2016年9月号
連載記事
楽しいエレクトロニクス工作
JA3FMP 櫻井紀佳
第40回 電子バグキー
最近の無線機はエレキー機能を内蔵しているものが多く、さらに設定によって内蔵エレキーがバグキー操作にも対応したものもありますが、昔は縦型のキーが一般的で、横ブレのキーや複式のキーを自作したりしました。リッチな人は高価な外国製のバグキーを持っていて憧れの的でした。
無線機にエレキー機能が内蔵されているのに、わざわざこれを作る必要性はないのですが、昔を懐かしがってバグキーを作ってみることにしました。昔式の機械式バグキーは複雑で機械的精度が必要なため簡単には手が出せません。そこで電子式バグキーを作ってみます。パドルそのものは横ブレキーか複式キーを使用します。50年前の私の開局の頃は、横ブレキーと複式キーは別物だったように記憶しています。横ブレキーは短点か長点のどちらかしか打てず、両側同時に打てるものを複式キーまたはSqueeze Keyと呼んでいたように記憶しています。こられの使い方にはテクニックが必要です。
バグキーを作る前にCWの符号をおさらいしてみます。電信の速度は一般的にWPM (Words Per Minute) で定義され、Wordの標準は「PARIS」とされているようです。
短点を1単位とした基準で考えると
P = ・― ―・ 短点2、長点2x3、間隔3、文字間隔3 小計14単位
A = ・- 短点1、長点1x3、間隔1、文字間隔3 小計 8単位
R = ・-・ 短点2、長点1x3、間隔2、文字間隔3 小計10単位
I = ・・ 短点2、長点0x3、間隔1、文字間隔3 小計 6単位
S = ・・・ 短点3、長点0x3、間隔2、語の間隔7 小計12単位
合計50単位
1分間5WPMなら5 x 5文字で25文字/分となり、250単位/分となります。一番速い速度を125文字/分とすると、5倍の1,250単位/分となりますが、短点の周期にすると半分になるので625単位/分で周波数では最大10.4Hz程度になると思われます。
バグキーの動作は右手の親指でパドルを押すと一定間隔で短点が出力され、人差し指でパドルを押すと押している間だけ連続した長点が出ます。短点のスピードは短点側に付けられた重りが振動してその周期によって決まり、重りの位置の調整でスピードを決めます。長点はこの短点のスピードに合わせたリズムで操作します。このため操作する人により短点と長点の比が変わりその人の特徴が表れます。短点も接点とのバネの距離が調整できるためマークとスペースのデューティ1:1から少し変化することが可能です。
これから作る電子バグキーも本物のバグキー同様に長点側はそのまま押している間接続され、短点側は押している間一定間隔で短点が出るようにします。本物のバグキーが端点のマークとスペースの比デューティを少し変えられるようにこの点も考慮しました。
短点を作る一番簡単な方法はロジック発振器を作ってその後にアナログの遅延回路でデューティを変化させてもいいのですが、もう少し凝ったものを作ることにしました。短点を作る発振回路はロジック発振回路で良いと思いますが、短点のマークとスペースの比、デューティをスムーズに変えるため発振周波数は100倍にして考えてみました。
短点のデューティの切換範囲は使用するスイッチ等から制限を受けますが、一般的に売られている部品で10接点のロータリースイッチを使います。つまりデューティ50%から両側に可変するとして変化ステップを4ステップとしてセンターに1ポジション取られるので±4ステップとなります。
最初に考えた回路はつぎのようになりました。
ここまで検討してみて根本的な不具合があることに気がつきました。短点のデューティサイクルを変えるため打ち始めの頭からカウントさせていますが、短点の打ち始めから符号がすぐにスタートできないので25%遅れて始まることになってしまいます。つまりいつも短点の打ち初めに一拍遅れた感じになります。これでは使いものにならないので打ち初めは即符号が出る回路に変更しなければならず、せっかく検討しましたがこの回路はあきらめました。
打ち初めから即立ち上がるカウンターはダウンカウンターでできるのではないかと思い、構成を考えます。考え方として、その人の癖で短点が長めの人も短めの人も打ち始めで立ち上がり、全体100%の内、40%~60%程度可変して立ち下がるよう調整することにします。
