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楽しいエレクトロニクス工作

第60回 音声帯域モデム

JA3FMP 櫻井紀佳

パーソナル無線が流行っていた頃に手に入れたモデムICが多数残っていました。パーソナル無線は、通信を始める前に空いているチャンネルを探し、その情報を相手側に伝え、空いているチャンネルに同時に移って通信するシステムです。

このチャンネル情報を伝えるために、音声帯域内で働くシステムとそのMSKモデムICが各社から開発されそれぞれのパーソナル無線機に搭載されていました。このモデムIC、ソニーのCX23086を多数持っていたため、今回音声帯域でデータを送るモデムを実験してみることにしました。


完成したユニット

このユニットの全体の構成図は次のようなものです。

データ信号を送る場合、何らかの変調をかけて送りますが少し整理してみます。一番簡単な方法はデータ信号でキャリヤーをスイッチする方式でASK(Amplitude Shift Keying)と呼ばれ昔から使われている電信と同じです。


ASK

ASKは雑音が入ると、その雑音を信号と間違えて誤動作することがあります。より誤動作が少ない方式がFSK (Frequency Shift Keying)です。


FSK

FSKはデータ信号の「1」と「0」でキャリヤーの周波数を切替えて変調します。実際にはこの図のようにデータ信号の切替え点とキャリヤー信号が同期するタイミングは少なく、キャリヤー信号の振幅の途中で切り替えることが多くなります。

この場合、切替え時点で振幅と位相が大きく変化するため、変調後の帯域が広がってしまいます。帯域が広がると隣の周波数で行われている通信に妨害を与えることになり、これは出来るだけ避けなければなりません。これを改善したのがMSK(Minimum Shift Keying)です。


MSK

MSKはデータ信号が切替わる時間内にキャリヤーの位相を-90°または+90°に切替えるため変化が緩やかで帯域があまり広がりません。

その他、データ信号を変調する方式はPSK(Phase Shift Keying)、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)、BPSK(Binary Phase Shift Keying)、QAM(Quadrature Amplitude Modulation)等色々ありますが、今回は音声帯域内で使えるMSKに絞って検討してみます。

パーソナル無線のデータ信号は送信キャリヤーに直接変調をかける方法ではなく、音声帯域内のサブキャリヤーに変調をかけて音声信号として送る方法で、特性上音声帯域内でデータ信号を送る必要がありMSK方式が選ばれたようです。

今回使ったMODEM ICはこの用途に絞られた特性で外付け部品も少なくよくできたICのように思われます。IC内部のブロック図は巻末の資料のような構成ですが、変調部、復調部の動作は次の図のようになっています。

この図の左端の記述がICの端子を表しますが、変調部出力はMSKOUTです。この出力のレベルを合わせて送信機の変調端子に入力します。

また、復調部の動作は次の図のようになります。

このICの原発振は3.6864MHzですが、分周してデータ信号がL (0)の時には1.8kHz、信号がH (1)の時には1.2kHzとしてMSKで出力します。もちろん受信時にはその逆で信号を復調します。

実験した実際の回路は次のようになりました。


このICを使った回路をプリント基板に組立てましたが、無線機の付属回路として動作させるためICOMの無線機のアクセサリー端子に接続するように、巻末に示したレベルなども合わせるようにしました。電源もアクセサリー端子ピン8の13.8V出力から取り、3端子レギュレーターで5VにしてIC1 CX23086に供給します。

実験の基板は1.25mmピッチの穴明き基板に組立てます。比較的部品の数も少なく、半田付けのフリッジに気を付ければ簡単に仕上がります。

送りたいデータ信号は、このICのDATAIN端子にロジックレベルで入力してMSKOUTより信号を取り出します。この出力電圧は1.0Vp-p(typical)でRMSに直すと283mV程度になり、無線機のアクセサリー端子ピン11 MODの入力電圧が100mV(RMS)となっているので、出力側のR5で調整できるようにしました。

また、無線機のAF信号はアクセサリー端子ピン12より100mV~350mV(RMS)で出ており、IC側のピン11のBPFINの入力最小値が1.0V(p-p)でRMSに直すと283mV程度となるため、特にアンプで増幅せずそのまま繋いでも動作するのではないかと考え、直結することにしました。

今のところ、何のデータを送るか具体的な予定はありません。実験的な機器のデータを送るなどが考えられますが、アマチュア無線機だけでなく特定小電力無線機など他の用途もあると思います。付属装置として使う場合、無線局種によって免許の変更申請の必要性を確認してください。

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次号は 12月 1日(木) に公開予定

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