2016年12月号

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楽しいエレクトロニクス工作

JA3FMP 櫻井紀佳

第43回 PEP パワー計

アマチュア無線でSSBを運用すると送信出力がどの程度出ているか気になることがあります。SSB送信機は入力する音声によって出力が変わるため普通のパワー計では音声の平均値程度の出力しか表示されません。仮に50W出力の送信機で、普通に喋ってパワー計で50Wを表示したのでは実際の出力では音声のピークで何倍にもなっていることになります。

まず一般的な電力について考えますと、交流理論で同じ負荷(抵抗)を交流および直流に接続した時、負荷で同じ消費電力(発熱量)になる直流の値を交流の実効値RMS(Root Mean Square)としています。数学的には初歩の交流理論として知られているのでここでは繰り返しませんが、その関係は次のようになっています。

これらはARRLの資料、インターネットのMath for the ham operatorが参考になります。

そこでいわゆるPEP(ピークエンベロープパワー)とはなにかを整理してみます。SSBは音声入力のレベル差で出力が大幅に変動するためパワーの規定が難しく、一言で言えばPEPは音声ピーク時の高周波のRMSと言えると思います。

音声と高周波の周波数比は大きく、3.5MHzで考えても仮に音声周波数の高い方が3.5kHz(実際には3kHz以下)としても1,000倍あり、28MHzでは更に10倍近くになります。つまり音声周期の中に1,000倍以上の高周波が詰まっていて、次の図よりもっと高周波が詰まった感じになります。この音声のピーク付近の高周波のRMSがPEPになります。

交流の波形でマイナスのピークとプラスのピークはオシロスコープで測定しやすく、また分かりやすいと思います。

最近は高性能なオシロスコープも安価になってきて50MHzや100MHzのものでも数万円程度で購入可能です。但し、オシロスコープの最高測定周波数は-3dBつまり約70%に落ちる周波数で規定しているものが多く、短波帯HFの28MHzまで正確に測ろうとすると最高測定周波数は100MHz以上のものが必要です。

移動局の50Wの測定を考えると、50Ωのダミー端子でP = E2/Rから、Eは√PRより50Vとなり、Peakは70.7V、P-Pは2倍の141.4Vとなって一般のオシロスコープの測定範囲に入ります。

オシロスコープやパワー計はリニア系のため誤差は%で表されることが多いと思いますが、スペクトラムアナライザー(スペアナ)等では誤差はdBで表されることが多く、例えば-1dBと言えばほんの僅かの印象ですが、オシロスコープで見れば89%になってしまいます。従って適切な測定を行えばオシロスコープの誤差は思ったより小さく感じます。

そこで、オシロスコープで直接出力波形を測定してみます。できるだけ出力回路に影響を与えないよう測定治具を考えてみました。負荷の条件を乱さぬよう無線機と負荷を繋ぐ同軸ケーブルの途中に穴をあけてオシロスコープのプローブを当てるようにしました。

この治具は10D-FBの同軸の絶縁外皮(シース)を3cm幅位切り取り、内側の外部胴体の網とその内側の銅テープも真ん中当たりで切り離して両側にかき分けておきます。また、その内部の絶縁体も2cm幅程度切り取ります。内部導体が出てきますので測定端子の足が入る大きさの穴をあけて測定端子を半田付けします。後は測定端子の足の分部をえぐった内部絶縁体を元に戻し銅テープを追加して網もシースも元に戻し、最後に熱収縮チューブで仕上げます。

この治具を使って次のような接続で測定してみました。

この表のオシロスコープのピーク電圧ですが、手持ちのオシロスコープは最高測定周波数が50MHzのため15MHz付近で97%になりそこから上の周波数は測定値が信用できません。14MHzでも既に影響が出ているのではないかと思われます。オシロスコーププローブのグラウンドリードの影響も懸念していましたがリード線を動かしてもほとんど影響ありませんでした。

