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楽しいエレクトロニクス工作

第52回 SWR計 その1

JA3FMP 櫻井紀佳

アマチュア無線を運用しているとアンテナとフィーダー(同軸ケーブル)のマッチングが気になるものです。なお、最近の市販の無線機の出力端子のインピーダンスは50Ωになっているものが多く、50Ωの同軸ケーブルを使用することで、出力端子とフィーダーとのマッチングについては特に気にすることはありません。

アンテナと同軸ケーブルのマッチングはSWRメーターで測ることが多いと思います。SWRメーターは多種市販されており、価格も手頃でわざわざ作る必要はないかも知れませんが、測定器の構造と原理を知る意味で方向性結合器を今回検討してみます。


完成した方向性結合器

市販のSWRメーターには色々な方式があるようですが、一番基本的な方式である進行波と反射波を取り出す方式に興味があるので、この方向で検討を進めます。

次の図は同軸型の伝送回路で、進行波と反射波を取り出すCM結合と呼ばれる方向性結合器の構造です。

方向性結合器は、内側と外側の導体の電界の方向が進行波と反射波で同じであることを利用します。また一方、同軸線の内側導体周りの磁界の方向は進行波と反射波で反対の方向になります。

RF信号のアンプから負荷へのパワーの流れは内側と外側の導体間の電界と磁界に現れ、ここの微小電界は内側の導体からカップリングループの結合片間に容量結合(C結合)されます。グランドからの電圧をこの部分で決め、両方の抵抗Rを通してRF電流が流れます。結合容量による進む向きの電圧は両側のポートで等しくこれを+Vcとします。

進行波は右回りの磁界を発生させ、この磁界は内部導体と外部導体の間にもできて結合ループにも誘導(M結合)します。結合片と2つの抵抗を通してGNDに繋がるループの閉回路に磁束は電流を誘発します。この電流はポート1に正の電圧Vmを発生させます。

ポート2の抵抗を流れる電流とポート1の抵抗を流れる電流は逆向きで、このためポート2の抵抗に負の電圧-Vmを発生させます。VcとVmの電圧と位相が同じならポート1の電圧は2倍になり、ポート2の電圧は0となります。

伝送線路のインピーダンスと負荷が完全にマッチングしていると進行波のみになり反射波はありませんが、マッチングしていていないと出力端で反射が発生し、反射波が返ってきます。
この反射波によって進行波とは全く逆の動作となりポート2に比例した電圧がでることになります。ポート1とポート2の電圧を使えばSWRメーターを作ることができます。

CM結合のユニットを同軸ケーブルで作ってみようと思います。適当に考えたのでうまくいくかどうか自信はありませんが、加工のしやすさを考えて10D2Vの同軸ケーブルで作ることを考えました。

10D2Vの同軸ケーブルを30cm位に切り外皮をカッターナイフで縦に切り目を入れて剝取ります。すぐ内側の網目の外部導体を傷つけないよう注意が必要です。

外部導体の網目の真中からほぼ対称に10cm程度の位置にマジックインキで小さなマークを付けておきます。外部導体の網目を両側から中ほどに寄せると緩み、中の誘電体と内部導体を引き抜きます。

マークを付けた網目を少し中央に寄せて小さな穴を開けます。そこへ1.5D2Vの同軸から取り出した芯線を両側へくぐらせて、それを結合片として使用します。その後、引き抜いていた10D2Vの誘電体と内部導体を外部導体の網目の中に入れて元に戻します。これで同軸型のCM結合ができたことにします。結合片に1.5D2Vの芯線を使ったのは50Ωに近くなるのではないかとの配慮です。

外皮も元に戻した状態でその外側から熱収縮チューブを被せ熱湯をかけて収縮させます。この時、中の網目の外部導体まで熱湯が入らないよう特に注意が必要です。万一、網目のため水が入ると完全に取るのが困難で網目の錆の原因になってしまいます。

10D2Vの両側にM型コネクターを付け、結合片の両端にもSMAのコネクターを付けました。SMAコネクターの取付は銅板で金具を作り10D2Vのコネクターにネジ止めすることにしました。その部分は次の通りです。


両端の詳細

出来上がったCM結合器にトラッキングジェネレーターを繋いで測定してみました。10D2Vの負荷側に50Ωのダミーロードを付け、結合片の給電側Rmには100ΩのVRをつけて負荷側にアナライザーの入力を接続して結合度を測ってみました。

トラッキングジェネレーターの出力は0dBmですが、その結果は次のようになりました。


測定結果

最初に進行波を測定し、その後結合片の負荷Rmとアナライザー入力を入れ替えて反射波を測定します。結合片に接続したRmに100ΩのVRを使って進行波と反射波の差が一番大きくなるよう調整します。結果は進行波が-40dB位、反射波が-60dB位になり、その差は20dB+程度になりました。この状態ではSWRが 1.2以下は測れそうにありません。

このCM結合は進行波も反射波も周波数に依存してレベルが変わりますが原理的なもので仕方がありません。

最初に予想していたより結合度が低く出力50Wの送信機で進行波の検出が最大でも0.5V程度でした。反射波は0.05V以下になりダイオードで検波するのが困難です。これでは普通のSWRメーターを作れそうにありません。

10D2Vの同軸の負荷を50Ωから100Ωに変えて測定すると次のようになりました。これですとSWRは2.0のはずで反射係数は計算上9.5dBなので比較的近い数値が読み取れます。


負荷50Ωと100Ωの特性

当初は進行波と反射波の電圧をダイオードで検波整流して、その電圧を利用したSWRメーターを予定していましたが、方向性結合器の結合度が低く、この性能では少し無理があり今回はあきらめることにしました。特にHF帯のことを考えて方向性結合器を長めにしてみましたが、結果的にHF帯で使えそうな特性にはなりませんでした。
改めて別の方法を考えることにします。

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