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楽しいエレクトロニクス工作

第83回 スピーチコンプレッサー

JA3FMP 櫻井紀佳

アマチュア無線の運用では、できるだけ遠方へ安定して電波を飛ばしたいと思うことが多いと思います。そこで、SSBモードで実質的な電力を上げることで、その要望に近づけたいと思いスピーチコンプレッサーを考えてみました。

音声信号はピーク値と平均値の比が大きくピーク値で電力制限がかかると平均値はずっと下がってしまいます。


音声の波形

そこでピーク値を少し削ったり圧縮したりして全体的に平均値を上げて通信するのがスピーチコンプレッサーです。ピークを加工すれば当然波形が変わるため歪が発生します。スピーチコンプレッサーを使用する際には、歪と平均電力の増加の妥協点を調整して運用することになります。

音声信号のピークを削る方法は色々ありますが、今回は一番シンプルにダイオードを直接使ったものを考えてみます。シリコンダイオードの順方向特性を見てみますと常温の25°では0.6V付近に境目があり、手元にあった1S2787の特性は次のようになっています。


このダイオードを使った信号のピーク値を切り取る簡単な回路で実験してみました。


信号入力のピークがダイオードの順方向電圧になるまではそのままオシロスコープに現れますが、それ以上の電圧ではダイオードでクリップされます。その波形は次のようなものです。


信号が小さい時 (左入力、右出力)


信号が大きい時 (左入力、右出力)

信号入力の電圧が低いとそのままオシロスコープ側に出ますが、電圧が上がるとクリップされて抑圧されていることが分かります。実験回路ではダイオードに流れる電流が下がり、順方向電圧が0.5V程度になり、信号は1Vp-p程度になりました。ダイオードの特性図で分かるように温度が変わるとクリップする電圧は変化しますが普通常温付近の使用状況ではあまり気にならないと思います。

これを使ったスピーチコンプレッサーの回路は次のようになりました。


Mic端子より入力された信号はR6のVRで入力レベルを調整してIC1Aで27dB程増幅されますが、R6のVRでダイオードにかかる音声電圧が変わることになるため、結局このVRでクリップするレベルを決めることになります。

これらの回路はIC電源が単電源のため、電源の中点を基準にする必要があり、R4とR5で中点を作りIC1Aの非反転入力の+端子に与えています。従ってIC1Aの出力も中点を基準に動作するため、R3、D1、D2の振幅制限回路もダイオードの基点を電圧中点にしています。IC1Bはダイオードにできるだけ負荷をかけないためのバッファー的アンプです。

振幅がクリップした信号は少し歪み、同時に多くの高調波が出てしまいます。音声の不要な高調波は電波の帯域を広げるため、隣接した運用局に迷惑がかかります。そのため高調波は取り除く必要があります。送信機には通常、帯域制限の回路が入っていると思いますが念のためこの回路にもLPFを入れておきます。

IC2AとIC2BおよびR9~R13とC5~C10で構成される回路はアクティブLPF回路で、3.1kHz以上の不要な高調波を落としています。カットオフを3.1kHzに選んだのは少し帯域を広くしておきたかったのと、既に使っていた回路をそのまま利用したかったためです。

その特性をシミュレーションした結果は次のようになっています。


このスピーチコンプレッサー回路は、元々ゲインは必要ないのですが信号処理上ゲインのある部分があり、クリップしたレベル約1V p-pを最終的にR14とR15でマイクレベル近くに調整して出力しています。電源は3端子レギュレーターのICを使っています。そのICの入力電圧は10V~15Vで、出力は5Vで安定に動作します。

これらの回路は52mm x 70mmの穴空き基板に部品を取り付けました。部品配置を適当にしたため少しアンバランスで美しくない配置になってしまいました。


組み上がった後チェックすると最初の実験と同様に1V p-p位でピークがクリップしており一応目的どおりに働いていることが確認できました。

今回作ったユニットは、この連載の「第76回 マルチチェンジャー」に組み込んで使ってみようと思います。

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