2015年6月号

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楽しいエレクトロニクス工作

JA3FMP 櫻井紀佳

第25回 CW復調改善

私も昔は結構CWが好きで2日で43カントリーも交信したことがあり、正確には数えていませんがトータルでは多分100カントリーは超えていると思います。しかしだんだんCWから遠のき、今ではほとんど運用していませんので少しずつCWの解読が怪しくなってきました。

パソコンによる自動解読には、モールス信号送受信ソフトで便利なJA3CLMさんのDSCW(Digital Sound CW)を利用させて頂いていますが、弱い信号やフェーディングによる誤字が結構多いのが気になります。そこで暇に任せてCWの解読器(パソコンのサウンドカード)への入力信号の改善をしてみようと思うようになりました。以前掲載した記事「色々なフィルター」でも紹介した600HzのフィルターをDSCWの入力に入れてみたのですが、全く改善はありませんでした。このため違ったアプローチをしてみたいと思います。

1. 考察

まずCW復調の精度を上げることを考えてみます。CWの検波方法としては信号とBFOとの差でビート音を出して復調するのが一般的と思われます。この場合信号にノイズが含まれたり、振幅に変化があったりするとそのまま影響するため、同期検波した信号でトーンを再構成した方が、誤字が減少するのではないかと思い、やってみることにしました。

実験的構成は次のように考えてみました。

送受信ソフトであるDSCWの入力信号がフェーディング等でレベルが低下すると誤字が増えるようなので、今回の目標として復調した信号で再構築した一定レベルのトーンをDSCWに入力してみます。受信トーンの周波数は私がよく使う600Hzとしています。

2. 回路の実験

・同期検波回路
同期検波として今まで多くのOMがLM567のICを使った回路を実験されておられるため、今回は実績のあるこのICを使わせて頂きました。実際にはこのICとコンパチのBA567が手元にあったので使用しました。先に同期検波の部分だけ実験したいと思いますが実際の回路は次の通りです。


同期検波回路

受信トーンの周波数は600HzにしていますのでPLLの発振周波数はこれに合わせます。発振周波数は fo = 1/C14 x (R21+R22)で決まり、C14が100nFなのでR21とR22の合計は計算上16.7kΩ位になります。

同期信号を入れない自励発振の状態での発振周波数を計りR21を調整して600Hz位に合わせます。このICの出力ピン8は同期検波したCWのONかOFFの信号が出るだけで発振出力の端子がないのでピン5のタイミングRの端子をオシロスコープでみると発振波形が見えます。ただ同期検波で同期してもしなくても発振波形は出ていて入力のCWに同期したトーンの信号として利用できませんので、その後にCMOSのNORゲートでスイッチすることにしました。

同期の実験をするために、このICのピン3のINPUTに外部から信号を入力しますが、この部分の試験のため低周波発振器で入力してみます。入力電圧を300mV位にして低周波発振器の周波数を動かすと600Hz±20Hz程度に追従します。入力信号にロックして追従している間はIC4のピン8のOutがLレベルになりロックが外れるとHレベルになります。つまりCWの信号が入ればLに、なければHになります。

・振幅制限回路
同期検波回路への入力は振幅の変化が少ない方がいいようなので振幅制限回路をつけてみました。信号が小さいときには27k/10kで2.7倍程度のゲインですが、信号が大きくなると逆並列に入れたダイオードが働き振幅が抑えられます。


振幅制限回路

CWの信号源を得る無線機のアクセサリー端子からの低周波出力が100mV~300mV程度であるため、それを基準に考えました。入力が200mVの時にはほぼリニアな出力ですが、600mVの入力では振幅が抑えられているのが分かります。

左側は200mV入力                 右側は600mV入力

下側が入力信号、上側が出力信号 (クリックで拡大します)

・フィルター回路
同期検波の入力信号はできるだけ雑音が少なくS/Nのよい方がベターと思われ、前段にフィルターを入れます。この回路は「色々なフィルター」で紹介したものと殆ど一緒ですが各部を簡単に説明します。


600Hzフィルター回路 (クリックで拡大します)

IC1Aは振幅制限回路でその出力をR4とR5で分圧してレベル調整しています。IC1Bはなくてもよいのですが、2個入りOPアンプであるため、余ったもので出力インピーダンスを下げるバッファーとして使っています。

その後のR6~R9とC2~C5で構成するTwin Tノッチ回路を帰還回路に使ってBPFにしています。IC2Aは、そのTwin Tノッチ回路の負荷をできるだけ軽くした方がよい特性になるため、入力バッファーとして使っています。

このフィルター回路はゲイン分だけ持ち上がった特性になるため、OPアンプが飽和する手前くらいの約45倍(33dB)のゲインとしており、これを2段重ねて特性を取っています。位相補償しないと高い周波数で発振するためC21とC22の22pFを付けています。

これらの回路はほぼシミュレーションと同じ特性になりますが、その結果は次の通りです。


フィルター特性

3. 総合試験

今まで実験した回路をまとめて色々追加すると次のようになりました。振幅制限回路に受信機からの信号を入れ、その出力をフィルターの回路に入れます。フィルターの出力を同期検波に入力すると、設定したトーン(600Hz)と同期してピン8がキーイングされ、その出力で同期検波のPLL発振信号をスイッチします。同期検波の出力で発振信号をキーイングしたものは矩形波なので正弦波に戻したいため出力側に入力側と同様な600HzのBPFを付けました。


全体回路図 (クリックで拡大します)

これらの回路は蛇の目のプリント基板に組み立てました。OPアンプのNJM4558は外形がDMP8で小型ですが、BA567は以前から持っていたDIP8で外形は他のICと揃っていません。

4. 実用試験結果

実際の無線機に接続して実用試験を行いました。次の図は上側が雑音のある入力信号で、下側が今回の回路の出力です。明らかにS/Nの改善が見られ、実際にイヤホンで聴いてもノイズの少ない音で聞こえます。

波形で見るとノイズは確かに減っているのですが、信号間のスペースが狭くなっているようにみえます。多分同期検波がPLLのためロックする時間の関係でこのようになるのではないかと思われます。音で聞いてみるとあまりスペースの減少が気にならないのが不思議です。

実際に運用してみると、同期検波の同期する幅が狭く600Hz±20Hzでは狭すぎます。チューニングダイヤルを回すと同期の幅ばかりに気を取られ、おちおち運用できないような気分になります。相手局が出るとチューニングして合わせますが、正確に合わせている間に相手局の送信が終わってしまいます。瞬間的にあわせて長時間の交信なら良いのですが、1st QSOでは通常2~3回の送受信で終わるため、正確に合わせた頃にはQSOが終わってしまいます。

今回の回路の出力だけをモニターしていると、同期したときだけしか音が出ないので回路の入力信号も同時に聞いていないとチューニングできない結果になりました。結論から言いますとチューニングした時の同期する幅が狭すぎるため、何か改善しないと実用にならないと思います。

この信号をDSCWに入力してみる予定でしたが、このような短所の改善が先で実際に接続した実験は取りやめました。何か素晴らしい改善策が見つかれば改めて報告したいと思います。

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