楽しいエレクトロニクス工作
長年使用してきた無線機の周波数が少しズレてきたように感じることがあると思います。最近のメーカー製の無線機は優秀な周波数基準器を使っている場合が多く簡単にはズレませんが、基準の水晶発振子は元々温度変化と経年変化の要素を持っていることを理解する必要があります。
普通に手に入る水晶発振子は温度変化も経年変化も±20ppm~±50ppm程度のものが多く、±20ppm (2x10-5)というと1.8MHz帯では±36Hzですが、1.2GHz帯では±24kHzにもなりFMモードの場合は隣のチャンネルを飛び越す位のズレとなります。
市販の無線機はこれより相当良好で、アイコムの無線機では周波数安定度が±0.5ppmのものが多くなっています。無線機の周波数経年変化もこの程度と思われますが、経年変化を規格に入れている無線機は少なく、それが保証されている訳ではありません。±0.5ppm (5x10-7)の経年変化では1.8MHz帯で±0.9Hz、1.2GHz帯でも±600Hz程度です。
1.2GHz帯でSSB運用する人は少ないかも知れませんが144MHz帯ではSSB運用する機会も多いと思います。無線機の中には経年変化で0.5ppmより大きくズレるものもあり、仮に2ppmズレたとすると144MHz帯で288Hzもズレて送受同じ周波数表示でも正常に音声が復調されません。
無線機の周波数のズレを確認するには、単純には送信電波を周波数カウンターで測れば良いのですが、このカウンターの周波数精度も被測定の無線機より十分良いものでなければ意味がありません。もしカウンター方式で周波数のズレを表示しようとすると次のような構成になり、規模が大きい割には得られる結果は単純でわざわざ作る気になれません。
多くの人が優秀な周波数カウンターを持っているとは思われませんので、もっと手軽に周波数のズレを測る方法を考えてみたいと思います。今回のテーマの要点は、無線機の周波数のズレを知りたいので、できるだけ簡単な構成、回路で考えてみます。
周波数のズレを知るためには、どんな方法でも基準になる精度の高い周波数源が必要です。そのような用途では昔はHF帯の5MHzまたは10MHzのJJY電波が有名でした。この短波のJJYも実は電波伝搬等の影響等で±10-8以上の精度は難しかったようです。
その後標準電波は長波帯の40kHz、60kHzに移りましたが、私の住んでいる奈良県では電波が弱く、常時標準電波として利用できません。アナログテレビのある頃にはカラー同期の3.57954・・・MHzの信号を取り出して88/63倍すると5MHzになるので利用していました。
現在周波数標準として利用できるのはGPSが一般的と思います。次の写真はこの連載の「第48回、49回のスペクトラム拡散通信」で使ったユニットです。
10MHzクロック発生ユニットとGPSユニット
またその回路は次のようなものです。
この回路は10MHzの水晶発振回路にGPSの信号で同期を取るもので、GPS本体の精度は10-13程度と言われており、今回の目的には十分な精度と思います。このユニットを周波数源として使います。
回路的には10MHzの水晶発振器の出力を分周して1Hzの信号を取り出します。この信号とGPSユニットから取り出した1Hzの信号を位相比較した制御信号で水晶発振器を補正して精度の高い10MHzの信号を取り出すものです。
精度の高い周波数源ができれば、これを利用して無線機の周波数のずれを検出します。被測定のほとんどの無線機は周波数シンセサイザーで出来ているため、その周波数帯のどこかの周波数で確認できればよく、すべての周波数で確認する必要はありません。
そこで次の二つの方法を考えてみます。
1. 周波数源の高調波を利用する方法
無線機が430MHz帯、144MHz帯、50MHz帯なら高調波発生回路は5MHzステップでよく、430MHz帯は435MHz、144MHz帯は145MHz、50MHzは50MHzで確認できると思います。この方法は昔から使われていたマーカー発振器そのもので、精度を上げただけと言えます。
2. 無線機の送信出力と周波数源の高調波の差を取り出しカウンターで測定する方法
