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楽しいエレクトロニクス工作

第56回 グリッドディップメーター

JA3FMP 櫻井紀佳

最近は自作派も減って測定器を使う機会も少なくなり、ましてや測定器を自作しようとする人は稀なことかも知れません。ずっと以前の真空管の時代には、アンテナの調整や同調回路の設計に真空管を使ったグリッドディップメーターがよく使われ、それを自作する人も結構いました。そこで今回は、あえて時代に逆らって真空管を使ったグリッドディップメーターを作ってみることにしました。


出来上がったグリッドディップメーター(左)とプラグインコイル(右)

グリッドディップメーターの原理を先に説明しますと、コイルとコンデンサーの同調回路を使った真空管式の発振回路は、プレート電流も流れますがグリッド電流も流れています。この同調回路に他の同調回路が近づくと、発振回路のエネルギーが吸収されてグリッド電流が低下します。このグリッド電流の最低点を見つけて、その時の発振器の周波数を読み取り被測定同調回路の周波数を求めるものです。

真空管を半導体に置き替えた製品もその後発売されていましたが、名前の通りグリッド電流がディップする点を測る測定器なので、やはり真空管を使用して作ってみました。今回使った真空管12AT7は、今もなおオーディオ関係にも使われているため、ネット通販や秋葉原でも販売されているようで、まだ手に入ると思います。

このグリッドディップメーターに使用する真空管、12AT7はガラスの中に3極管が2つ入っている双3極管と呼ばれるものです。真空管の電極は、この3極管ではプレート、グリッド、カソードで構成され、さらにカソードから熱電子を放出させるためのヒーターが付いています。

トランジスターと比較するとプレートがコレクター、グリッドがベース、カソードがエミッターと考えると機能はほぼ同じです。真空管は、カソードをヒーターで熱することでカソードの表面から熱電子を放出します。電子は、マイナスの電荷を帯びていますからプラスの高圧がかかったプレートへ引き寄せられ、これがプレート電流の流れとなります。カソードとプレートの間に入っているグリッドの電圧でこのプレート電流をコントロールします。

グリッドディップメーターの全体の回路は次のようになっています。

今回製作したユニットは重さと大きさを考慮したもので、トランスを使わずAC100Vを直接利用するトランスレス回路です。真空管は、この12AT7を1本だけ使い、双3極管で構成されています。この回路は右側半分の3極管が発振回路、左下半分の3極管は発振回路用のプレート電圧を作る整流回路です。

発振回路はCP1、CP2に接続するプラグインコイルとC8、C9のバリコンで構成される同調回路を通してプレートからグリッドに帰還する回路で発振します。真空管はプレートに高圧の電源が必要なため、入力されたAC100Vを左下の3極管で整流しC7で平滑して作ります。C7には100Vのピークに近い+140V位の電圧で充電されます。

真空管12AT7のヒーター電圧は12.6V、150mAです。この電圧も必要ですがトランスレス回路にしたかったため少し工夫をしました。AC100Vからこの電圧まで抵抗で電圧降下させると大きな電力となり、電圧降下のための抵抗が発熱に耐えられません。そこでコンデンサーのリアクタンスで電圧降下させることにしました。コンデンサーの値はこのリアクタンスとヒーターの抵抗値から計算でき約4μFとなりました。電源が50Hzの地域では4.8μFにする必要があります。

100V/√((Xc)2+(Rh)2) = 150mA
Xc=1/(2π60Hz・4μF) = 663Ω
Rh=12.6V/150mA = 84Ω

ジャンク箱の中に4μFのオイルコンデンサーが残っており、これを使うことにしました。このコンデンサーは当時真空管の電源に使われていたもので150V以上の耐圧のものが必要です。交流回路のため電解コンデンサーのような極性のあるものは使用できません。R3とR4はC6に残った電圧の放電と電圧配分のためのものです。

AC100Vの片方(整流回路のマイナス側)とケース・シャーシーとはC3~C5で高周波的に接地されていますが、商用電源AC100Vと絶縁されていないとケースを持った時に感電の恐れがあり注意が必要です。

