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楽しいエレクトロニクス工作

第50回 2トーン発振器

JA3FMP 櫻井紀佳

SSBの運用等で送信機のリニアリティの試験を行いたい場合があります。リニアリティの試験には2トーン発振器を用いることが一般的と思われます。今回はその2トーンの発振器を作ってみたいと思います。


完成したユニット

まず2トーン試験の原理を考えてみます。アンプに2つの周波数の信号を入力した場合、もしアンプに全く歪がなければ、2つの信号がそのまま増幅され他の周波数の信号が現れることはありません。しかしアンプに3次歪があれば、2トーンの信号をf1とf2とすると2×f1-f2、2×f2-f1のような3次歪の信号が現れ、f1とf2以外の信号が目的信号近くに現れることになります。

無線機のリニアアンプの歪は、音質が悪くなることより不要な帯域が広がって他局の通信に妨害を与えることの方が問題視され、歪の軽減が求められます。歪は次の図のような成分がありますが目的信号付近の不要な帯域が広がる歪は、3次、5次等の奇数次歪で、これが問題になります。


3次歪の関係と歪出力

SSB送信機のリニアリティの試験において、入力する2トーンの信号自体が歪んでいたのでは何を試験しているのか分からないので、この点に十分注意が必要です。但し発振器の歪は高調波歪だけを考えればよく、2トーンの高い方の周波数は普通2kHz前後になるためその高調波はフィルターの外に出て問題になりません。したがって、帯域内の下側の周波数の高調波だけ気にすれば良いことになります。

SSBのフィルターの帯域は、おおむね下端が300Hz、上端が2700Hz位で2トーンの周波数はこの帯域の中で対称になる位の関係が良いと思います。また下と上の周波数が整数倍になると高調波が重なるため、これは避ける必要があります。

2トーン発振器のそれぞれの周波数を可変式にすると、色々と他への応用も考えられますが複雑になるので今回は固定周波数の発振器で進めます。発振周波数はフィルターの帯域から考えて800Hzと2100Hzにしたいと思います。もし不都合があれば変更できますが、フィルターの帯域が100Hz~3.0kHzに広がっても周波数関係はこのまま使えそうです。

低歪の発振器は色々考えられると思いますが、昔から低周波発振器としてよく使われているウィーンブリッジ発振器を今回は採用してみます。

ウィーンブリッジ発振器の基本回路は次の通りです。

ウィーンブリッジ発振回路はバンドパスフィルター(BPF)と、非反転増幅回路で構成されます。正帰還側は出力からBPFを通って+入力に入り、負帰還側は出力から増幅度を決める抵抗R3を通して-入力に戻します。出力からBPFを通って少し減衰した信号を非反転増幅回路で増幅し、全体で増幅度が1の時、綺麗な正弦波になります。

実際の実験回路は、基本回路のままでは温度変化や経時変化によって不安定になるのを防ぐためAGCをかけることにしました。

全体の回路は次のようになりました。

低い方の周波数はIC1Bで発振しIC1AでAGCをかけています。また高い方の周波数はIC2Bで発振しIC2AでAGCをかけています。AGCは、IC1AまたはIC2Aの出力をD12、D15で整流してC4、R11およびC8、R24で平滑しQ1、Q2のFETのゲートをコントロールします。

Q1、Q2の2SK241は元々高周波増幅用ですが、手元に他の適当なFETがなかったので、これを利用することにしました。このFETのドレインには直流電圧がかかっていないため可変抵抗として動作します。この抵抗が下がればIC1B、IC2Bのゲインが上がり、抵抗が上がればゲインが下がるためループとして発振出力が一定になるよう動作します。

この2つの発振出力をIC3Bで合成してR30で最終出力を調整しますが、2つのそれぞれのバランスはR12とR13で調整します。IC3はNJM 4560で高出力型のため負荷が多少変動しても安定した出力が取り出せます。

電源はマイク端子の+8Vから取り出します。アイコムの無線機のマイクでは機種によって次のような2つのコネクターに大別できます。

どちらのコネクターでも使えるよう変換コネクター型にして対応するようにしました。

実際の組み立ては穴空き基板付きのケースを部品屋さんで買ってきて、その基板に部品をハンダ付けしました。マイナス電源のICだけDIPのものがなく、LM2662のICをハーフピッチの基板に組立てたものを本体の基板の上に乗せています。

電源をつないで波形を見てみました。R12とR13の出力を測って同じ電圧になるようR1またはR13を調整します。最後は出力端子にオシロスコープのプローブを接続して出力の波形を測定しました。その波形は次の通りです。

この発振器を実際に無線機に接続してリニアリティの試験をしてみました。

この2トーン発振器は少し凝りすぎて多少複雑になりましたが、このようなユニットが1つシャックにあると便利だと思います。

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次号は 12月 1日(木) に公開予定

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