次の図がその回路で最初に考えたものより簡単になりました。
手元にアップダウンカウンターの74HC191がありましたのでこれを使用します。74HC191は16進カウンターなので0-15-14-13にようにダウンカウントします。短点の幅を調整するため74HC191のダウンカウントのスタートでフリップフロップ74HC74をセットし、全体の半分程度の周期でリセットすると短点の幅を調整できることができます。
もし短点を50%デューティにするならダウンカウントが7になった時にリセットすればいいのですが、デューティの幅を狭くするには9、8を、デューティの幅を広くするには6、5を選択すればいいことになります。
このため74HC191をダウンカウンターに使い、その出力をBCDデコーダー74HC4028でデコードして9~6を取り出してスイッチで選択します。74HC4028はBCDデコーダーでカウンター74HC191は16進なので74HC4028の入力には16進の9以上のA~Fの信号も入りますが74HC42はこれらの信号をデコードしないので大丈夫です。
74HC191が0でスタートすると最初の信号入力で出力は16進Fに変わり、その時RCOより信号が出力され、この信号でIC4Aのフリップフロップをセットします。その後カウントが進み出力9~5をスイッチで取り出してCLKに入力してリセットします。つまりダウンカウンターの立ち上がりでセットし、デコーダーの出力でリセットすれば短点のデューティ可変の発生器ができます。
カウンターは16進のため16倍の速度のクロックが必要で、発振器は250Hz~35Hz程度になりますが、ロジックの発振器で必要範囲を一度に可変できることを確認できました。
このクロック発生回路はIC1A~IC1Cで動作し、その周波数は1/(2.2 x C x R)で決まり、実際には1/(2.2 x (R3+R36) x C36)となって最大で252Hz、最小で35Hz位になるはずです。操作していない時は、IC1Dの出力がLとなってダイオードD5でグランド側に落とされて発振は停止しています。また、IC2のLOADがLのためIC2出力の全ビットはLになっています。短点のパドルを押すとIC1Dの出力がHとなってクロック発生器の発振が始まります。その後の動作はチャートをご覧ください。
これらの回路で最初に考えていたよりいくつか修正が必要になりました。親指の短点の操作が出力の符号より短いとクロック発生器が途中で止まってしまいます。このため一度クロックが始まるとその短点が終わるまでロックするようにIC2のMAX/MINの信号でIC6Cをスイッチしました。また最初の回路では、操作の途中でIC4Aの出力QがHになったままとなることがあるのでIC1Dの出力でリセットして必ずLで終わるよう変更しました。(出力QがHで送信符号が出ます)
電子式バグキーでもモニターが必要で、私の好きな周波数600Hzの発振器はIC5A~IC5Cで作りIC6Aをキーイングしてイヤホンで聞くことにしました。この発振器はクロック発生器と同様なロジック回路で周波数は1/( 2.2 x C x R )で決まり、R38を100kΩにするとCは7.6nF位になります。こんな容量は市販品にはないのでC38の6.8nFとC40の820pFを並列に使います。この発振出力をIC6Aの74HC08でキーイングして出力します。
この回路はいつものように蛇の目基板で作りました。チップ型ICとチップCRを蛇の目基板に取り付けて配線はビニール被覆の単線で行いました。DIPのICと普通のCRで組み立てても問題ありません。
このユニットは部品屋さんで買ってきた84mm x 54mm x 34mmのプラステックケースに入れました。端点のデューティを変えるスイッチやクロックのスピードを決めるVRなどの表示はプリンターで印刷できる透明フィルムで作ったものです。
ユニット左から上、前、横
実際に動作させて波形を測定すると、R36を回して短点の最小周期が60msで1分間の文字数にすると200文字/分になり、順次角度毎の周期を測るとR36の最大値で25文字/分になりした。最初のR36の値は100kΩにしていましたが実験の結果半分の値で良いことになりました。
