2016年1月号

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連載記事

楽しいエレクトロニクス工作

JA3FMP 櫻井紀佳

第32回 鹿おどし

山の中にある私のシャックのまわりには鹿がよくでてきます。花や植木はほとんど鹿に食べられてなにも育ちません。まわりに花も木もないのは殺風景なので鹿が食べない植物も色々調べてみましたが、私が気に入った花や木は少なく、なんとか我慢できるものは馬酔木(アセビ)くらいしかありませんでした。このため鹿侵入防止のため電気柵と音声での鹿おどしを作ってみようと考えました。

1.電気柵

最近電気柵での死亡事故も起きていますが、その原因は100Vをトランスで400Vに上げてそのまま使っていたようで、安全面では論外のように感じます。報道では漏電防止がなかったことが原因のように書かれていましたが、100Vから漏れて抜けるのが漏電であり、この例ではトランスの絶縁がよければ漏電防止が全く役立たないことや、漏電が原因ではないことが一般に理解されていないようです。

私は感電が極端に嫌いながら過去の真空管の時代にはよく感電しました。体験的には1mA以下ではビックリする位で済みますが、10mAを超えると冗談では済まない感触となり、100mAを超えると生死に関係すると思います。幸いにも私は100mAを超える感電の体験はありません。

最初は100Vでも結構ビリッと感じるので、100V以上にすれば鹿も寄りつかないのではないかと考え、そのようなものをつくりました。その回路は次のとおりです。

IC6AとIC6Bで発振させます。R4、C5で信号を遅延させIC6Dで反転させます。IC7DでそのANDを取ると幅の狭い波形が得られます。その波形をQ2の2SK811に入力し、トランスで昇圧して出力します。

トランスは100Vから6Vに落とす普通の小型トランスで、これを一次側と二次側を逆に接続して昇圧します。パルスの幅を狭くすることで実効電流を下げ、一般の静電気ショックのような感じにします。今回使った4000シリーズのCMOSの最大電源電圧は18Vのため出力のFETも含めて12V系の電圧がかけられます。

出力側には安全のため220kΩを直列に入れていてこれで電流を制限しています。


トランス形ユニットと出力波形

この回路で適当に水道用の塩ビパイプを地面に打ち込んで大地と絶縁し、ステンレスワイヤーを張ってこのユニットの出力を接続しました。また出力の反対側は地面にアースを打ち込みそれにつなぎました。完成後はまず自分で体験すべきかも知れませんが、どうしても感電が嫌で体験できませんでした。

ところが数100Vでは鹿に全く効かないことが分かりました。その後農業用の電気柵を調べてみると6000V以上であることが分かりました。これは長い電気柵では途中で草などが接触して電圧が下がることも考慮した電圧のようです。私のシャックの周り数10m程度ではここまで電圧は要らないように思われますが、この回路ではそんなに高い電圧にはできません。

普通のトランスでは1000V以上に昇圧することが難しいため、古いブラウン管テレビのフライバックトランスを使うことにしました。最後のブラウン管テレビを廃棄した時、何かに使えるだろうと思い取り外して取っておいたものです。

普通の鉄心のトランスに取り替えてフライバックトランスを使うと高圧側に数kVの電圧がでてきました。フライバックトランスの高圧側は内部にダイオードが入っているようで極性が逆では電圧が出てきません。オシロスコープでは測定範囲が最大1000Vなので、出力側を抵抗で分圧して測定範囲に入るようにして電圧を逆算したところ、約5000Vでした。


フライバックトランスと出力波形

電圧を約5000Vにアップしましたが、出力に電流制限用の抵抗を入れていることと、パルスの幅が狭いため、たとえ人が触れても、静電気でピリッと感じるのと同程度で、安全面には問題ありません。

ただし、もし同様なものを作られるのであれば、何も知らない人が触ってビックリされては申し訳ないので、所々に「高圧注意」の注意書きをつけておいた方が良いと思います。

2.電子番犬

電気柵以外にも鹿に効果あるものはできないかと、電子番犬とも言える方法を考えました。自宅の近所にものすごく吠える犬がいて気になっていたのですが、その鳴き声を録音して鹿が近づいてきた時にスピーカーで鳴らして追い払うという発想です。

この犬の吠える声の録音と再生は、連載第29回の「CQコールマシン」に使ったISD1016のICを使いました。機器としては少し古いですが録音再生できるカセットレコーダーに犬の吠える声を録音してIC回路に移し替えました。

この回路は次のようになりました。

カセットレコーダーからMic端子に入力し、Speaker端子にスピーカーをつなぎ、J5のコントローラー端子よりコントロールします。このスピーカー出力だけでは音量不足なので外部にアンプ付きスピーカーを繋いでいます。


ユニットとプリント基板

鹿の検出器は、ずっと昔に他の用途で手に入れたものですが、人でも動物でも検出するコントローラーを使いました。検出には赤外線を使っているようで、昼間の明るい時でも動作します。このコントローラーは鹿等を検出すると出力端子をグランドに落とす出力のため、J5の端子3、4がアースに落ち、Q1が導通して電源が入ります。電源が入ると再生がスタートして犬の吠え声が出ることになります。

待機時はこのコントローラーだけに電源が入っており、他の部分は電源が入っていないので節電になっています。


コントローラーとその銘板

鹿の検出にはこのコントローラーの他にも、電池式で人が近づくとLEDが点灯するのも利用できます。また、防犯用に人に反応してランプやLEDが点灯するセンサーライトも市販されています。もしこれらの点灯部分が故障しても、検出部分が残っていれば流用できます。


LEDランプセンサーの例(検出部の蓋が破損)

今回は、電気柵と電子番犬を作ってみましたが、今のところ効果があるように感じられ、食害は減少しています。鹿も敏感で人の気配を感じると近寄ってきません。シャックがあるこの場所には1週間に1度行くだけですので、鹿が電気柵に触れたり、電子番犬でビックリして逃げたような現場はまだ目撃できていませんが、もし同様な環境の方の参考になれば幸いです。

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