2013年8月号

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連載記事

楽しいエレクトロニクス工作

JA3FMP 櫻井紀佳

第3回 HF受信機

3.2 局部発振器

このICには元々局部発振用の素子も組み込まれています。この素子を使って局部発振回路を作ります。コイルとコンデンサーを使った発振回路はいくつかの方法が知られています。ハートレー回路はコイルにタップをだす必要があり、作るのが面倒なのでクラップ回路で作ってみます。次の図は発振器の一例です。昔は受信機も送信機もこのような回路のVFO (Variable Frequency Oscillator)と呼ぶ自励発振器を使っていました。

IC内部の素子を使って局部発振回路を作ってみます。素子のベースのバイアス電圧やエミッター抵抗などは内部で処理されているので、コンデンサーとコイルだけ接続すればいいことになります。今回はバリコンを自作する訳にはいかないので、部品屋さんかネットの通販でポリバリコンを購入します。実験したものは古い手持ちのポリバリコンですが容量は270pFでした。インターネットで調べても同様なものが販売されています。

バリコンを回した時、理想的には上の方でも下の方でも回転角と周波数の変化が比例した周波数直線となった方が使いやすく理想的です。昔のバリコンで周波数直線型と言うものもありました。

この回路でEXCELを使ってシミュレーションしたのが図のようなカーブになっています。今回の受信機は7.000MHz~7.200MHz(局部発振は6.545MHz~6.745MHz)まで、できれば周波数直線の方がいいのですが、そのようにはできませんでした。

コイルはフィルターのコイルと同様に作りますが、今度はインダクタンスが少なく9.3uHとなっています。フィルターと同じように作り巻数は29回になりました。この部分だけを先に実験するため、トランジスター2SC1815を使って実験してみました。


実験した局部発振回路

3.3 中間周波フィルター

アマチュア無線を聞く時、沢山出ている局の中から聞きたい局を1つだけ選んで聞くのが理想的です。1つの局の周波数帯域はSSBでは音声帯域と同じ300Hz~3kHzのためフィルターの幅も3kHzのものが欲しい所です。しかし、今作ろうとしている中間周波数が455kHzのフィルターで手に入りそうなものは、ラジオ用がほとんどでSSBを受信するのにマッチしていません。本当は通信用のセラミックフィルターが欲しいところですが、ラジオ用のものを使えばどうなるか考えてみましょう。

今回買ってきたものはラジオ用のフィルターの幅が10kHzのもので、もし真ん中の周波数にキャリヤーの位置を合わせてSSBの信号を受けると、真ん中より上側の目的としない混信エリアの信号も入ってきて妨害になります。これは復調すると目的信号と同じ低周波となるので後で分離できません。

そこで信号を受ける時にフィルターの上側に合わせて受信すると、妨害となる目的としない混信エリアの信号は3kHzより上の周波数になるはずで、低周波のローパスフィルター(LPF)をうまく作って3kHz以上を落とせば使えるかも知れません。しかしこの小さなセラミックフィルターは帯域外の特性がこの図のようにきれいに落ちている訳ではなく、ダラダラと減衰しているので460kHz以上の不要信号も受けてしまう可能性が大です。取りあえず性能は十分ではないと思いますが、とにかくSSBの信号を受信できることを目標にしたいと思います。

3kHz以上を減衰させるOPアンプを使ったローパスフィルターのシミュレーション特性は次のようになっています。


3kHzから上の周波数をカットするLPF

IFフィルターの選び方や使い方も普通の無線機の設計ではやらないイレギュラーな方法ですが、現在では本当に欲しい特性の部品が簡単に購入できないので多くの人が部品を手に入れて作れることを主眼にしました。この点はご容赦下さい。

今回、周辺の回路や部品の検討をしましたが、長くなってきましたので続きは次回にしたいと思います。

■フィルター
周波数的に信号を分離する機能がフィルターですが、次の4種類に分類することができます。
・LPF (Low Pass Filter)
希望する周波数より下側の信号を通すフィルターです。

・HPF (High Pass Filter)
希望する周波数より上側の信号を通すフィルターです。

・BPF (Band Pass Filter)
希望する幅の周波数帯を通すフィルターです。

・BRF (Band Reject Filter)
希望する幅の周波数帯を阻止して通さないフィルターです。

これらのフィルターの機能を果たすため、コイルやコンデンサーで作るものをパッシブフィルター、ICやトランジスター等能動素子を使うものをアクティブフィルターと呼んでいます。

■無極フィルター
無極フィルターの設計によって作った定数とシミュレーション特性です。シミュレーション上はいい特性になっていますが、並列に入っているコンデンサーの値が大きく、この値では特性のいいコンデンサーが見つかりません。また並列のコイルはインダクタンスが小さく、Qが取れません。従ってシミュレーション上はいい特性なのに実際に作ると満足する特性にできません。

■OPアンプ(オペレーショナル・アンプ)
理想的な増幅器(アンプ)があれば使いやすく機器の設計も楽にできます。理想的な増幅器とは、ゲイン∞、入力抵抗∞、出力抵抗0、周波数特性∞と言ったようなものです。必要な要素は他にもありますが、この理想的な増幅器に近づけたのがOPアンプです。まだまだ理想に近いとは言えませんが段々性能も向上しています。

このOPアンプを使うと増幅器はもちろん、発振器、アクティブフィルター、アナログ演算器など多くの回路を作ることができます。+を入力すると出力が+になる非反転入力と、+を入力すると出力が-になる反転入力の入力端子があります。回路図もシンプルで保証範囲内の設計に必要な計算もシンプルにできます。多くの種類のOPアンプが入手可能でこれを使った何かに挑戦してみてください。

■デシベル(dB)
信号のレベルや増幅器のゲインなどは、比率を倍数ではなく対数を利用したデシベルで表すことが多く、またこの方が便利です。このデシベルは電力比を基本としていますので、電圧や電流の比では負荷抵抗が同じであれば電圧や電流が2倍になると電力は4倍になるため見かけ上の計算は異なります。なお、基本的にはベル(B)なのですが、ベルではピッチが粗すぎて使いにくいため、その1/10のデシ(d)をつけて使っていて、今では(dB)が1つの単位のようになっています。

増幅器の場合
dB = 10*Log(出力電力/入力電力)   B = Log (出力電力/入力電力)
電圧では
dB = 20*Log(出力電圧/入力電圧)   B = 2*Log (出力電圧/入力電圧) 

・dBm(通称デービーエムとよく言われます。インピーダンスは50Ω)
1mWを基準としてその比率を対数で表すのがdBmです。例えば10Wの送信機は
10*Log(10W/1mW)= 40dBm
受信機で受信できる一番弱い信号は0.1μV程度ですが、50Ωの電力にすると

(0.1-6)2/50 = 200-18W これをdBm表示では10*Log (200-18W/1mW) = -127dBm

■インピーダンス(Z)
電気回路では電圧、電流、抵抗が分かれば電力も計算できます。直流回路ではこれだけで計算できますが、交流回路では単なる抵抗(R)だけではなくコンデンサー(C)やコイル(L)も計算に加えなければ計算が合いません。直流回路では電圧と電流の位相など考える必要はありませんが、交流回路では、コンデンサーで電圧より電流の位相が進み、コイルで逆に電圧より電流の位相が遅れます。

抵抗のつもりで作った部品もリード線によってLの性質も加わり、また対向した電極間のCも加わります。このように交流回路、特に高周波回路ではこれらの特性が顕著になります。このような交流回路の合成された抵抗分をインピーダンスと呼んでいます。

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