ではないと思います。もしそのような機会があればやってみることにしたいと思います。
楽しいエレクトロニクス工作 バックナンバー
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- 第88回 CWスピード
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- 第86回 IC-705用電源
- 第85回 デジ簡と特小のリンク
- 第84回 エレキー
- 第83回 スピーチコンプレッサー
- 第82回 長波JJY受信機
- 第81回 3.5MHzアンテナ
- 第80回 シニアスピーカー
- 第79回 バッテリーアイソレーター
- 第78回 F2A発振器
- 第77回 DDSの動作
- 第76回 マルチチェンジャー
- 第75回 ハンディ無線機用電源
- 第74回 NAVTEX
- 第73回 多用途タイマー
- 第72回 周波数誤差検出
- 第71回 ワイヤレス充電
- 第70回 警報付電圧計
- 第69回 分配器
- 第68回 半田ごてタイマー
- 第67回 可変アッテネーター その2
- 第66回 アンテナマッチング回路
- 第65回 AM受信機
- 第64回 2バンドアンテナ その2
- 第63回 2バンドアンテナ その1
- 第62回 ドライバーSG
- 第61回 144MHz→50MHzダウンコンバーター
- 第60回 音声帯域モデム
- 第59回 位相方式SSB (その2)
- 第58回 位相方式SSB (その1)
- 第57回 AMトランシーバー
- 第56回 グリッドディップメーター
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- 第54回 スイッチトキャパシターフィルター (SCF)
- 第53回 SWR計 その2
- 第52回 SWR計 その1
- 第51回 コードレスキー その2
- 第50回 2トーン発振器
- 第49回 スペクトラム拡散通信 その2
- 第48回 スペクトラム拡散通信 その1
- 第47回 ワイヤレスハンドマイク
- 第46回 自動アンテナ切替器
- 第45回 CI-Vターミナル
- 第44回 案内放送
- 第43回 PEP パワー計
- 第42回 容量計
- 第41回 コードレスキー
- 第40回 電子バグキー
- 第39回 お酒沸かし
- 第38回 電圧給電アンテナ
- 第37回 パルスジェネレーター
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- 第33回 GPS その1
- 第32回 鹿おどし
- 第31回 続CW復調改善 その2
- 第30回 続CW復調改善 その1
- 第29回 CQコールマシン
- 第28回 PINダイオード
- 第27回 可変アッテネーター
- 第26回 誘導無線アンテナ
- 第25回 CW復調改善
- 第24回 1.2GHz受信用プリアンプ
- 第23回 パワー計
- 第22回 実験用定電圧電源
- 第21回 色々なフィルター
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- 第19回 マルチバンド ワイヤーアンテナ
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- 第16回 太陽光発電で無線をしよう! その2
- 第15回 太陽光発電で無線をしよう! その1
- 第14回 0-V-1 その2
- 第13回 0-V-1
- 第12回 周波数カウンターの製作 5
- 第11回 周波数カウンターの製作 4
- 第10回 周波数カウンターの製作 3
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- 第7回 送信機2 (最終回)
- 第6回 送信機
- 第5回 HF受信機3
- 第4回 HF受信機2
- 第3回 HF受信機
- 第2回 無線通信機の構成
- 第1回 ゲルマラジオ