短点のデューティを切り替えて打ってみましたが、無理な癖を強調する必要はなく、やはり50%が一番良いように感じられたため、短点のデューティ切替スイッチは必要ないかも知れません。
無線機側のキージャックは6.3φのものが多いと思いますが、このユニットに装着するには6.3φのジャックは大きすぎるため、入出力は3.5φのものにしました。このため変換コードを用意しました。
実際の使用感としては、エレキーの使用を止めてまでバグキーを使用するメリットは感じられませんでしたが、TU(- ・・ -)のような符号で長点を意識的に長くして気持ちを伝える打ち方があるようなので、この様な場合はバグキーの意味があるかと思います。興味ある人は参考にしてください。
楽しいエレクトロニクス工作 バックナンバー
- 第89回 温度/湿度計
- 第88回 CWスピード
- 第87回 雨量計
- 第86回 IC-705用電源
- 第85回 デジ簡と特小のリンク
- 第84回 エレキー
- 第83回 スピーチコンプレッサー
- 第82回 長波JJY受信機
- 第81回 3.5MHzアンテナ
- 第80回 シニアスピーカー
- 第79回 バッテリーアイソレーター
- 第78回 F2A発振器
- 第77回 DDSの動作
- 第76回 マルチチェンジャー
- 第75回 ハンディ無線機用電源
- 第74回 NAVTEX
- 第73回 多用途タイマー
- 第72回 周波数誤差検出
- 第71回 ワイヤレス充電
- 第70回 警報付電圧計
- 第69回 分配器
- 第68回 半田ごてタイマー
- 第67回 可変アッテネーター その2
- 第66回 アンテナマッチング回路
- 第65回 AM受信機
- 第64回 2バンドアンテナ その2
- 第63回 2バンドアンテナ その1
- 第62回 ドライバーSG
- 第61回 144MHz→50MHzダウンコンバーター
- 第60回 音声帯域モデム
- 第59回 位相方式SSB (その2)
- 第58回 位相方式SSB (その1)
- 第57回 AMトランシーバー
- 第56回 グリッドディップメーター
- 第55回 低周波発振器
- 第54回 スイッチトキャパシターフィルター (SCF)
- 第53回 SWR計 その2
- 第52回 SWR計 その1
- 第51回 コードレスキー その2
- 第50回 2トーン発振器
- 第49回 スペクトラム拡散通信 その2
- 第48回 スペクトラム拡散通信 その1
- 第47回 ワイヤレスハンドマイク
- 第46回 自動アンテナ切替器
- 第45回 CI-Vターミナル
- 第44回 案内放送
- 第43回 PEP パワー計
- 第42回 容量計
- 第41回 コードレスキー
- 第40回 電子バグキー
- 第39回 お酒沸かし
- 第38回 電圧給電アンテナ
- 第37回 パルスジェネレーター
- 第36回 インピーダンスブリッジ
- 第35回 GPS その3
- 第34回 GPS その2
- 第33回 GPS その1
- 第32回 鹿おどし
- 第31回 続CW復調改善 その2
- 第30回 続CW復調改善 その1
- 第29回 CQコールマシン
- 第28回 PINダイオード
- 第27回 可変アッテネーター
- 第26回 誘導無線アンテナ
- 第25回 CW復調改善
- 第24回 1.2GHz受信用プリアンプ
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- 第17回 太陽光発電で無線をしよう! その3
- 第16回 太陽光発電で無線をしよう! その2
- 第15回 太陽光発電で無線をしよう! その1
- 第14回 0-V-1 その2
- 第13回 0-V-1
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- 第11回 周波数カウンターの製作 4
- 第10回 周波数カウンターの製作 3
- 第9回 周波数カウンターの製作2
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- 第7回 送信機2 (最終回)
- 第6回 送信機
- 第5回 HF受信機3
- 第4回 HF受信機2
- 第3回 HF受信機
- 第2回 無線通信機の構成
- 第1回 ゲルマラジオ