この表のダイオード検波は同軸治具の測定端子へ次のような基板で1SS108を接続してピーク電圧を取り出したものです。

また、この表で使ったパワー計は以前の連載、「第23回 パワー計」で製作したものです。肝心のDetectorの特性は、高い周波数では優秀なものの、低い方は規格上10MHzまでしか記載がなく、3.5MHzから下はこの影響があるようです。この表の色塗りした補正値は10dB 200Wのアッテネーターの実測値の誤差で補正した値ですが3.5MHz以下はもう一度検証が必要なように感じています。

今回のPEPパワー計は、この「第23回 パワー計」で製作したパワー計にピークホールドの回路を付加して製作を進めます。したがって、パワー計の製作部分については、「第23回 パワー計」の記事を参照してください。

PEPの測定は、通常の「パワー計」を用いる方法だけでは音声信号の平均値になるのでピークホールドを考えてみます。幸いにも第23回に掲載した「パワー計」には、直流処理のジャックがついているのでこれを利用してピークホールドを考えました。SSBのピークの測定値が保持できれば補正で表示できることになります。

次の図は、ピークホールド回路です。P1のプラグを「パワー計」のJ23に接続すると「パワー計」のDetector出力が下のピークホールド回路のIC3Aの+端子に入力されます。IC3Aの出力にダイオードD1が接続されており「パワー計」のDetector出力がマイナスのため、マイナスピークの電圧がC6に充電され保持します。IC3Bの+入力にC6の電圧が入り、そのまま出力され、その電圧がIC3Aの-入力に印加されているため入力電圧がこの電圧を超えたときのみD1で電圧を引き込み、マイナスピークを保持することになります。したがってIC3Bの出力もマイナス電圧で「パワー計」のメーターアンプに戻されます。


ピークホールド回路 (クリックで拡大します)


ピークホールド回路の基板


「パワー計」の回路 (第23回 パワー計の再掲、クリックで拡大します)

PEP出力表示の校正は、まずFMやRTTYモードのような出力振幅の変動のない信号を使用します。通常モードとPEPモードとを切替えて、表示が同じになるようにピークホールド回路のR3を調整します。ピークのホールド時間はピークホールド回路のC6とR2で決まるため適当な時間になるようにR2で調整します。今回の製作では1MΩにしていますが適当な時間になっているように感じています。

SSBモードでマイクに向かって話すとPEP値を表示できます。ピークホールド回路がない状態では、フルスケールの半分か1/3程度のメーターの振れでしたがこの回路の追加でピークまで振れるようになりました。SSBモード以外のモードでもピークホールド回路を付けたままでも測定に特に支障はないので「パワー計」内部にこの回路を組み込んでも特に問題はないと思われ、今後そのように改造したいと思っています。

今回の同軸治具とダイオード検波も特性的には良いように思われ、しっかりしたアッテネーターさえあればこれでパワー計を作っても十分実用になることが分かりました。

ダイオード検波
検波整流でダイオードにかかる逆電圧は、交流のピーク値を検波整流した直流がカソードにかかりアノード側は交流のマイナスピークがかかるため交流のP-P以上の耐圧が必要です。仮に100Vピークの交流を検波整流した場合の電圧の関係は次のようになります。

手元にあった1SS108で試してみることにしました。1SS108は耐圧30Vであるため、50WのP-P 140Vを直接かける訳にはいきません。このためRF信号の分圧を考えてみます。抵抗で分圧して負荷に接続すると当然負荷抵抗が変わるため許容できる値を仮に2%とすると負荷抵抗の50Ωが49Ωになり、その時の分圧抵抗は2.5kΩ程度になります。この2.5kΩとダイオードの耐圧を考慮して分圧してみます。

分圧回路で気になるのは、2.2kΩという高い抵抗値を使っているため周波数特性がどうなるかという点です。抵抗はR成分だけでなくL成分やC成分も考慮しなければなれません。

分圧に使った2.2kΩと50Ω負荷でトラッキングジェネレーター(スペアナ)を使ってその特性を測ると30MHzと20MHzでは0.8dB位の差がありリニアでは83%までさがります。パワー計にすると50Wが41.5W表示では満足できないと思います。この方法はうまく行かないため本文のようにアッテネーターを使うべきと思います。

ダイオード検波で入力が0dBm(0.23V)では次の図の左のようになりますが十分な電圧では右のように良好な結果になりました。

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