全体の組み立てはメインパーツが真空管だけに古い部品ばかりになってしまい、大半はジャンクボックスから取り出したものになりました。特にヒーター電圧降下用のオイルコンデンサーは現在すぐ手に入るかどうか分かりませんが、おそらくフィルムコンデンサーで同等のものがあると思います。

また、2連バリコンはジャンク市でも見かけることが少なくなりましたが、まだどこかに残っていると思います。他のコンデンサーも150V以上の高耐圧のものが必要です。そのような使用部品をリストアップしてみました。自作にトライされる方は参考にしてください。

今回は、真空管をはじめ昔の部品を多く使い、工作方法も昔流になってしまいました。組立ては外側ケースから作ります。次の写真でお分かりのように全体の部品を取り付けるシャーシ・ケースと裏ブタの二つでアルミ板を曲げて作ります。

1mm厚のアルミ板に必要な寸法をけがき、金属ハサミで不要な部分を切り取ります。曲げる部分も寸法をけがき、その裏からカッターナイフで少し切り込みを入れておくと楽に曲げることができます。但し、切り込み過ぎると曲げた時、取れたり弱くなったりしますので注意が必要です。ケース上面は浮遊容量を減らす意味でアクリル板にしました。


内部の部品配置と板金寸法

真空管を差し込むソケットを取り付けるアングルもアルミ板で作り、16Φの丸穴はシャーシパンチであけました。最近では、シャーシパンチを持っている人は少ないと思いますが、まだネットでも販売されています。

バリコンを回すダイヤル機構は糸掛方式で、ダイヤルプーリー、バネ、ダイヤル糸、駆動シャフト等が必要です。どの部品もまだネットで販売されているのには驚きました。


ダイヤル機構

シャーシに取り付けたバリコンのシャフトにプーリーを取付け、ドライブシャフトに巻き付けたダイヤル糸をプーリーに回し、バネに通してテンションをかけて留めます。

測定できる周波数範囲は、4本のプラグインコイルで次のようにカバーしています。

バンドAコイルはボビン内部の上までのUターンしたもの。

プラグインコイルは10mmφ x 72mmのベークライトボビンに1mm厚の真鍮板で作った足をネジ止めし、壊れた真空管、GT菅から取り出した足を半田付けしたものです。コイルを巻いた後、透明の熱収縮チューブを被せて熱で固定します。
プラグインコイルのソケットはFT‐243型水晶発振子用のソケットを利用したもので丁度合います。


プラグインコイルとソケット

次に目盛版を作りますがこの作り方も昔流で作ってみました。材料は文具の乳白色の下敷きです。この下敷きに出来るだけ目の細かいサンドペーパーを均一にかけます。線を描いたり、文字を書くのにブラックのインクに少し砂糖を溶かして使います。このようにすると文字に光沢が出ると昔いわれていました。

今は入手困難かも知れませんが、墨み入れ用の烏口(カラスグチ)コンパスで円を描き目盛も文字もペンで描きました。しかし少し薄汚れてあまり美しくは仕上がりませんでした。

まず必要な円を先に描いた後下敷きを切り取り、プーリーに接着剤で貼り付けます。グリッドディップメーターを動作させて、コイルに適当にカウンターの入力を結合させて測定しバンド毎に目盛りを書いていきます。別に昔流にこだわる必要はなく、下敷きもカラーのものやインクもマジックインクで適当なものがあればその方がベターかも知れません。

数値を読み取るためのカーソル板は透明なアクリル板に直線をけがき、赤いマジックインキで線を引いて不要部分をふき取り、取付はアルミ板にカーソル板の幅の窪みをつけて接着剤で取り付けました。

グリッドディップメーターの使い方は、第一に同調回路の共振周波数の測定ですが、測定したい同調回路にプラグインコイルを近づけてダイヤルを回してメーターのディップ点を探して周波数を読み取ります。同調周波数が分からない時はプラグインコイルをいくつか取り替えて測ることになりますが、慣れてくるとコイルとコンデンサーを見れば大体の同調点が分かるようになります。

アンテナから引き込んだ同軸ケーブルの端に1~2ターンのコイルを付けてディップメーターで測ると共振点が分かりますが、この場合は高次の共振点も出ますので一番下の周波数がそのアンテナの共振点になります。その他にも、ディップメーターは簡易発振器やマーカー等として色々な測定シーンで使われていました。

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