高調波を発生させるのは同じですが、その高調波の一つとダミーロードまたはパワーアッテネーターを接続した無線機の送信出力から取り出した信号をDBM(Double Balanced Mixer)でミックスして低周波を取り出し、カウンターで測定するものです。この場合は信号が低周波のため精度の低いカウンターでも十分信頼できる結果が得られます。またオシロスコープの観測やビート音を耳で聞いても確認は可能です。送信機の周波数のズレが高調波の上側でも下側でもビートが出ますが、送信のダイヤルで周波数を少し変えて、周波数を上にずらせてビート音が高くなれば上にずれていて、低くなれば下にずれていることになります。
これらの構成で高調波発生回路を検討してみます。高調波の発生は基本となる周波数がその上の周波数ピッチとなるので今回は基本波を5MHzで進めます。高次の高調波が必要なためパルス波を使いますが、パルス波形の周期とパルス幅の関係は次のようになっています。
高調波は周期Tの整数倍の周期で発生し、パルス幅τの周期で0となるヌルポイントができます。従って完全な50%デューティのきれいな矩形波は偶数倍の高調波は出ないことになります。
高調波を利用する時、希望する高調波がこのヌルポイントに当たらないようにする必要があり、そのためにはパルス幅τを狭くして目的周波数より上にするか、ヌルポイント周期の間になるようにする必要があります。
とりあえず高調波発生回路を考えてみました。
10MHz周波数源から入力された信号はIC1E、IC1Dで増幅、波形成型されてIC2Aで1/2に分周されて5MHzの信号を作ります。IC1Eはリニヤー動作が必要なため74HCU04を使っていますが、IC4Fのインバーターはできるだけ高速動作が必要なため74AC04を使い、IC3Aも同様な理由で74AC08にしました。
IC2Aで1/2に分周された5MHzの信号と、IC4Fで反転して遅延した信号をIC3Aに入力するとIC4Fの遅延分だけの幅の狭いパルスが出力されます。この信号は高次の高調波を含んだ信号でIC5の高周波アンプで増幅して出力します。
この高調波発生回路は47mm x 72mmの穴あき基板に組み立てました。CMOSのICはその一部のゲートしか使っていないのでもったいない使い方になっていますが、それぞれの用途になっているので仕方ありません
この回路の出力の高調波をスペクトラムアナライザーで測定した結果は次の通りです。
50MHzまでの高調波(左)と500MHzまでの高調波(右)
いくつかのヌルポイントはありますが500MHz位まで結構強い5MHzステップの高調波が確認できます。
この高調波を使って送信電波の周波数のズレを測定する方法として次のような回路を考えました。
高調波の信号をJ3より入力し、IC6で増幅してIC8のDBMのRF端子に入力します。一方送信機よりの電波をパワーアッテネーターかダミーロードに結合して信号を取り出した信号をIC7で増幅した信号をDBMのLO端子に入力します。IC7の飽和電力は+5dBm程度で入力が多少変化しても適当なレベルでDBMに入力できます。
DBMでミックスされた信号をIF端子から取り出し、IC9B、R3~R5、C12~C14で構成したLPFを通して広域の信号をカットしてIC9Aで増幅してJ5より出力します。元々3kHz以上の周波数のズレは想定していませんのでLPFの帯域は3kHz程度です。IC3の電源は+側と-側の両電源にしていますが、その理由はDBM出力から数Hz以下の信号も想定されIC3を低域まで増幅できる直流増幅器にするためです。J5に周波数カウンターを接続すると一番近い高調波の周波数と送信周波数とのズレが表示されることになります。
この回路も47mm x 75mmの穴空き基板に組立てました。
今回、10MHz周波数源、高調波発生回路、ミキサー回路と別々に作りましたが、これらの基板ユニットは今後他の用途も考えられそれぞれ別ユニットとしました。
表示された誤差が大きい場合は、可能であれば本体内部の調整などで補正してみて下さい。最近の無線機はソフト調整になっているため、本体を開けなくてもパネル操作により調整できるようです。
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